ファイルNo.1 パンドラボックス 46
それが、殺人鬼に身を堕した兄に対して、自分ができるせめてものことだと、考えたようだ。
アンジもそう思っていた。犯行は弟の手によるものだと。
猟奇殺人犯の場合、現行犯ならその場で射殺、逮捕されても死刑が確実だった。
だから、他の誰かに殺されるぐらいなら、この手で弟を仕留めるのが、兄である自分の務めだと思っていた。
――俺が、リッパーなのか。
足元に、アンジに選択を迫るかのように黒光りする銃がある。
――お前をリッパーと仮定すれば、全ての謎に答えが出る。
――俺は、弟まで……
アンジは、足元に滑ってきた銃を拾う為に、身を屈めた。
銃を構えようとした同僚を、上司が止める。
アンジが豹変して、同僚に向けて銃を乱射しないと、信じているのだ。
アンジは、手にした銃の重みを確かめるように、手の平に載せている。
巴の手の平にあるのは、銃ではなくゲームのコントローラーだ。ただ、それが二者択一を決める唯一絶対のものだった。
「箱の中には死体がある。それは、僕が殺した死体だ」
巴が手の平を見つめて、ぶつぶつと呟いている。
「巴君。巴君。しっかりして、あなたまで暗示にかかってどうするの。違うでしょ。よく考えて」
愛美は異常を感じて、巴の肩を軽く揺すった。
巴は激しく頭を振って、コントローラーをとり落とすと、自分の顔を両手で被った。
「分からない。分からないんです。パンドラの箱の中には死体がある。開くから、駄目なのか、開かないことが死に繋がるのか、分からない」
巴は、錯乱の一歩手前だった。
綾瀬が言っていたのは、これなのか。愛美は愕然とする。
繰り返し、送りつけられる鉄の箱を、アンジは幾度も開き、その度に死体のパーツを目にしている。箱の中には死体があるという観念が、植え込まれてしまっているのだ。
だが、愛美は暗示にはかかっていない。ずっとこのゲームを見ていた訳ではないからだろう。
主人公のアンジは、追い詰められ追い詰められ、今、最後の選択を迫られている。
アンジが死を選べば、巴の自我の崩壊に繋がるかも知れない。
自殺を選ぶということは、巴自らも死を望むということだ。
だったら箱は開くべきなのか。
しかし、開いてミッシェルの首があれば、巴はまず間違いなく、崖からつき落とされるだろう。
「開けちゃいけない。開けたら、見たくないものを見なきゃいけない」
巴はコントローラーを拾い上げた。そして、
「犯人は僕だ。罪を償う為に、僕は死ぬ」




