ファイルNo.1 パンドラボックス 45
――したさ。鑑定結果は、お前も知っての通り、判別不可だ。しかしリッパーの綴りがRではなくLだったこと、お前はRの大文字を書く時、独特の書き方をする。だから、Lにしたんだろう。精神がイカれていても、そういう知恵はあるらしい。そうじゃなかったら、もっと早くにお前を逮捕できていたんだがな。
扉が開いて、一人の刑事が駆け込んできた。腕に抱えているのは、黒い鉄の箱だった。
――箱が、箱が警視庁前の植え込みに置いてありました。
その場にいた全員の視線が、アンジを貫いた。
――分かったか。凶行はまだ終わっていないんだ。お前の弟が犯人なら、どうやって箱が届くんだ。あの世からとでも言うか。
――嘘だ。あいつは俺がこの手で殺して。
――首を持ち去った。そうだろう。
アンジは、次第に追い詰められた表情になる。
――違う。きっと、もっと前から植え込みに置いてあったんだ。警察が知らないだけで、他にもリッパーによる被害者がいたんだ。
――残念。三十分ほど前に雨が降っただろう。ずっと箱がそこにあれば、それ自体濡れているだろうし、反対に下の地面は乾いていただろう。間違いなく、雨の後に箱は植え込みに放置されている。丁度、お前がここにきた時刻と一致しているな。その箱の中には、お前が殺して、切った弟の首が入っているんだ。
勝ち誇ったように、部長が鉄の箱を指差した。部下に合図して、箱をアンジの足元へと置かせる。
――開けてみれば分かる。自分がリッパーだという証拠がな。
――違う。俺じゃない。俺じゃない。
見ているとこちらまでが辛くなる。
アンジの心の叫びが、手にとるように感じられる。
分からない。覚えていない。俺なのか。俺がやったのか。父親が猟奇殺人鬼だったという血は、争えないということか。
死に至る病を宣告する医師のような淡々とした様子で、部長はアンジに最後通牒を叩き付けた。
――お前は、解離性同一性障害なんだ。せめてもの慈悲だ。俺達の手に掛かるより、自分で決着を着けろ。箱を開けて、猟奇殺人鬼として、俺達に殺されるか、自分の罪を知らないまま、アンジとして死ぬかのどちらかだ。判断はお前に任せる。
部長は、自分の銃を抜くと、床に置いて軽く爪先で蹴った。
――だが、リッパーは、いやミッシェルは、俺を殺すと言っていた。それは、なぜだ。
アンジの足元に、コツンと銃があたる。
――殺人鬼リッパーである、兄のお前を、自分の手で葬る為だ。




