ファイルNo.1 パンドラボックス 44
追っているのか、追われているのか。
雨が降っている。
全てを腐食させる雨が、街を二人を包んでいる。音は何一つないが、二人の息遣いさえ聞こえてきそうだった。
ラストシーンだ。
雨の中、再びまみえた兄弟は、敵として反目しあっている。
勝負は一瞬。どちらも後はないだろう。
緊迫感の漂う中、アンジは呼吸を整えるのに合わせるように数を数える。
5・4・3・2・1。ジャスト。
背にしていた壁を離れ、道の真ん中に躍り出る。
数メートル先に佇むのは、ミッシェルだ。互いが互いに、死神に見えたことだろう。
二つの銃口から火花が散る。
ミッシェルが放った弾丸は、アンジの肩を貫いただけだが、ミッシェルは心臓を撃ち抜かれて倒れた。
アンジは死んだ弟の側にゆっくり近付き、空を仰いだ。
アンジの顔を濡らすのは、雨かそれとも涙だったのか。
本当ならここで、エンディングの画面になり、ゲーム会社や制作者の名前などが、映画の表示のようにスクロールして終わり、最後にENDマークが出る筈だった。
だが映像は、続いている。
ゲームは終わっていない。
リッパーは死んだ。もう箱詰めのバラバラ死体が、届くこともない。
身の潔白と、弟の凶行を止める為とはいえ、ずっと生き別れになっていた身内を、この手にかけることになろうとは。
アンジの身体を、徒労感が襲っていることだろう。
アンジは警察に電話をかけ、ミッシェルを殺したが、出頭する用意があると告げた。
警視庁に現れたアンジは、肩の傷の手当がしてあった。
一旦、アパートにでも戻ったのだろうか。少し時間の経過があったようだ。
アンジは、暫く取り調べ室で一人きりにされた後、部長の前に引き出された。アンジの銃は勿論、取り上げられている。
――俺は填められたんだ。リッパーは死んで凶行が起こらなければ、俺の身の潔白も信じてもらえる筈だ。
部長の苦りきった顔が映る。
――では、お前は、ミッシェルの首をどうしたんだ。
――首? 俺は、あいつの心臓を撃ち抜いて、即死させた。
――ミッシェルの死体には、首がなかった。何者かによって持ち去られているんだ。
物語は、新たな展開を見せ始める。
明らかに、犯人である筈の弟を殺した時点で、終わりという従来のラストとは喰い違ってくる。
――犯人はお前だ。そうだろう。アンジ。いや、リッパー。
――筆跡鑑定で、どうせ壁の文字と俺の字も照合したんだろう。




