ファイルNo.1 パンドラボックス 42
一人はアンジで、もう一人は、
――兄貴。久しぶりじゃないか。俺のこと、忘れた訳じゃないだろ。
白いシャツに、ジーンズの男。
オープニングフィルムで、アンジと銃撃戦を行って、死んだ男だ。ゲームの導入部は、実は、最後のシーンとリンクするものだったらしい。
――ミッシェル。ミッシェルなのか。
この男がミッシェル。アンジの生き別れになった弟なのか。
そして、リッパーを名乗って、凶行を繰り返していたのか。
――兄貴を殺しにきたよ。ラストゲームだ。
二人の間には、女の死体が転がってる。まだ殺されて間もないのか、切り裂かれた四肢から、血が絶え間なく流れ出ていた。
犯行に使われたと見られる、丈夫なダガーナイフの刃が、血に染まって落ちている。
微かなパトカーのサイレンが聞こえた。ミッシェルは、
――命拾いしたな。
と言って、アンジをそこに残したまま、路地に消えた。
アンジは、金縛りにでもあったように動けなかった。
路地の外で、車の止まる音がして、同僚達が駆けつけてくる。振り返ったアンジに向かって、仲間の刑事達から、一斉に銃口が向けられる。
(どうなってるんだろう?)
――アンジ。貴様を、猟奇殺人鬼リッパーとして、現行犯逮捕する。
――違う。俺はリッパーじゃない。たまたま殺人現場に居合わせただけだ。
――貴様の部屋から、犯行の際に使われたのと同じ、鉄の箱が幾つも見つかった。もう逃げられないぞ。観念しろ。
――俺は填められたんだ。リッパーは、俺の弟だ。
アンジは、絶叫した。
同僚の手から、アンジは手錠をかけられるという屈辱に合う。引き立てられる罪人そのもので、アンジはパトカーに乗せられた。
「アンジは、警備の目を潜って、逃亡します。警察とミッシェルの両方に狙われながら、ミッシェルと決着を着けようと戦いを挑みます。失敗すれば、警察、またはミッシェルの手で殺されてしまうようです。そして、ラストシーン。オープニングフィルムに辿りつけば、ハッピーエンドという訳です」
巴がそう解説してくれた。
「それとは別の、ラストに辿りついた者は、作為か無作為かは分かりませんが、心理面に影響を受け、深い昏睡状態に陥るのでしょう。暗示やマインドコントロールではなく、昏睡状態に陥った人は、間違いなく、自分で死を望んでいます。昏睡からの衰弱死というパターンは、本人の意思による緩やかな自殺ですよ」
だったら、東大寺の助かる術はないのだろうか。
「開けてはいけないパンドラの箱を、開けてしまったんです」




