ファイルNo.1 パンドラボックス 36
エンジェル→アンジェラ→アンジュ→アンジ。アンジをローマ字で書けば、Annz(またはj)iとなる。
ゲームクリエイターのコージという名を、Ko→Gと表記したのは、アンジがAnji(ヘボン式)ではなく、エンジェルの置換形だと示す為だというのか。
なぜ、そうする必要があるのだろう。
最後までやれば分かると巴は言ったけれど、どうしても、JでなくGでなければならない理由があるのだろうか。
巴も、ともすればパンドラの匣に仕掛けられた罠を暴くつもりが、ゲーム自体を楽しんでいるような感じになる。
愛美も自分達が何の為にゲームをしているのか、当初の目的を忘れたかのように、楽しそうな顔をして言った。
「言葉遊びみたいね。推理小説なんかでアナグラムなんかよくあるけど、そんな感じね。でも巴君、スゴイな。IQ200は、伊達じゃないってこと。まるで探偵みたい」
ふふと愛美は笑ったが、巴はふとひっかかるものを覚えて、顔をしかめた。
アナグラムとは、置き換えという意味だ。
推理小説で、犯人が一見意味不明の言葉を残しておくが、それがアナグラムにより置換すると意味のある言葉になるという、基本中の基本のテクニックだ。
「アナグラムですか。ANJI.JANI.ジャニ? NAJI.ナジ? JじゃなくGならNAGI.ナギ、凪? まさか」
巴は、ブツブツと小声で何か呟いている。
巴はその考えを、犬が水を跳ね飛ばすように、頭をブルブルと振って飛ばした。
愛美がじっと見ていることに気付くと、巴はとってつけたようなはにかみ顔を浮かべた。
「探偵なんてそんな。僕みたいな理数系の人間は、理詰めは得意だけど、連想ゲームのような脈絡のない考え方は苦手なんです。お姉さんが、色々言ってくれたお陰ですよ。そうじゃないと気が付かなかった」
愛美がその言葉に、にこっと笑顔になる。巴はなぜかひどく安堵した。
「じゃあ、私も、ワトスンとしては合格みたいね」
時計の針は着実に進み、とっくに一時を回っていた。
愛美は、普段から遅くても十一時過ぎには床に就く。テスト期間であっても、それは変わらない。
小説を読んでいて十二時を過ぎることはあったが、そうなると朝も寝坊してしまう。
だから、巴のやっているゲームを見ていると眠くて眠くて、たまらなかった。さっきから何度も、欠伸を噛み殺している。
「徹夜したら、学校きついわよ」
愛美はついにそう言った。
巴は、夜更かしに慣れているらしく、眠そうな素振りも見せない。コントローラーを動かしながら、愛美に目も向けずに言った。
「僕は、明日は休みます」




