ファイルNo.1 パンドラボックス 33
クラディスが、堂にいった動作で、子猫の鼻面を舐めて、母親のように踞まる。
雨がまた降り出したらしい。
梅雨寒で、部屋の中の空気も下がっているようだ。
綾瀬は、壊れたカーテンの向こうをサングラスで透かし見ながら、ポツリと呟いた。珍しく、感慨深げだ。
「そうだな。みんな懸命に生きているんだな」
*
マンションのエレベータで、秘書の西川にばったり出喰わした為、巴と愛美は、家まで車で送ってもらうことにした。西川は、子猫とクラディスの餌を買ってきた帰りだった。
愛美は、家に着くと早速夕食の準備を始める。
もう七時だ。
巴は家に、電話をしているようだった。友達の家にでも泊まると、嘘を吐いたのだろうか。彼の家族は、巴の外泊をあっさりと許したようだ。
キッチンで作業中の愛美には、小声で話す巴の声は聞きとれなかった。
夕食はすぐ済んだ。愛美が失敗せずに唯一できる三角お握り(梅と鰹節の二種)と、インスタントの味噌汁、パックの惣菜という簡単なものだった。
巴は、50インチのテレビにゲームを接続している。
配線のコードが何本もあるのを見ただけで、愛美はお手上げだとばかりに、ソファに座って、巴がしていることをぼんやりと眺めていた。
「お姉さん。少しの間、ゲームやってて貰えます。僕、パソコンのネットで、少し詳しくゲームのこと自体調べてみますから」
それはいいが、まず手元にある資料を読み込むことが大切じゃないかと、愛美は言った。
ゲームの説明書にしてはかなり薄いブックレットを、パラパラとめくる。
「猟奇殺人事件専門の警視庁捜査第壱班に勤務する、腕利き刑事のアンジを名指しで届けられた小包みの中身は、鉄の箱に収められた人間の内臓だった。リッパーと名乗る殺人鬼を追う、アンジの孤独な戦いが今始まる。ストーリ自体は複雑じゃないわね。キィワードは、やっぱり箱か」
愛美はそう言いながら、巴に説明書を手渡した。巴も暫くパラパラとめくっていたが、一番終わりのページを喰い入るように眺めていた。
「これはなんて読むんだろう?」
巴が指差したのは、ゲームプログラマーの名前の欄だった。Ko→Gとなっている。 愛美は、どれどれと覗き込みながら首を捻った。
「コージー。それともコージかな」
巴が納得したように、ふーんと頷き、何気無い調子で言う。
「そうなると、主人公のアンジはAn→Gになるんでしょうか?」
愛美もそれに何気無く返事を返す。
「ローマ字読みで普通だったらZかJになるところを、音でGにしてるのね」




