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ファイルNo.1 パンドラボックス 31

 今度は巴の番だ。

『パンドラのはこ』というゲームにまつわる噂を、綾瀬に話して聞かせた。

 巴の話では、既に十人ほどの人間が、ゲーム中に昏睡状態に陥り、死んでいるとのことだった。

 社会的には自然死及び、不審死として扱われているが、あくまで噂として『パンドラの匣』は呪われたゲームということになっているようだ。

 いまいちそれが愛美には、ピンとこない。ゲームソフトという文明の産物と、呪いという原始的な力が、どうもうまく結び付かない。

 それより根強い人気の催眠術や、マインドコントロールの方がずっと現実味があるだろう。

「呪いね」

 綾瀬も同じ思いらしい。鼻で笑って一笑に付した。

「でも、どうしてゲームをやっていて昏睡状態に陥るのかしら。ゲームを作った人間が、何か細工をしているのかな。サブリミナル効果ってありましたよね。映画のフィルムにポップコーンとかのコマーシャルが挟んであって、映像的には人間の視覚には捉えられていないけれど、ポップコーンの売上が伸びたって話。まあそれは事実じゃなかったって、ことにもなってますけど。そのゲームはもしかしたら、催眠術やマインドコントロールで、死を仄めかすような暗示がされているのかしら」

 愛美は、考え込みながら、組んだ指を所在なげに動かしている。

「催眠術やマインドコントロールで、人を死に追いやることはできない。これは、遥ちゃんの範中だな。言ってただろう? 記憶を消去すると言っても、記憶そのものを消すことはできないと」

 愛美が頷く。

 東大寺とうだいじと何度も組んで仕事をしてきたが、仕事が終わって学校を去る段になると、必ず東大寺は記憶を消去することにしている。

 SGAに入るきっかけとなった三崎高校での事件の後、クラスメイト達から愛美に関する全ての記憶を、東大寺に消してもらった。

 その時東大寺は、いま綾瀬が言ったのと同じようなことを言っていた。

「だが、人間とは所詮、脳が受けた刺激だけに頼っている生き物だ。自分が生きる為に都合のいい記憶なら、簡単に植えつけることができるし、忘れさせてやることも可能だ。だが、脳自体からその記憶を消すことはできないんだ。そして、催眠術や暗示で、死ぬ気のない人間に、自殺を示唆することはできない。追い詰めることはできるがな。追い詰めて追い詰めて、そして、追い詰められた人間の背中をもう一押してやることはできる」

(サド親父)

 愛美は心の中で呟く。

 そう言う綾瀬の表情には、喜々としたものが浮かんでいる。

 東大寺は、追い詰められ、そして死の縁にいるのだろうか。

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