ファイルNo.1 パンドラボックス 30
巴は子供じゃないのかと、愛美はツッこむことも忘れていた。
綾瀬が、煙草を灰皿に押しつけて揉み消しながら、大袈裟な溜め息を吐いた。
「クラディスが、すっかり腐ってしまってな。お陰で、大被害だ。全く」
絨毯もカーテンも、クラディスの仕業らしい。
愛用のクッションにも当たり散らしているのか、穴が開いて中の綿が飛び出ていた。
巴はクラディスを宥めておいてから、ランドセルをおろして長門に近付く。
「これ、長門さんに渡そうと思ってたんです」
巴は、ランドセルから出したUSBメモリを長門に渡した。
「金は後で振り込んでおく」
長門は無愛想に頷いて、胸ポケットにしまった。
「あんまり深入りしない方がいいですよ」
巴のその言葉には、長門は返事を返さなかった。
そっぽを向く長門は、綾瀬と愛美を意識しているようだ。巴もその件についてはもう何も触れず、
「長門さん。部屋のパソコン使わせて貰いますから」
と、許可とも宣言ともとれることを言う。長門は、頷くだけだ。
「珍しい二人連れということは。何かあったな。顔を見れば分かる。遥ちゃんに関係することだろう」
綾瀬は、机の下からクラディスがいなくなったお陰で、ゆったりと足を組むことができるようになる。
クラディスは諦めたのか、床に寝そべって、子猫達を追い払うようなことはしなくなった。子猫達は安心したように、クラディスの腹に顔を埋めている。
「そのことなんですが、長門さん。東大寺さんの異常を発見した時の様子を、教えて貰えますか」
愛美と巴は同時に口を開いたが、この場は巴は愛美に譲った。
「綾瀬に言われて、東大寺の家に行ったのが三日前。ベッドで横になっている東大寺を見つけたが、様子がおかしかったので、揺すったり声をかけたが反応はなかった。外傷は見あたらなかったが、衰弱がひどかったので、綾瀬に連絡して病院の手筈を整えさせた」
長門はこれだけ一気に言うと、自分の役目は終わりだというように、綾瀬を見て黙り込んだ。それを綾瀬が引きとる。
「それ以来、ずっと昏睡したままだ。病院に運ばれた時も、かなり危険な状態だったらしい。もう一日でも遅かったら、命を落としていただろうと言う話だ。だが、栄養剤の投与などで、危機的状況は回避された。普通の人間なら、それでも死んでいたろう。流石は遥ちゃんだ。体力は並みじゃない。だが、このままいつまでも目覚めなければ、やがては死に至る」




