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ファイルNo.1 パンドラボックス 29

 よく見ると、部屋の様子が少し違う。いつも奇麗に片付き、金のかかった内装が、何やら変わっている。

 まず絨毯の端の方が破れていた。それにカーテンがボロボロになっている。

 あと、クラディスの姿が見えない。

 巴が来れば、いつもなら一目散に飛び出してくる筈だった。

 いないのかと思ったら、クラディスの鳴き声が、デスクの下から聞こえる。

 愛美が覗きに行くと、綾瀬の足元で踞まっていた。

「ようやく三匹は、貰い手がついて引きとられていったんだが、後、二匹、何とかならないか。お前達」

 綾瀬の不機嫌は、ここにあったらしい。

 子猫達はニャーニャーと喚きながら、部屋の中を歩き回っている。

 愛美は、一匹を抱き上げると頬を擦り寄せた。ミルクの匂いがする。猫は嫌がって愛美の手の甲に、小さな爪を立てている。

 巴がクラディスの名を呼ぶと、不承不承といった様子で、窮屈そうに机の下から這い出てきた。

 愛美が子猫を下におろすと、出てきたクラディスに向かって一直線に走っていった。もう一匹も甘えた声を出しながら、クラディスの足元にじゃれついている。

 反して、クラディスはひどく迷惑そうな顔だ。

「全く、うちはいつから、動物園になったんだ」

 綾瀬は溜め息を吐くと、煙草に火を点けた。

 巴は、床に座り込んでクラディスを、そして子猫達をあやしていたが、その言葉を聞くと顔を上げた。

「昔。社長は、それに似たようなことを言いましたね。僕が初めてここに連れてこられた時に。いつから、うちは託児所になったんだって」

 サングラスに遮られた綾瀬の顔色を、読むことはできない。

 綾瀬の吸う、外国産の煙草の甘い香りが部屋の中に漂う。

「そうだったかな」

 綾瀬はとぼけたのか、それとも本当に覚えていないのか、首を捻った。

「あの時は、お前も小学校の二年生だったんだ。それに、どう見ても幼稚園児にしか見えなかったしな」

 そう言って、綾瀬は皮肉るような笑いを洩らした。

 今だって、十分託児所だと言いたいのかもしれない。愛美もやはり子供の範中なのだろうか。

 それにしても、巴がそんな小さい時分から、SGAに出入りしていたというのは驚きだった。

 クラディスは、懐いている子猫達に唸って見せたり、邪険に振り払ったりしている。子猫はそれをものともせずに、くっついて回っていた。

 何やらおかしな光景だ。

「クラディスは、子供嫌いだから」

 巴の言葉に同意を示すように、クラディスは鼻を鳴らして不満を訴えている。

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