ファイルNo.1 パンドラボックス 28
強制でも、仕事として命令された訳でもない。巴は、自主的に行動に移そうとしている。
それとも、自分の興味を満たす為の現世利益的な思考が働いたのだろうか。
愛美は巴のことを、現実的で、理詰めの冷静さを持った少年だと認識している部分がある。
愛美は、縋るような目で、巴のシャツの肩に手を触れた。
「東大寺さんを、助けてくれるの?」
巴は、チラリと愛美に一瞥をくれただけで、足を早めて歩き出した。
「死なせたくないんでしょう?」
巴の言葉とは、思えない。
愛美は小さな子供に戻ったみたいに、うんと頷いた。
*
東大寺のアパートは、今時珍しい木造モルタルの二階建ての建物だった。
東大寺の隣の部屋でボヤ騒ぎがあって、改築したそうだが、どこがどう変わったのか愛美には分からなかった。
東大寺の家を訪ねるのは、愛美はこれが初めてだ。巴は来たことがあるのか、一度も迷わなかった。
隠してあった鍵の置き場所さえも、巴は知っていた。
主のいない部屋は、埃っぽかったが整頓されていた。男所帯の不潔さなど見あたらない。
目当ての物は、すぐに見つかった。テレビに接続したままのゲームの本体の中に、ソフトは入ったままだった。
巴が、テレビに接続してあるプラグや何かをいじって、ゲーム機ごと持ち出すまでの間、愛美にできることはないので、部屋の中を見るともなく見ていた。
東大寺が可愛がっているカメの、コロの水槽がない。長い間放って置けば、餓死するだろう。
長門が気を利かせて、綾瀬の家にでも運んだのだろうかと愛美は考えた。そして、それはやはり綾瀬の所にあった。
本体とソフトの両方を、部屋にあった東大寺の鞄に入れ、綾瀬の家までタクシーで直行した二人を、カメのコロが玄関で迎えてくれる。
綾瀬の秘書、西川はいなかったが、代わりに驚くべきものが、応接室で二人を待ち構えていた。
「あれ、長門さん?」
「うわっ。どうしたんですか。子猫だ!?」
扉を開けて一歩足を踏み入れた瞬間、愛美と巴の声が重なって、不協和音を奏でた。
長門恭一郎が、大きな体を縮めるようにしてソファに腰掛けている。いつになく硬い表情をしているが、その足元には、二匹の子猫が右往左往していた。
綾瀬はいつものように、マホガニーのデスクに腰掛けている。
「西川の奴が、マンションの横道で、ダンボール詰めのこいつらを見つけてきたのが、一週間ほど前だ」
綾瀬は、苦り切った顔をしていた。




