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ファイルNo.1 パンドラボックス 25

「社長から聞いてないんですか。あの人、病院に入院してるんですよ」

 巴は、奇妙な顔をして愛美を見た。

 愛美はギョッとなる。

 先日、結城直哉という東大寺とうだいじの友達から電話があったが、東大寺不在の理由がそんなところにあったとは思ってもみなかった愛美だ。

 以前、骨にヒビが入った時も、診察に二回、病院を訪れただけだった。

 少しぐらいの怪我なら病院に行かずとも、紫苑が何とかしてくれる。愛美も一度、半死半生のところを紫苑に助けられた。

 東大寺の身体は、頑健だ。健康体で風邪一つひかない東大寺が、入院しているなど只事ではない。

「病院って、事故か何か?」

「意識不明の重体らしいです」

 巴も詳しくは知らない。

 何があったのか。どうしてそうなったのか。

 東大寺の状態にも興味がなかったので、話半分にしか聞いていない。

 それに電話での綾瀬――社長は忙しそうだった。


 愛美は、絶句したままだ。結城直哉の不安が現実のものになろうとはと、愛美は思う。

 しかし仕事中に怪我をするなど、SGAでは日常茶飯だ。それで命を落とすことも、有り得ない話ではない。単純で安全な仕事ではないのだ。

 愛美だって生きていることが不思議なくらい、危険な目に幾度も遭っている。

 では、東大寺に何があったのだろう。


 電話の呼び出し音が、部屋に響いた。愛美はピクンと肩を震わせる。

 四回、五回。

 電話は執拗に鳴り続け、愛美は目だけで、巴に出るように促した。

 綾瀬の声で、東大寺が亡くなったことを告げられるのではたまったものではない。巴は受話器に耳を当てて、はいと言った後は、ずっと沈黙していた。

「少々お待ちください」

 巴は愛美に、受話器を差し出す。

「東大寺さんの友達で、結城という人です。お姉さん、知っていますか?」

 巴は訝しそうに眉を寄せて、どうしても話したいことがあるそうですと、付け加えて言った。

 愛美は一瞬躊躇したが、思い直して、巴の手からひったくるようにして受話器を奪った。

「もしもし。この前のことですけど」

 咳き込むように言った愛美を、相手が押し止めるように言葉を挟んだ。

「え、パンドラの箱ですか?」

 愛美の声色が変わる。

 背を向けて立ち去ろうとしていた巴が、パッと振り返って愛美を見た。巴が、愛美の顔を喰い入るように見つめている。

 巴の顔に、緊張が滲んでいた。

 愛美の言葉だけでも、一言も聞き洩らすまいとしているようだ。

 愛美は、巴の表情にも注意しながら、結城の言葉に耳を傾ける。

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