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ファイルNo.1 パンドラボックス 23

 傘立てに、乾いたままの子供用の黄色い雨傘が入っているのに、愛美は今頃になって気付いた。

 巴は、雨には合わなかったらしい。

「あの人、ここ何日か帰ってないわよ」

 長門が帰ってきたら、東大寺とうだいじがどうしているかを聞こうと思っていたのだが、綾瀬が電話で、明日あたり見に行かせると言っていた後、長門の姿も見ていなかった。

 もしかしたら愛美が学校に行っている間に、いったん帰ってきてまた出ていってしまったのかも知れないが。

 仕事に長門が出ているということは、東大寺も一緒かもしれない。ただの杞憂だったのだろうと、愛美は高を括っていた。

「今日あたり帰ってきます。それより早くシャワー浴びないと、風邪をひきます」

 巴に言われなくとも、そうするつもりだ。

 

 愛美は自分の部屋に入ると、着替えを用意してから、風呂で熱いシャワーを浴びた。ドライヤーで、髪の毛をきっちり乾かしてから、キッチンに飲み物をとりにいった。

 巴は、感心なことに、テーブルで漢字の書きとりの練習帳を開いている。

「最悪。突然降り出すんだもん。あー。もうやんでる」

 愛美は、100%のオレンジジュースを飲み干す。

「梅雨時に、折り畳み傘を持ち歩かない方が悪いんです」

 愛美の傘は、玄関の下駄箱の上に置かれたままだ。

「だって重いんだもん。雨降らなかったら邪魔なだけだし」

 愛美は結構、アバウトなところがある。自分でもそれは自覚していた。

 巴は呆れているのか、何も言わない。

 巴の為にコップを出すと、ジュースを注いで、テーブルに置いた。

 壁の時計は、四時前をさしている。

 愛美は、キッチンのカウンターからポテトチップスの袋をとり出して、巴と向かい合わせに椅子に腰を下ろした。

「巴君って今、六年よね。いつからSGAにいるの。後、一度聞きたかったんだけど、情報処理専門って、具体的に何をするの?」

 愛美は巴の方に、ポテトの袋を押しやった。巴は飲み物には口をつけたが、お菓子には手を出さない。

 いらないと頭だけ振って、帳面と首っぴきになりながら、それでも返事だけは律義に返した。

「ハッカーって言葉は、流石に知ってるでしょう。僕は、パソコンのネットワークから、あらゆる情報を覗き見ることができます。企業や個人のパソコンに侵入して情報を得ることも、プログラム自体を書き換えることも。まあそれは正確に言うと、クラッカーなんですが」

 愛美は、モグモグと口を動かしながら、首を傾げる。

「それって、犯罪じゃないの?」

 巴はそれにあっさりと頷いた。

「犯罪ですよ。電脳空間上の泥棒です」

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