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ファイルNo.1 パンドラボックス 22

 綾瀬はそれを、不思議なこととも思っていないようだ。

 東大寺とうだいじは、綾瀬に視線を移すと、きっぱりと言った。

「やったろやんけ。SGAとやらに入ったるわ」

 己の性格を、逆手にとられたような気がする。

 後には引けない。

 うまく綾瀬に乗せられたような気がして、東大寺は不機嫌な面持ちを崩さなかった。

「そう言ってくれると思っていた」

 綾瀬は、落ち着いたまま、至極当然そうに言った。

 やっぱり腹の立つ男だ。

 綾瀬は、ああそれからと言って、顎でテーブルの上を差した。東大寺が潰したコーラの缶に少し残っていた黒い液体と泡が、テーブルに広がっている。

「まず最初の仕事として、自分が汚したテーブルを拭くことだな」

 東大寺は、言いたいことをぐうっと押し殺す。

 一応、SGAのメンバーになるということは、この男の下で働くということだ。おいおいと言うように東大寺は、綾瀬に向かって手の平を突き出す。

「ちょっと待て。俺はパシリか」

 それに対する綾瀬の言葉は、簡単だった。

「自分がやったんだ。片付けて当然だろう」

(やっぱこいつは、虫が好かん)

 *

 愛美が駅から出た途端、ぐずついていた空から、雨の滴が落ちてきた。

 ポツンポツンと顔に当たった水滴は、やがて拭っても追いつかないほどに、髪を服を濡らした。

 愛美は折り畳み傘を家に残してきたことを後悔しながら、家まで走って帰った。

 

 マンションのエントランスホールで、やっと一息つく。今更、タオルハンカチで拭ったところで無駄だと思い、エレベーターに乗り込んだ。

 まずいことに、乗っている間に、床には水溜りができてしまった。

 鞄から鍵をとり出しながら廊下を渡り、鍵穴に差し込む。

 開いていたドアに再び鍵を閉めてしまい、愛美は再び鍵を開け直した。

(誰だろう?)

 紫苑は、都内の学校に臨時教員として派遣されていて、当分は忙しいとのことだ。

 俯いて、スニーカーの紐を解く。泥が、跳ねてしまった。

 今日中に洗っても、明日までには乾かないだろう。濡れた制服も、何とかしなくてはいけない。

 廊下を踏む軽い足音に、愛美は顔を上げた。

 思わず笑顔になって、華やいだ声を上げてしまう。

「あれっ、珍しい。巴君。どうしたの?」

 学校帰りらしい。半袖シャツと半ズボンから細い棒のような足を突き出して、巴和馬かずまが愛美を迎えてくれた。

 お帰りなさいと言われて、愛美も返事を返す。やはり誰かが家で迎えてくれるのは、嬉しいことだ。

「長門さんを待っているんです」

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