ファイルNo.1 パンドラボックス 20
東大寺はなりこそ小さいが、腕力脚力ともに、スポーツ選手以上のものがある。
それだのに、綾瀬に掴まれた腕はビクともしなかった。
一体、こいつは何者なのだ。ただの会社の社長の筈がない。
「西川は、君が男だとは一言も言ってなかった。髪が長いし、名前から考えても女の子だと思ったんだが、間違っているかな、遥ちゃん」
ハルカちゃん。
綾瀬は、からかうように東大寺の名を呼んだ。
脱色して金髪にした髪の毛に、赤でメッシュを入れた東大寺の髪型は目立つ。髪は伸ばしっぱなしで、肩より少し長いぐらいだった。
元々、短気な東大寺だ。綾瀬の安い挑発に、簡単に乗ってしまう。
もしかしてこの男、変態なのだろうか。遥ちゃんだと!?
そんな呼び方は、ほんの小さい頃に呼ばれたことしかないし、絶対に呼ばれたくない呼び名だった。
東大寺は、自分の女の子のような名前に、コンプレックスをずっと感じている。
「オッサン、脳味噌腐ってんのとちゃうか。粋がって、グラサンなんかかけてないでその目ん玉ひんむいて、俺の顔よう見たらどうや」
東大寺は、伸び上がるようにして、綾瀬のサングラスを乱暴に剥ぎとった。
一瞬、鋭角的な眉と、切れ長の目が覗いた。
思った通り、綾瀬はいい男だった。
だがそれも一瞬のことで、綾瀬は握っていた東大寺の手を放し、両手で自分の顔を被う。
「痛ぅ……」
半ば東大寺に覆いかぶさるように、綾瀬は目を押さえて倒れ込む。
東大寺は初め、何しやがんねんアホンダラと叫んで、綾瀬を突き飛ばそうとした。
しかし、すぐに綾瀬の様子が尋常ではないことに気付く。目を押さえて踞まる綾瀬の様子は、真に迫っていた。
東大寺はどうしていいのか分からなくて、オロオロとする。自分は何かとんでもないことをしたのではないか。
西川は、扉の側に立ったまま、駆け寄るでもなく二人の様子を見ている。不意にハッと東大寺は、電気に打たれたように西川を見た。
その途端、東大寺の顔が険しくなる。綾瀬に顔を戻して、彼を睨みつけた。
「騙したな」
東大寺の手からサングラスをサッととり戻すと、綾瀬は定位置に直した。
「ぬかったな。ESPの能力があることを、忘れていた」
ケロリとそう言うと、何でもないような顔で、デスクの席に着く。
東大寺は、何がなんだか分からず、その場で拳を震わせて突っ立っていた。
「座りたまえ。君のような力が生かせる職種は、うちぐらいしかないだろう」




