ファイルNo.1 パンドラボックス 19
西川は、東大寺にソファで座って待つように言うと、飲み物だけ出して、また部屋から出ていってしまった。
なぜ、ついてきてしまったのだろう。
今更ながら、東大寺は後悔していた。
合皮ではない、皮張りのソファ。床には贅沢な、毛足の長い絨毯が敷かれている。
シックで金のかかった部屋の内装は、東大寺を落ち着かない気分にさせる。
テーブルの上に置かれた、コーラの缶と同じくらい自分は場違いだろう。
このまま帰ろうか、そんな思いが東大寺の頭を一瞬よぎったが、扉が開く音で断念せざるを得なかった。
扉から、西川を後ろに従えた男が、ツカツカと東大寺の側に歩いてきた。思わず東大寺は、腰を浮かせて男を迎え入れる。
社長というので年寄りの爺さんを想像していたが、男はまだ三十そこそこにしか見えなかった。
男は、仕立てのいいスーツを着ている。それが嫌味でなく似合っている分、東大寺は嫉妬めいたものを感じた。
「君のことは、西川から聞いていた。よろしく。私は綾瀬だ」
綾瀬は簡潔に自己紹介を済ますと、東大寺に握手を求めてきた。
人品卑しからぬなんて言葉は、東大寺はよく知らないが、綾瀬はまさしくそういう人物に見えた。できすぎた感さえある。
東大寺は、一目見た時から、この男が気に入らなかった。
なぜか、イライラする。
どうしてなのか、ようやく分かった。この男の心を、東大寺は読むことができなかった。
サングラスで目の色が隠されているからだけではない。まるで、真っ暗な井戸の底でも覗くように、男の感情は何一つ感じとれなかった。
東大寺は対抗心を露わにして、男に手を差し出した。
綾瀬自身身長は170㎝弱ぐらいだろうが、いかんせん東大寺は小さすぎた。見下ろされる形になって、不機嫌さも募る。だが、成長期はまだこれからだ。
「可愛いな。まだ十五才なんだろう。若いのはいいことだ」
綾瀬は、大きな手の平で、包み込むように東大寺の手を握った。
絡み着くようなものを感じ、東大寺は気味が悪くなる。
綾瀬が何を考えているのか、全然分からない。今までこんなことはなかった。
見ようと思わなくても、勝手に頭の中に入ってきて、知りたくもない他人の心を見せられることも暫々だった。
それなのに、この男は……。
東大寺は怖くなり、訳も分からず背中に鳥膚が立った。
「誰が可愛いやと? 男相手に気色悪いこと吐かすな、ボケ」
東大寺は、自分を鼓舞するかのようなぞんざいな口調で、握られたままの手を、振り払おうとした。




