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ファイルNo.1 パンドラボックス 16

「あの。変なこと聞くようなんですけど、彼、パンドラのはこがどうとか、言ってませんでしたか?」

「パンドラの箱?」

 愛美は思わず声を大きくして、その言葉を繰り返していた。

 相手は驚いたらしい。変なことを言ってしまったというように、慌てて打ち消した。

「あっ、いえ何でもないんです。そんな馬鹿なことある訳ないし。すいません。ご迷惑かけて。連絡とれたら遥の奴に、部活に出てこい馬鹿野郎って言っておいてください」

 そう言い置いて、彼は電話を切ってしまった。

 いったい何だったのだろう?

 愛美は切れた電話を握り締めたまま、立ち尽くす。

 パンドラの箱。

 確か、長門が五日ほど前そんな話をしていなかっただろうか。その言葉は、東大寺とうだいじが洩らした言葉だった筈だ。

 愛美はそこまで考えると、受話器を一旦下ろすと、再びとりあげた。

 愛美の指はためらうことなく、番号をプッシュしていく。もう、そらで覚えていた。

「あっ、西川さん。済みません。綾瀬さん、もう寝てるんなら叩き起こして貰えます?」

 こんな時間まで、秘書の西川は、綾瀬のマンションにいた。

 詮索している時間はないので、綾瀬に代わってくれるようにすぐに頼む。

「もしもし。愛美です。少しお尋ねしたいんですけど、東大寺さん今オフですよね?」

 少し待たされ、愛美は口早に確かめた。

 電話に出た綾瀬の声は、不機嫌そうだった。

 年寄りは寝るのが早いというし、もう寝ていたのだろうか。そんなことを聞けば、綾瀬は怒るだろう。彼はまだ、三十半ばだ。

 だが、本当に寝ていたとか、それともお楽しみの最中だったのだろうか。

(相手は、まさか西川さん?)

 そこまで考えて、馬鹿らしいと愛美はその考えを捨てた。

 芸能レポーターや野次馬根性丸出しのおばさんじゃないんだから、綾瀬のプライベートなんてどうでもいい。

 愛美の耳に、綾瀬のボヤく声が響く。

「どうせなら、留守電にしておけばいいものを。二日前から、連絡をとろうにもとれないんだ。何か知っているのか。愛美」

 愛美は口を閉ざす。綾瀬も、東大寺の動向を把握していないというのか。

「オフだったら学校にも行ってる筈なんですけど、この四日間、学校にも行ってないみたいです。家にもいないみたいで」

 愛美が考え考えそう言うと、綾瀬の憤然とした声が追ってきた。

「全くあの馬鹿は何をやってるのか。こっちも仕事にならないから、明日あたり長門に家に見にいかせるつもりだ」

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