ファイルNo.1 パンドラボックス 12
長門は何も感じていないようで、つまみと酒を手にすると愛美に悠々と背を向けて、部屋に帰っていった。
何となく彼の後ろ姿が、大型犬を連想させる。
犬というよりは、長門は協調性のない一匹狼だろう。
愛美を一人前の女だとは認めていない分、狼になる心配は全くなかったが、小娘扱いどころか人間扱いすらされていないような気がする。
「あんな格好で、ウロウロしないで欲しいわよね」
プッと膨れてそう言うと、紫苑が笑みを洩らした。
「前はバスローブ一枚でウロウロしてましたけど、かなり気を使ってるんですね。年頃の女性が一つ屋根の下に住んでいるとなると、流石に差し控えなければいけないことがありますからね。長門さんは女性の扱いが下手だから、ぶっきらぼうで、誤解されやすいようですけど」
差し控えなければいけないこと?
紫苑の考えていることも、よく分からない。愛美は男じゃないんだから、分からないのも当然か。
一応愛美を女性扱いしてくれるのは、メンバーの中では紫苑だけだ。
東大寺にとって愛美は妹同然だし、綾瀬に至ってはオモチャか何かだと思っているようだ。綾瀬の場合、東大寺もからかい甲斐のあるオモチャなのだろう。
愛美は憤然とする。
長門が誤解されやすいのは、自業自得だろう。というより、紫苑の方が誤解しているのではないか。
どう見ても長門は、嫌な奴だ。
長門の人となりについては、愛美と、紫苑や東大寺とではその評価が大きく分かれる。
「差し控えるって、私がきた所為で、女の人を連れ込めなくなったとか言うんですか?」
テーブルについて、お味噌汁に口をつける。
紫苑は生粋の日本人でもない筈なのに、日本料理を作ると、いかにも素朴なお袋の味を出す。
(うん。この佃煮もおいしい)
紫苑は愛美の言葉の意味を深く考えずに、のほほんとした返事を返しかけたが、愛美の意図するところに気付いたらしい。
慌てて取り乱すところが、紫苑らしい。
「さあ、どうでしょう……って、愛美さん、もしかして、私を疑ってるんですか。とんでもないですよ。愛美さんは、私を一体どんな目で見てるんですか?」
不貞腐れてしまった紫苑に、愛美はとびっきりの笑顔で答える。
紫苑の作る煮物は、最高だ。
「今まで会った中で、一番いい男」
(料理もうまいし)
と、愛美は心の中で付け加える。
紫苑は、その笑顔と、男心を刺激する台詞ですっかり参ってしまったようだ。照れている様子が、微笑ましい。




