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ファイルNo.1 パンドラボックス 10

 作りものめいた紫苑の身体の線や、東大寺とうだいじの健康的な体格とは違い、長門はある種の動物しか持つことのない張り詰めたものを感じさせる。

 

 愛美は紫苑を手伝って、夕飯の用意をしていた。

 長門は、シャワーを浴びてようやくすっきりしたようだ。シャツを羽織っただけで、しなやかな獣を思わせる胸筋や腹筋が露わになっている。

 たかが上半身、しかも愛美には弟がいたので男の裸には免疫があるが、それはもちろん家族だからだ。

 赤の他人の、男の裸には目のやり場に困る。

 最悪なことに長門との出会いは、風呂場だった。

 思い出すといまだに腹が立つので、思い出さないにこしたことはない。

 

 それにしても、長門は相変わらず酒臭い。その内アルコール中毒で、肝臓や腎臓をやられてしまうだろう。

 長門の身体のことなんか、心配なぞしてやらない。

 胡散臭く、何を考えているのか分からない、それだけでなく性格もとことん悪い男だ。関わりがない分、長門は愛美にとってもどうでもいい人物だった。

 揚げたての唐揚げを、楊枝で突き刺したのを、愛美は長門に差し出す。無意識の行動だ。

 長門も何も言わずに受けとると、熱々のそれを口に放り込んだ。

 紫苑が横目で睨みながら、つまみ食いは禁止だというが、愛美は気にしない。

 自分も爪楊枝で唐揚げをつまみながら、長門に聞いた。

 彼が帰ってきたということは、東大寺と組んでいた仕事が片付いたのだろう。

「東大寺さん、何か言ってました?」

 長門は、紫苑が用意してくれた唐揚げを皿に盛ったものを片手に、冷蔵庫の中を物色している。

 缶ビールを取り出しながら、ふと思い出したというように呟いた。

「パンドラの箱の意味を知っているかと、言っていたな」

 愛美がきょとんとした顔をする。

 一体全体、どういう話運びで、そんな言葉が出てきたのだろう。

 テーブルに料理の皿を並べている紫苑を振り返り、愛美は声を掛けた。

「パンドラの箱って、紫苑さん。ギリシャ神話の話でしたよね」

 紫苑はもちろん知っていた。

「ええ。厳密には壺ですが。パンドラというのは、ギリシャ神話における、イブにあたる女性です」

 東大寺が考えていた通り、愛美か紫苑に聞けば、大抵のことが分かる。

「開けてはいけないと言われた箱を、開けてしまう愚かな女ですか。その箱の中に入っていた、死や老いといった今日、私達が受けなければならない全ての災いが、解き放たれてしまうんですよね」

 長門は言葉としては知っていたが、そんな意味までは知らなかった。

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