ミニスカート=殺し屋
アイスティーが、氷だけになってしまった。
「おかわりは?」とウエイトレスが聞いてきたので、「ありがとう大丈夫」と答えておく。
僕は去っていくウエイトレスの後ろ姿を眺めようとして、こらえる。それがロココの機嫌を損ねてしまうことを知っているから。
【レスト・イン・ピース】のウエイトレスは、スカートが短いのだ。まるで、間違った方程式みたいに。
それはオーナーの貝原晴雨という男の方針で、【レスト・イン・ピース】における全てのウエイトレスに徹底させている。
というより、それしか徹底させていない。短いスカートというルールさえ守れば、他は自由なコーディネートでオーケーなのだ(さっきのウエイトレスはセーラー服を着ていた)。
「いいか、殺し屋ってのはミニスカートだ」と貝原晴雨はいった。
「大事なとこ以外はさらけ出しとくんだよ。どいつもこいつも、剥き出しの部分にばかり釘付けになるからな。見えそうで見えない本質は、より一層隠される。俺たちにとって何より大事なのは、《本質を見抜かれない》ことなんだ」
貝原はつまり、スケベ親父というわけであった。スケベなのは大いに結構だし、事実【レスト・イン・ピース】の魅力の八割をウエイトレスのミニスカートが占めているのだから、彼には商才というものもきちんと備わっているのだろう。
しかし、時間にルーズなのはいただけない。かれこれ一時間、なんの連絡もなしに人を待たせるというのは、ビジネスマンとしてどうだろう。
「ロココ。貝原さんの気配、近くにない?」
『さーね。知らない』
「まー、そういわずにさ、ちょっと調べてみてよ」
『もう、見ず知らずのアバズレとキスしない?』
ふてくされたロココが、仲直りのきっかけを提示してくれたので、僕はそれに従う。
「しないよ」と僕はいう。
「ロココと神様に誓って」
『自由太は誰の?』
「ロココの」であるべきだと僕は思う。
『あたしは誰の?』
「僕の」であるべきなんだろうか?
『赦すよ。マジ大好きだからね、もう浮気ダメだからね』
ほっとした僕は煙草に火を点ける。そもそも出会い頭に強制的にされるキスって浮気の範疇なんだろうか。
《ココロ》は、そういえば、浮気に対してわりと寛容だったなぁと思い出す。僕自身は、浮気したことなんて一度もないのだけれども。
『貝原さん、貝原さん……』
ロココは《超・思春期》という能力を使い始める。後で説明するけれど、簡単にいえば、これはレーダーみたいなものだ。
『あ』
「どう?」
『自由太が煙草吸い終わるくらいに、来るよ』
それを聞いて安心した。そろそろ退屈で、ミニスカートに目がいきそうだったのだ。