溜め息の意味など、考えるまでもない
そして、三年の月日が流れた。この間、六人を殺害したが、これは【アクタリ】の殺し屋の中では最少の数字だ。それというのも、私は三度仕事に失敗している。いざ仕事となると、ハネの体調が悪化してしまうのだ。しばしばターゲットを前にして、ハネは私にチカラを貸すことを逡巡した。とりわけ、私と同年代の女性がターゲットの場合、その反応は顕著に表れた。
鬱のようなものでしょうと芥川はいっていた。殺人に対する拒絶反応が羽根君を疲弊させているのです。
これでは、本末転倒じゃないかと私の気持ちは暗く沈んだ。芥川はハネの体調を考慮して、私の仕事を極端に減らしてくれた。
現在、ハネの口数は以前と比べてかなり少なくなっていた。それでも、彼が狂ってしまうより、よっぽどマシだと、私は私に言い聞かせている。
そんな折、私たちに降りかかった喫茶【レスト・イン・ピース】の襲撃。謎の美女によって、パートナーを消去されていく【アクタリ】の殺し屋たち。
私は未曽有の危機に震えていた。すでに【アクタリ】においてプロとして活動出来る殺し屋は私を含めて三名にまで減少している。ハネを失う恐怖が、私の中で再燃していた。
本来の業務は中断しましょうと芥川はいった。蓬田さん、【レスト・イン・ピース】の代表、貝原晴雨を私の前に連れてきてください。
赦せなかった。《プロ》の殺し屋を扱う唯一の同業他社、【レスト・イン・ピース】がそんな暴挙にでるなんて。
競合とはいえ、私たちはお互いの気持ちを誰よりも知っているはずじゃない。
元プロであり先輩の二人を連れて、私は貝原の車を尾行した。隙あらば誘拐しようと試みたが、彼は常に私たちの機先を制して動き回り、ついにその機会を見いだすことが出来なかった。
そして【レスト・イン・ピース】付近で対策を講じていたとき、あの男が現れたのだ。
彼方自由太。
私は彼と交戦し、完全に敗れた。全てのナイフを弾かれたとき、ハネは声をあげて泣いていたのだ。
『負けて、ごめん。不甲斐なくてごめん』
しかし彼は私を殺さず、ハネを気遣ってさえくれた。彼方自由太の言葉がなければ、ハネはさらに深い哀しみに追い込まれ、絶望に苦悶し続けただろう。
質疑応答の結果、少なくとも、彼は【アクタリ】の襲撃に関わっていないことが判った。
彼方自由太が去っていったあと、私が漏らした溜め息の正体。これは一体何なのだろう?
胸が、少し、苦しくなっていた。




