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闇にロココがよく似合う  作者: 太郎鉄
蓬田卵と蓬田羽根
13/42

対話記録→少年Aと《心の闇》

【少年A(以下A)と観察官神宮真理(以下神宮)の対話記録】



神宮:今日は、気分が良さそうね。



A:はい。あいつは今、眠ってるんです。



神宮:あいつって、※※(橙南中事件被害者生徒の名称。プライバシーを配慮して以降も伏せ字)ちゃん?



A:バカな、※※はあんなやつじゃありません。



神宮:でも、普段はそう名乗っている。



A:はい。すごく、むかつきます。



神宮:じゃあ今回はその子に、別の名前を付けましょう。きちんと区別するのよ。※※ちゃんとその子を。そうすることで、あなたの気持ちは幾分楽になる。



A:気休めでしょう。そんなの。



神宮:気休めが大事なのよ。別に何でもいいわ。



A:それじゃあ、闇。《心の闇》。ぴったりでしょ? 僕知ってるんです。僕みたいな未成年が事件を起こすとみんなこぞってそういう名前をつけるんだ。少年Aの心の闇、それは幼年期の家庭環境云々……。



注釈:ここで、Aは唐突に胸元をかきむしり始める。神宮がAを抱きしめ、一分ほど対話中断。



神宮:大丈夫よ。そんなことにはなってないわ。世間てね、大きな事件をたくさん盛り上げるけど、その代わりすぐ忘れるものなのよ。



A:いいんですよ。実際あれはあいつが、《心の闇》がやったんだから。



神宮:B(Aの同級生。橙南中事件加害者生徒。同時にAが起こした橙南パーク事件被害者生徒)君を、殺したのよね。



A:先生、信じてないでしょう。



神宮:そんなことないわ。実際に私はあなたのいう《心の闇》と喋ったし、《心の闇》も犯行を認めているんだから。



A:いつですか、それ?



神宮:あなたが眠っている間。



A:信じられない。



神宮:事件の一時間前、橙南駅西口前のコンビニでアイスを買って食べたでしょう? ジャリジャリくんソーダ味。



A:そんなの、防犯カメラとか調べれば誰だって。



神宮:じゃあ、これは?



注釈:神宮、Aの耳元で囁く。



A:嘘、本当に?



神宮:信じてくれた?



A:……はい。



神宮:少しは信用してくれるかしら? 先生のこと。



A:はい。



神宮:それじゃ、※※ちゃんのこと、今日は詳しく教えてほしいな。



A:※※は、恋人でした。



神宮:付き合ったのはいつ?



A:中一の夏休みです。花火大会で告白しました。



神宮:今からちょうど二年前か。事件からは三ヶ月経つけど、その日まで、あなたたちは付き合っていた?



A:はい。一度も喧嘩せずに。



神宮:失礼だけど、その……ごめんなさい。あなたたちみたいな若い子に、こういう表現で尋ねるのが適切かどうかわからないけど、男女の関係はあったのかしら?



A:セックスは、一度だけ。



神宮:それは、どこで? 道徳の問題は別として、中学生がそういう行為に及ぶのは、場所の制約があると思うのだけれど。



A:保健室です。学校の。



神宮:それはいつ?



A:一年目の記念日。でも、お互いに痛くて、すぐ止めちゃいましたけど。



神宮:それ以降、性交渉は一度もないのね。



A:はい。高校生になったら、改めてきちんとっていう約束でした。



神宮:こんなこと、あなたにいうのもおかしいけれど、そういう約束をきちんと守れる男の子って、素敵だと思う。



A:……ありがとうございます。



神宮:※※ちゃんは、どんな女の子だったの?



A:すごく、繊細でした。自分に自身がなくって。いっつも二言目には、「私でいいの?」とか「私のどこがいいの?」なんて訊いてきて。浮気いくらでもしていいから、私を捨てないでって。



神宮:あなたは浮気を?



A:するわけないですよ。僕は※※だけを愛してるんです。



神宮:※※ちゃんは、きっと幸せだったでしょうね。



A:だといいです。



神宮:※※ちゃんが亡くなった日、あなたは※※ちゃん自身に呼び出されて反抗現場である三年A組の教室へ向かってるわ。この顛末について訊いてもいい?



A:日曜日でした。※※から電話があったんです。今すぐ会いたい、教室に来てって。凄く嬉しそうな声だった。※※が積極的に僕を誘うなんて珍しかったから、何かいいことの報告なんだろうと思って。急いで行ったんです。そしたら……。



注釈:A、しばらく嗚咽を繰り返す。



A:あいつらに、ズタボロにされた、※※が……。倒れて、倒れて……。



神宮:あなたが見たのは、全てが終わったあとの光景だった。



A:Bが、あの糞野郎が、あいつ、マジで、殺す、ぶち殺してやる。糞が、糞が、糞糞糞!



注釈:A、テーブルに拳を打ちつける。神宮は様子を見ている。



神宮:※※ちゃんはB君をリーダーとする三人組に強姦殺害された。ただ、生き残ったCとDは強姦こそ認めたものの、殺人に関しては完全に否認している。確かに※※ちゃんの遺体には腑に落ちない点がいくつかあった。外傷は腰と顔に数ヶ所の打撲のほか、性器の裂傷が認められたけれど、いずれも致命傷にはなりえない。遺族の方にはショック死と説明したようだけど、正確な死因は未だ特定できていない。



A:それが何だっていうんです!?



神宮:あなたが駆けつけると同時に、B君たちは現場から逃げ去った。あなたはその場で放心状態になり、警察に連絡を入れたのは死亡推定時刻から一時間後。



A:まさか、僕を疑って?



神宮:違うわ。その間に、第三者が介入した可能性はないか尋ねているの。



A:第三者?



神宮:あなた自身、あまりのショックで※※ちゃんを発見してから警察に通報するまでの記憶がないといっている。その空白の一時間に誰かが教室にやってきて、何か特別な方法で※※ちゃんを殺害した。そんな可能性はないかしら?



A:ちょっと待ってください、それじゃ先生は、僕が発見した時点では、※※はまだ生きてたって、そういいたいんですか!?



神宮:死亡推定時刻は限りなく正確だけど、完全じゃない。まして死因が特定できないとなれば、一時間程度の誤差はあり得る。



A:有り得ない。僕は何度も呼びかけたんだ。何度も何度も! けど、※※は応えなかった。応えなかったんだよっ!



注釈:A、唇を咬みちぎり、出血。



神宮:ごめんなさい。あくまでも可能性の一つを提示しただけよ。怒らないで?



注釈:Aの呼吸が落ち着くまで中断。



神宮:話題を変えましょう。あなたの中に《心の闇》が現れたのはいつ?



A:※※が殺された日の夜。いきなり、語りかけてきた。※※の声で、「A、大丈夫、私、ここにいるから」って。



神宮:もう少し詳しく。その直前、あなたは何を思ってた?



A:《※※のいない世界を、ぶち壊したい》。ただそれだけを思い続けてた。



神宮:《心の闇》は※※ちゃんだと名乗ったけれど、今のあなたはそれを認めていない。むしろ憎んでる。それは何故?



A:初めは嬉しかった。でも違うんだ。あいつは全然※※じゃなかった。だって変なんだ。性格が真逆なんだよ。※※が嫌いな下ネタ話したり、ぶっ殺すとか下品な言葉使ったり。※※の声だから余計にそれが悲しくて、悔しくて。あいつに喋りかけられるたび、気が変になりそうで……。



神宮:でも《心の闇》はあなたを愛しているという。他の誰より。その一点においては、※※ちゃんと共通してるわね。



注釈:A、曖昧に頷く。



神宮:次の日の夜、逃亡していたB君たち三名をあなた――便宜的にあなたと呼ぶわ。実際は《心の闇》だと判っているから、安心して――は警察より先に橙南パークで発見し、B君を殺害。C君とD君には全治三ヶ月の重傷を負わせているわね。一般人からの目撃証言を総合すると、あなたは彼らを捜していたというよりも、初めから橙南パークに潜んでいることを知っていたかのように、一切の迷いなく向かっている。これはB君たちから、何らかの連絡があったから?



A:その前後一時間のことは覚えてない。《心の闇》が「あたしが殺る」っていったと思ったら、次の瞬間には警察に捕まってた。でも、あいつらからの連絡は絶対になかったと思う。携帯番号だって知らないから。



神宮:そう。結果として《心の闇》はB君を殺害してしまったわけだけど、それについてはどう思ってる?



A:許せない。



神宮:どうして? あなたもB君を憎んでいたでしょう?



A:だから、僕がこの手で殺したかった。僕があいつをぶち殺したかったんだ。それを、よくも、奪いやがって!



注釈:A、激しく歯軋り。



神宮:なるほど。あなたが《心の闇》を憎む一番の原因はそれだったのね。



A:だって、そうでしょう!? ※※を奪ったあの糞野郎をぶっ殺すことくらいしか! 僕の気持ちを晴らすことなんかできないのに! それを、あいつ、解ってるはずなのに! なんでっ! なんで奪って! 奪ったくせして、愛してるなんてっ! そんなことをいけしゃあしゃあとっ!



注釈:A、立ち上がりテーブルを蹴り上げる。壁を殴る。待機スタッフが制止。本日の対話は終了。



 以下、観察官所感。



 本日の対話、及び前夜における《心の闇(A命名)》との対談により解離性同一性障害の可能性は完全に消失。現行の精神病理学に該当する症例はなし。よって見地を鏡面性再生疾患きょうめんせいさいせいしっかんに移行。観測を継続する。



 尚、本対話はあらゆる種類におけるカウンセリングの範疇の外で行われていたことを明記しておく。

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