J 家出。メイ。僕。
「お腹空いた。」
彼女はつまらなそうに窓の外を見ながらそうつぶやいた。夏の日差しはきつく、僕たちは延々と続く長い一本道を車で走ってる。彼女はもう一度「お腹が空いた。」というとその後に「パスタが食べたい。イタリアン。イタリアン~。」と付け加えた。つい1時間前までは他人だったとは思えない態度だ。それでも僕は機転をきかし、
「もんごりあん料理なんてどう?」
と笑顔で返すもなんの反応も返ってこない。だがこれでいいのだ。運命というものがこの世界に本当に存在するというならば、僕と彼女はつい1時間前に、この世界にとって、とまではいかないが、少なくとも僕たち2人の人生にとって、運命的な出会いをした。
自分の事をメイ、と名乗る彼女は『CATCH ME!!』と描かれた画用紙を手に持って、見事僕の車をヒッチハイクした。彼女曰く「ヒッチハイクなんてしたの生まれて初めて。それに不思議ね、この車を見た途端無性に乗りたくなって、今までになくこの画用紙を大きく挙げたの。」だそうだ。そして今にいたるまで、声を大にして言うほどの大したエピソードはないが、なによりこれをきっかけに、僕の、ではなく僕たち2人の家出の旅は始まったのだ。