もう一人の購入者Ⅱ
「もう知りません!」
大げさに顔を横に逸らして、『怒ってます』のポーズをするのもまた子供っぽくて悪戯したくなるが、これくらいにしないと本当に怒ってしまいそうだ。
起き上がると、クーはコンテナに戻ってメンテとチェックをし始める。
俺は着替えが終わると、ふと今週、来週と立て続けにある行事を思い出した。
「クー。」
伝えておかないと、いろいろと面倒なので、忘れない内に声をかける。
「はい、何でしょう。」
コンテナ越しに声がかえって来た。
「今週末から来週の初めまでだけど、宿泊学習があるのと、来週末には、登山遠足があるらしいから、その間は帰って来ない。 あんまり、母さん達に見つからないように注意してくれ。」
「え!? 聞いてませんけど!」
クーはやたら焦った声を発した直後、コンテナの扉を“バンッ!”と勢い良く開けて出て来る。
「今言ったからね。」
「そう言う問題では無いです。マスターがいないなら私はどうすれば…。」
こうして反応してくれるのは、嬉しくもあるがここまで依存されると、一種の恐怖なのだが、これは仕方が無い事だと思う。なにせ、この子は元々家電であると同時に、所有者の世話と言うと大げさだが、そんな感じの事をするために作られているのだから、それを失うことは、自分の存在そのものを破壊するのと同じだ。
「分かったから。とりあえず落ち着こう。」
パニック気味だが、大抵、落ち着いて話しをして、指示を出せばなんとかなる。
「クーの得意分野は、夏に活躍してもらうって事で良いんだよな?」
「はい。」
春の時期は、それほど熱くないので、クーラーは必要ない。
「この時期は、換気のための送風をよろしく。」
これで、しばらくは我慢してもらう事にしているが、これだけではクーは不満らしく、何かやる事が無いか家の中をうろついてしまう。
家の中だけならまだしも、外に出てしまうことも多々あり、家に連れ帰って注意するとその場では泣かないが、コンテナの中で凄く悲しそうな顔をする。(多分、俺が居なくなったが大泣きしてそうだ。)
「暇だったら、家の中の花粉除去、この部屋の掃除なんかをしてくれたら助かる。」
その言葉で、クーは元気になった。
「はい! 他には有りますか?」
考えるが、正直言って母さんや、兄妹には内緒でクーをここに置いているから鉢合わせさせたくない。
ふと外を見て、遠くでやたら黒い雲が見えた。
「そうだ、天気が悪い時は、除湿を頼む。って、いつもの事だけど。」
「灰が降ってる時は、室内で干しますからね。」
そう、天気だけでなく、近くに火山があるので噴火の時には灰が着かないように、室内で干す。
「今日は、こちら向きの風だそうなので、室内干しですね。」
「おう、まあ頑張ってくれ。」
「はい。行ってらっしゃいませ。」
家族で唯一の見送りの言葉を受け、俺は自分の部屋を出る。
鞄を見れば、中に弁当が二つ入っている。朝食用と昼飯用だ。
クーはいつも深夜に弁当を作って朝に持たせてくれる。
なんかちょっと気恥ずかしい。
今日も自転車に跨り、灰の降る中登校だ。
書いていて自分で「リア充爆発しろ!」と叫びたくなりました。
いやー、あらすじを読んで健二くんの発現を思い返してほしいのですが、本当に作者の趣味で、家電がいろいろなことになっています。(カオスです。)
ちなみに、読みなおしてもらえばわかるかと思いますが、ポータブルエアコンは二名様限定で、健二より先にポイントをためて購入したのは、松尾 恭二くんです。
そして、多分『クー』の由来は『クーラー』っていう安直さに気付いた方も多いかと思います。
と、ここまでは周りの設定や環境の説明といった感じで展開してきましたが、ここから、また、健二君の視点に戻したいと思います。
今後ともよろしくお願いします。




