もう一人の購入者
今回と次回は、視点を西藤サイドではなく、別サイドからです。
シリアスで、重い感じになってしまいますが、よろしくおねがいします。
思い返せば、俺の人生はあまりいい事が無かった。
幼稚園に通ったことがなく、いきなり小学校に入学した。
そこでは、すでに幼稚園や保育園での人間関係が構築されていて、俺が入り込む隙間など無く、只一人で他のグループの邪魔にならないように生活するだけで精一杯だった。
一人で居ると、他の連中はストレスのはけ口を俺に向けた。
教科書を隠すとか、上履きを隠すとか、色鉛筆を全部折るとか、殴るとかならばまだよかった。教科書を何処かに隠したふりをして、探しに行かせて授業に遅刻させておいて、後になってから、「あそこに落ちてたよ」と親切にている振りを先生の目の前で行い、その次は、俺が教科書を忘れて来たのにいじめられていると嘘を言っているなどと言い出す。
繰り返されるたびに、先生からの信用は失われ、教師は誰もいじめられていると思わなくなった。
家で、父親に相談しても「男ならばそれぐらい自分でなんとかしろ。」と言い、何もしてくれないし、母親は兄の方が可愛いらしく、俺の相談などまともに聞いてくれない。それどころか、次第に問題を起こすのは俺のせいだと言うようになった。
兄や妹は優秀で、周りの人とうまくやっているが、俺には無理だった。
痩せて、弱くて、特別な特技など無く、話が下手で。
そのため、妹にはなめられ、周りの人は妹に「弟君によろしくね。」などと言う始末。
最早家庭にすら居場所を見つけきれない状況になり始めた。
必死になって、人の輪の中に入ろうと努力したが、ある時、水遊びを注意したら四人がかりで取り押さえて殴られた。それ以来、「あいつ、喧嘩が弱いってよ。」と言われ、次々と俺を標的にするグループが出た。
授業中に罵られ、腹を立てて、怒鳴れば教師には教室の後ろで立つように命じられ、先生の見ていない時に物を投げつけられながら、後ろで立ち続けるのは精神的にきつかった。
いつか、見返してやると心に決めて、勉強に励み、自室で筋トレをしながら小学時代は過ごした。
中学は、別の小学から入って来たメンバーもいるため、新たに始められると期待していたが、小学時代の噂が広まり誰も近づかなかった。女子からも、何か嫌な視線を感じた。
自分が弱いからいけないのだと思い、必死に鍛えた。
空手をやっているから強いと思い込んでいる連中に、喧嘩を吹っ掛けられ、返り討ちにした時にはこれでもういじめられないと思ったが。蹴散らした連中は、教師の前では優等生のため、俺が喧嘩を仕掛けたと言う事になってしまい、問題児として教師の中で言われるようになった。
空手をやっていた連中は、前より多い人数で攻撃してくるようになり、数の暴力の前に屈服せざるを得ない状況になった。
もう、地獄だった。
だから、本当の問題児になってやろうと思った。
溜めて来た、小遣いやお年玉を浪費いスナック菓子を食って、深夜の街を徘徊し、煙草も手を出した。(タバコは体に合わなかったため、すぐに止めた。)
だが、何年間も真面目な生活を送って来た自分には、後味の悪い生活でしかなかった。
だから、機械やパソコン、ゲーム機などに金を使い始め、とんでもない金額をつぎ込んで憂さ晴らしと現実逃避をした。
物を買っても、買っても、人間関係が改善されるはずも無く、只地獄の毎日から逃げているだけと気付いて、荷物の山の中でうずくまった。
ふと気付けば、ポイントカードにとんでもない量のポイントが溜まっていた。
どうせ自殺するなら、自分にある物全てを使いきってからにしようと思い、一番ポイントを消費する、ポータブルエアコンを購入した。
段ボールを自室に引きずり込んで、開ければそこに綺麗な少女が入っているのに驚いたのを今でも覚えている。
人恋しい気持ちから、彼女の横で寝たのを覚えている。
翌日の朝、決めていた事を実行しようと、天井からひもを吊るした時に、足を引っ張られたあの瞬間。
初めて、俺に対して生きろというメッセージを他人がくれたと感じた。
長い髪を振り乱してまで、昨日初めてであった少女が、必死に止めてくれた。
必要だと言ってくれた。
それが、どんなに聞きたかった言葉か。
直後に、死ぬことをなんとも思っていなかった自分に恐怖して、震えた。
彼女は、俺の命の恩人だ。
人間でないとしても、関係ない。
そんな、大切な人が今日も俺に声をかけて、優しく朝を告げてくれる。
「朝ですよ。そろそろ起きてください。」
もう少し寝たふりをして、困っている顔を見てみたいが、かわいそうなので止めておく。
「ありがとう、“クー”。」
いつものやり取りだが、未だに礼を言われるとうつむいて、照れる姿がまた可愛い。
「えっと、その、き…。マスターにその…お礼を言われるほどの事は…。」
なので、ちょっと意地悪もしてみたくなる。
「名前で呼んで欲しいな。」
「恭二さん…。」
うつむきながら小さな声で、名前を呼んでくれた。
「ん?ちょっと聞こえなかったから、もう一回言ってくれない?」
「もう、知りません !」
激甘の空間になりつつある松尾君の部屋、どうでしょう。
感想など聞かせていただければありがたいです。