エアルと桜
青い春の空に、気ままに漂う雲の群れ。
体に張り付く、湿気を含んだ春の風。
環境が変わり、センサーの調整や、画像処理で演算機能は昨日今日でフル稼働だ。
疑似シナプスは、一斉に手を伸ばし、周りの情報を必死に集めその内部に蓄えようとしている。
それに伴い、今までにない不思議な感覚に襲われる。
私は、作られた目的を果たせているのだろうか。
私は、所有者の言葉を守れているのだろうか。
大丈夫、手続きは済ませた。
これで、条件はある程度クリアされたはず。
インプットした情報をもう一度ROMから呼び出し、解析を行う。
問題は幾つか見つかったが、どれも致命的と判断する条件はそろっていない。
だが、これは疑似脳神経での処理を通すと、成功には程遠いという判断になる。
ここで余談だが、私には考える場所が二つある。
ノイマン型の演算機と、量子コンピュータを連動したメタル演算機。(一般の人に分かりやすく言えば、ロボットとか、コンピュータの考える機関のこと。)
もう一つは、人工ニューロンを用いた有機演算機、又は、疑似脳神経。(生物の脳に近い物を人工的に作った感じ。)
その結果が出るたびに、体が浮いて酷く落ち着かない。
センサーに異常は無いのに、センサーに違和感がある。
自己診断を走らせる。
だが、問題個所は見つからない。
自分では、見つけられない重大な問題が発生したのかもしれないと思い、調整用のドッグに入り横になる。
一見すると、人が入れるほどの段ボールに見えるが、実はメンテナンス機材の一部で、どうやら昨日、マスターが捨ててしまったらしい。
ゴミ処理場から持ち出すのが大変だった。一緒に入っていた、説明書は残念ながらすでに焼却炉の中で灰になっていた。
三分の時間が経過すると、視界の右上に緑のランプが点灯した。
異常無しのサインだ。
でも、人工皮膚型のソーラーパネルがむず痒く、電力変換のコアパーツが安定しないように感じる。
『数値的には問題は無いのに…。』
起き上がり、GPSデータと照合しながら、街並みを眺めていると、視界をはらはらと横切る薄紅色の欠片。
落ちて来た方向を眺めると、木にたくさんの花が咲き誇っていた。
サクラ
日本人は、この木の花を好むらしい。
知識では知っていたが、実際に見るのは初めてだ。
なんだか、落ち着かない気持ちをこの光景は鎮めてくれる。
風に舞い、踊り、私を魅了した。
気付けば、桜を見上げて数十分も立ち尽くしていた。
「エアル…何してるんだ ?」
不意に、マスターの声が聞こえた。
今考えていることを、マスターに知られるのは、なんだかマスターに心配をかけてしまいそうで、それが、凄くいけない事の様な気がしてちょっと戸惑った。
悟られまいと、昨日と同じ表情を作った。
「桜を見ていました。」
「いや、そう言うのじゃなくて…。制服。」
「はい、普通私ぐらいの体格であれば、学校に言っている方が普通の人間ぽいかなと思いまして、編入手続きをして、制服をもらいました。」
マスターは、何やら大きなため息をついた。
何か間違ったかな…。
初めて、エアルの心理描写をしてみました。
何か、こう…表現したいのに表現できないモヤモヤが抜けないままに書いてしまいました。(結局いくら悩んでも解決しないと思い、そのまま投稿することにしました。)
何か、気付いた点がありましたら書いてください。
頑張ります。