学校Ⅵ
次の休み時間には、学年中にドM先生の話が広まった。
不安すぎる高校生活の始まりだ。
家にはエアルで、学校がこれでは正直言って気が休まらないな。
入学したばかりで、特に授業は無く、帰宅のために自転車置き場に向かう途中。
「よう。 久しぶりの顔だな。」
と、どこからともなく声がかけられる。
振り向くが、こっちを見ている人間はいない。
聞き覚えのある声だったので、いつもの習慣でも一度前を見てから、左に視線を向ける。
そこには、俺と同じでやや背の低い細身の少年が立っていた。
顔の格好良さなら、平均的で少しばかり優男に見える。
だが、それとは裏腹に、キレたらやばい。
決して、鍛えていないから細い体なのではなく、鍛え上げたが故に無駄な脂肪が一切なく、細いラインになっているため、本気で殴られれば骨が軋む。
その一方で、自分を弱く見せるように仕向け、人の死角に入り込んで存在感を消すなど、変な行動をとって地味な印象を他者に与える。ジミニーズの二人目。
「マッちゃん、か。なんでここにいるの?」
目の前に現れた少年も、桜丘中学での同級生、松尾 恭二が立っている。
俺が、叔父の家に居候になっていることから分かるように、実家の桜丘からの距離はかなり離れており、中学時代の同級生はここを受験していないはずだった。
「だって、中学の時の噂を払拭して、高校生デビューをしたいから遠くまで入試を受けにきたんだよ。地味な奴と思われたくないし…。」
人のことを言えないが、何とも悲しい理由で高校を選んだな。
「そう言えば、お前の担任、どMらしいな。」
いきなり人の不安要素を聞くのに遠慮のない所や、積極的な行動をとるのは相変わらずか。
「あぁ。それが一番の気がかりだな。」
「まあ、人生何があるか分からないからな。でも、あの小迫と一緒に登校とは、隅に置けませんな。」
今朝のあれか…。
まあ、美少女と登校などと言うハプニングは、嬉しくないと言えば嘘だが、はっきり言ってマイナスイメージの強い小迫は、どうにも恋愛対象から外れた女子だ。あんまり、周りがイメージするほど浮かれた気分にはなれない。
「でも、スライディングを食らって遅刻したんだぜ。ロマンチックなことは一切なしだよ。」
「ふーん。」
ここで、『でもさ…。』と切り返してこないのは、こいつなりの気使いなのか、単に興味が無いのかは区別がつかない。
自転車置き場に着くと、隣のクラスの自転車が将棋倒しになっていた。
よくあることだが、面倒くさい。
軽くスルーしようとしたら、マッちゃんが律儀に一つ一つ並べていた。
こう言う誰もしないことを、真面目にやったり、地味だが行動力がある所を俺は評価している。
並べお終えると、自転車の間に猫のキーホルダーの付いた鍵が落ちていた。
「ごめん。ちょっと急ぎの用があるから、頼む。」
マッちゃんは、それを拾いこっちに渡し、律儀に頭を下げてから自転車に跨って去って行った。
言われたからには仕方ない。
あまり手間がかかる事でもないし、届け主の欄に自分の名前を書いて、落し物ボックスに入れて自転車置き場に戻って、自分の自転車に跨る。
みんなは、部活の見学やら、応援団の見学に行って帰る気配は無く、部活棟や屋上が賑わっているのを、ぶっちぎりで無視して帰った。
帰り際に、赤崎先輩が少し焦った様子で、階段を走って転んでいたのは見ないふりをしてあげた。
(意外とドジっ子なのか ? )
高校で生活して、実感していることを題材に、ちょこちょこネタを入れていきます。
感想、その他、書いてくだされば、良いかな~と思っております。
それでは、また来週。




