学校Ⅳ
「それで、さっきは何を言おうとしたの?」
凄いタイムロスをした気がするが、クラスの場所を聞きたかったのを思い出す。
だが、道に迷いましたなんて、赤崎先輩の前で言えと?
恥ずかし過ぎるだろ。
綺麗なお姉さんの前で、そんなことはっきり言えませんよ。
年頃の男の子は、デリケートなのですよ。
「あの、クラスが、」
結局、言った。
「あー、分かる。みんな最初は何処が自分のクラスか分からなくなるの。去年、私もそうだったから懐かしい。」
真剣な顔と、優しい表情が混ざって独特の雰囲気を作り出し、気分を和らげてくれた。
脳内補正かけてなくても美人なのに、この状況でそんなオーラを出されると心臓バクバクですよ。
「こっち。」
それから、赤崎さんの誘導で二階の一年の教室前まで来ることができた。
「ありがとうございます。それと、タメ口きいてすみませんでした。」
「気にしないで。それに、―――。じゃあ、私やることあるから。」
途中が聞き取れなかったが、何か急いだ様子だったので引き止められなかった。
不意に、教室に入る前に腕時計を見ると九時、一分前。
ギリギリ、集合に間に合った。
と、ドアに手を掛けた瞬間だった。
先輩達の努力の結晶である、綺麗な廊下の上を疾走する女子がこっちに走って来る。
スリッパは、ラグビーボールみたいに小脇に抱えている。
集合に間に合うために、走って来たのだろう。
まあ、スリッパじゃ走りにくいからな。
でも、靴下で廊下を走ったら危ないぞ。
爆走少女の足は、光り輝く廊下ではグリップがきかず、止まれない。
慌てて壁に手を着いて、減速を試みるが上半身だけにブレーキがかかり、豪快に転んだ。
さらに、ゴンッ! と後頭部を打ちつけて、「カハッ」とかマンガでしか聞かない台詞を言ってるし。おまけに派手にスカートめくり上げて、頭打った反動で足が跳ねあがっている。(ちなみに、下に体育用のクォーターパンツを履いているようだ。)
それと、鼻が上向いて、一瞬だけ非常に不細工に見えた。
女子にあるまじき情景だ。
でも、止まらない。
アイスホッケーのパックみたいに、減速なしで来る。
おー、滑る滑る。
先輩、良い仕事してますね。
そして最終的に、俺に突っこんできた。
「うっ!」
少女の踵が鳩尾にクリティカルヒットした。
無条件に、強制的に選択肢1
うずくまった。
息できねぇ。
恐るべし、先輩方からの贈り物。
何? 俺は今日、厄日なの?
赤崎先輩に出会えた幸福成分を持ってしても、これは埋め合わせできない。
「キーンコーンカーンコーン。」
遠のく意識の中、放送のチャイム音が鳴り響く。
まさか、登校初日にして遅刻届を出さないといけないとは…。
遅刻届
理由:教室まで、数センチの所で女子のスライディング攻撃を、鳩尾に受けて悶絶した結果。遅刻しました。
教頭が、あきれ顔で受理して俺たちは生活指導から、廊下を走るなと厳命されたのは言うまでも無い。
(完全に巻き添えだけど)
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