呼び方
だいたい、お前の脚力どんだけ強いんだ。自転車に追いついて、横からって」
「災害に駆けつけられるように、強化されていますから。」
あんたが、災害おこしてどうすんだ。
災害救助用エアコンて…、何考えてんだ。
「およそ、八十キロは出ますよ。」
設計者は、家電に何を求めてるんだ。時速八十キロって、飛脚便か!
近所のおばちゃん腰抜かすぞ。
ちょっと待て、あまりに凄い発言が連発したせいで、何かとんでもない発言がスルーされた気がする。
「あの、エアル。マスターって俺のこと?」
「はい、所有者はマスターです。」
「でも、昨日は…。」
「あの時点では、誰が所有者であるかはっきりしていませんでしたから、名前で呼ばせていただきました。」
「で、なぜ俺が所有者だと?」
「康雄さんは、私の実態を知らないので所有者と言うには、不適切かと。それと、今回のポイントで私を購入したのは、マスターですから。」
「他の呼び方はないかな?」
「健二さん。」
「…」
改めて面と向かって呼ばれると恥ずかしい。
「健二君」
なんだか、変な感じがする。
「ケーンジ。」
「呼び捨てか!」
しかも、かなりフランク。
「だって、他の呼び方をと言われたので。」
「じゃあ、西藤でいい。」
基本的に、男子は女子から下の名前で呼ばれると、何処か落ち着かない。
違う?
少なくとも、俺はそうだ。
「いえ、叔父様と区別がつけにくいです。」
そんなところで、名字がネックになるとは。
ふと、腕時計を見る。
「あー。学校まで時間が…。もう、好きなように呼べ。」
投げやりだが、仕方がない。
遅刻する訳にはいかない。
「はい、マスター。」
結局それか。
まあ、こいつは基本的に家電だから、人前でしゃべることなんてめったにないからな。
康雄叔父さんの前でだけ、気を付けておけばいい。
そう思い、自転車をこいで学校に向かった。
そうして、アレを野放しにしたのが、後悔の種になったのだった。