妨害
学校に行かねば出会いなど無い。
そう言って、爽やかな朝の陽ざしの中、住宅街を自転車で走る。
安全走行をしていると。
横から凄い衝撃が走った。
安全運転していたはずなのに、側面から思いっきり何かがぶつかった。
端的に言おう。交通事故だ。
ただの交通事故ならまだいい。
袋に入ったアンパンを咥えた、少女が自転車の横からスライディングしてぶつかって来た。
(確信犯!)
そして、その少女は見覚えがある。
「エアル。何してくれる!」
それを聞いたエアルの反応は…
「遅刻、遅刻!」
「おい!人の話を聞かないエアコンだな!」
悪戯が過ぎるぞ。
自転車の横からエアコンが追突しました。
なんて、シュール過ぎるだろが!
警察の人も、そんな事故報告書、書きたくないだろ。
「あ、ごめん。急いでて。」
「急いで自転車にスライディングする女子がどこにおるか!」
「パンツ見えた?」
そんな暇あるか。
だいたい、サッカーじゃあるまいし、住宅街で危険すぎるだろ。
「もういい。おまえ、あれだろ。登校初日の出会いがどうとかそういうシチュエーションをやりたいのか。」
コクン、と頷くエアル。
「こういう、出会いを演出するのは大事かと。家電として。」
家電にそんな使命は無い!
お前と出会ってどうする。
拳を握るな!何だ、その使命に燃える人間みたいに…。
「それは、初めて出会う人間同士がやる事だ。それと、袋に入ったままのパンを咥えて走る人間は多分いない。」
「はじめまして、エアルです。」
初めてじゃないだろ!
「人間同士だって言うのが分からないのか。」
「私じゃだめですか?」
潤んだ目で見上げてくる。
不覚にも、可愛いと思ってしまった俺は、負けだろうか?
「…上目づかいでもダメ!アンパン袋から出してもダメ」
「マスターは禁止事項が多すぎます。ハムッ。」
アンパン食ったよこいつ。
膨れっ面で、パンに嚙り付く姿はなんだか、ハムスターみたいで可愛かったが…。
食い意地をはるエアコンなんて聞いたことが無い。
そ・れ・よ・り・も !
路上でくつろぐな!
この家電、フリーダム過ぎる。
コンセントから離れられるってのが、こんな弊害を生むとは…。




