そして、家電のせいで日常は崩れるⅢ
「戻ったぞ。」
叔父が帰って来たのだ。
部屋を出て、叔父の所へ向かう。
何事も手順が大切。
「エアル。ちょっと待ってもらえるか?」
エアルは部屋で待たせ、まずは説明を一人でしようと居間に向かう。
叔父の康雄は、クーラーボックスから魚を取り出しビニール袋に詰め、冷蔵庫に放り込んでいた。
細身で長身、しかし、貧弱ではない。
顔は、少し堀が深く、若干外人に見えるが、純日本人である。
実年齢は三十四歳だが、二十代と言われればすんなり受け入れてしまうほど、若々しい。
「今日は、結構釣れたぞ。夜は刺身とから揚げだ。」
「楽しかった?康叔父さん。」
まずは、自然な流れを作る。
現実離れした話はいきなりしてはダメだ。
「おう。潮の流れが良かったみたいでな。」
堤防釣りに潮の流れが関係するのかは、健二にはいまいち分からないが頷いておく。
「ちょっと、汗。流してくる。」
そう言って、一度もこちらを見ないまま、脱衣所に向かう。
「あー。行ってらっしゃい。」
まあ、風呂に入った後、リラックスした中で話すのもいいだろうと妥協する。
ひとまずは部屋に戻って切り出し方を考え直してみよう。
と自室に戻ると、エアルがなにやら探し回っている。
「なにしてんだ?」
「付属パーツといいますか、メンテナンスの道具が見当たらないのです。」
たしかに、これほど高性能のものなら、メンテナンスが大変だから、それ専用のパーツが存在してもおかしくない。
誤って段ボールと一緒に捨ててしまったのだろうか。
現在は幸い、康雄は風呂でしばらく出てこない。
エアルと一緒に段ボールを回収に向かおうと、廊下に出た時だ。
勢い良く脱衣所のドアが開かれる。
そして、慌てた様子で健二を見る。
どう考えても、ボディーソープが切れていたので急いで取りに来た様子ではない。
「健二君。これはなんだね。」
そう言って、両手に持っていたのは女性物の洋服と、スカート、下着だ。
さっき、エアルが身に着けていた物。
風呂に入る時に洗濯機にでも入れたのが見つかったのだろう。
「君に、こんな趣味があったなんて、叔父としては非常に心配だ。」
どうやら、女装癖の変態だと思われている。
「そんな趣味は無いから。俺はいたって普通だから!」
必死に訴える。
すると、エアルが横から口添えをする。
「それは、私ので、先ほどシャワーを使わせてもらったときにそこに置き忘れた物で…。」
そこで、康雄はエアルの存在に気付いて、目を丸くする。
そして、健二を見て、さらに眼を点にする。
その視線を追って見下ろすと、健二のシャツにシミが出来ている。
さっきのジュースだ。
ここで、状況を整理しよう。
脱衣所に女物の服一式が置いてあり、目の前の少女がさっきシャワーを使ったと発言。
少女の髪は半乾きのため、ほぼ間違いなく風呂に入った。
そして、サイズの合わない男物のダボダボの服を着ている。
おそらく、甥っ子の物。
今日、叔父は外に出ていたため、家の中には少女と甥っ子の二人きり。
そして、甥っ子の服にはシミが出来ている。
・・・やばい、とんでもない勘違いをされそうな予感。
今回も、ちょい頑張って辻褄合わせをしています




