衝撃のバレンタイン
完璧にノリで書きました。なので皆さんもノリで読んで下さい(笑)
二月十四日、バレンタインデー。
男として生を受けた者ならば誰でも胸の高鳴りを覚えているはず。一方女性として生を受けた者も、愛する人へチョコを送るために試行錯誤しながら手作りで作るはず。
そう、今日は男女共に夢のある日なのだ!
「なにニヤニヤしてんだよ、気持ち悪いなぁ」
「ん、この一年間で一番嬉しい日だから仕方ないんだよ」
今は学校の昼休み。前の席にいる友が後ろ向きに座って、一緒に飯を食べている。……悲しい奴とか言わないように。
それにしても顔に出るほどニヤけているとは驚いた。どおりで周りから白い目が送られてくる訳だな。
「そうか、今日はバレンタインか」
「そうだ。もしかしたら愛するあの娘が俺に……なんて考えたら心拍数は200以上に達する」
「愛するあの娘ねぇ」
パックタイプのお茶を飲みながら友は言った。
どうやら友はバレンタインの素晴らしさを分かっていないようだな。
例えば、幼なじみであり元気いっぱいの女の子が居たとする。
普段は一緒に登校し、一緒にご飯を食べ、一緒に帰る。それだけでも幸せなのだが、二月十四日が近づくにつれて幼なじみは素っ気なくなっていく(その場合男はバレンタインに気づいていない)。
どうしたんだろう、もしかして嫌われた? という焦りの気持ちのまま十四日を迎える。すると今まで素っ気なかった幼なじみがほのかに頬を紅く染めて恥ずかしがりながら『いままで冷たくしててゴメンね。はい、チョコだよ』なんて言いながら渡してくれる。
「エヘエヘ……。我ながら素晴らしいシチュエーション」
「妄想癖は相変わらずだな。だいたいお前にチョコをくれた奴なんているか?」
「ぐっ!」
まさか友が俺の気にしていることをストレートに言うとは。
あぁそうさ、生まれてこの方バレンタインデーは五十過ぎのお袋からしか貰ったことないよ。そのたんびに枕を涙で濡らしたもんさ。
しかしだからこそバレンタインに対する夢と希望は年々大きくなるんだ。
「ま、どうせ今年も期待だけなんだろうがな」
「だから気にしてる事言うなって。てかお前もチョコ貰ったことは……」
俺の口は何か言おうとするも、動かなかった。
クラス人気投票で他を寄せ付けずぶっちぎりでNo.1、さらに生徒会副会長というギャルゲに出てきそうなお方がもじもじしながら友の横に立っている。
多少大きいカーディガンから指を出しており、男心をかなりくすぐる。
ボーっと目の前の事態を眺めていると、
「あの、これ」
No.1のお方が友にチョコを渡した。
「あぁ、ども」
友は片手でチョコを受け取り、軽く笑顔になった。その顔をみたNo.1のお方も笑顔になり去っていった。
「ば、バカな…」
ずっと仲間だと思っていた友に、まさかNo.1のお方がチョコを渡すとは。
「……ふっ」
友は良く言えば勝ち誇った、悪く言えば哀れな目で俺を見て鼻で笑った。
「ま、お前と違ってチョコは毎年貰うんだよ。貰う時はお前が居ない時だったし」
「う」
「う?」
友は俺の発言に首を傾げながら言う。
「裏切り者ー! ユダー!」
俺は急激に立ち上がって教室から飛び出した。ちなみにユダはイエス・キリストを裏切った張本人ね。
教室から飛び出した俺は階段の一番下に腰掛け、うなだれている。
「ね、ねぇ」
「んぁ?」
俺に対しての声か分からないが、とりあえず気の抜けた返事をしながら顔を持ち上げた。
俺の目の前には、No.1のお方ほどではないが、見たからに美人の人が立っていた。ぶっちゃけ俺の好みにストレートだ。
そして、辺りを見渡すと俺以外に人の影は無し。つまり、俺に対して言っていると推測できるであります軍曹!
「あの、時間あったらで良いんだけど、十分後に屋上へ来てくれないかな?」
春キターー! 今冬だけど春キターー!
本当なら狂喜乱舞したいところだが、あくまでも冷静を装う。
「あぁ、分かったよ」
その言葉を聞いたら、目の前にいた少女はパアッと明るい顔になり階段を上がって去っていった。
きっとあの少女は屋上と言うロマンチック(?)なところで渡したい派なんだろうな。
俺は十分なんて長い時間は待てるはずもなく、高鳴る鼓動を抑えることなく軽い足取りで屋上へ向かった。
屋上に着くと俺は壁に寄りかかり、さっきの娘が来るのをまだかまだかと待っている。
ガチャと扉が開く音が辺りに響き渡り、先ほど会った女の子が来た。
「ゴメンね、待った?」
「今来たところだよ」
くっ、一度言ってみたかったんだこの台詞。地味に俺の夢の一つが叶った! てか他にも居ない? この台詞言いたい人。
「良かったぁ〜。それじゃ…」
そう言いながら少女は一度校舎に入る。何するんだろ、と思っているとその後にいたらしい女性の手を引っ張って再び出てきた。
こ、これはまさか!
引っ張られて出てきた女性の手にはチョコが入っているらしき箱を持っていた。
「あのね、この娘がアナタにチョコを渡したいんだって」
・・・。
やっぱりベタなオチかよ……。しかしこれだけは言わせてくれ。後から出てきた奴を見た瞬間、俺の頭の中にある名前が浮かんだ。
こいつジャイアンにそっくりだ。