"天秤の中央地点"
藩が県に変わって、一番困った事の一つがこれだ
たかだか人が一人死んだだけの事で、捜査員として中央から派遣された僕が駆けずり回らなくてはならない
当然の事ながら、死躰も隅々まで改めさせられた
挙句、この事情聴取である
閉鎖的な社会で生きてきた村人や地元役人達は僕になかなか心を開こうとせず、『捜査』とやらは難航し続けて居た
とはいえ、不在証明等の観点から容疑者は居た
彼が妾の子であり、村の共同躰に入り込めない存在だという事実は、動機から考えれば理に適って居たが引っ掛かる点も在った
「僕はやっていませんよ」
背筋のしっかりした少年は、虚ろな視線を床に向けながらそう答える
最近まで彼の存在を恥じた父の手により、土蔵で監禁生活をして居たらしい
その為か、色が白い
華奢でもあったが、調書に拠れば被害者は失血死したあと、足首を残した全身を灼かれて処分されて居る
もし本当に彼がやったなら、心の内には何が渦巻いて居るのだろう
考えたが、解らなかった
実のところ僕が中央から到着する頃には彼は逮捕されて居り、ほとんど僕の仕事は無い様なものだった
「だが」
僕は少年を視た
「もしそうなら、君自身は事件当時何処に居たのだ?」
「祭に、居ました」
「祭……………」
「そこで、被害者の人が村の全員から棒で叩かれて、最後に炎に焚べられるを視たんです」
「それをお巡りさんに通報したら、反対に僕が逮捕されました」
こいつ狂ってるんですよ、と、一緒に取調室に入った警官が面倒そうに言った
聞けば、精神科医の鑑定書も在るらしい
追加資料として手渡されたカルテを読む
医師の報告通りなら、彼には強いせん妄が在るらしかった
「しかし」
僕は警官に言った
「だとしたら、わざわざ自らが逮捕されるような事をするだろうか」
警官が、おかしいやつのやる事ですからね……と答える
会話はそれで終わりだった
帰りの列車が揺れる中
僕は窓の外の流れていく田畑を視ながら、あの少年について考えて居た
最終的に地元警察は、拷問に依って自供を得ようとした様だが上手くいかず、彼を殺してしまったらしい
事件は「犯人自殺」として簡易的に素早く処理され、僕は口封じのため華やかな宴に連日招かれ、土産を幾つも渡された
とはいえ、警官達が口止めしようとしたのは『拷問に依る容疑者致死』の部分だけだ
事の真相は最終的に、誰も何も解って居ない
流れていく景色の中に山が現れて、何人もの人間が居るのが視えた
山賊と思しき風躰の男が、武装した村人に四方八方から銃で撃たれて居る
当然、撃たれて居る側が山賊である事に根拠は無いし、撃っている側が村人である証拠もない
『早く帰ろう』
不意にそう思った
早く家に帰って、まずい夕餉を愉しみたい
きっとそれは、贅を尽くしたあの宴より美味しいだろうから
懐中から煙草を出すと、僕はマッチを探して外套のポケットをあちこちと探った
向かいの席では、老婆があからさまに不愉快そうな表情だった




