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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第一章:土の国ガーランド編
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―007― 重傷者と盗賊

―007― 重傷者と盗賊


目に映った男はみるからに重傷で今にも死んでしまいそうだった。


着ているマントはズタボロで、中に着ている服は所々破れていてそこから血がにじんでいる。


そのうえ、背中の右肩から左脇腹へと一際大きな切り傷が一筋走っている。


そこからにじみ出る血は中の服だけでは飽き足らず、マントさえも赤黒く染め上げていた。


このまま放っておけば間違いなく死ぬだろう男を見かけても、この世界の住人ならよくあることだと言って係わりあいになろうとせずに放っておいただろう。


しかし、この世界の人間ではない聡介にはそんなことは関係無く、助けなければいけないという責任感に駆られて男に話しかけるのだった。



「大丈夫ですか!?今運びますのでちょっと我慢してください!」


「ゴホッゴホッ……まて、動かすな……」


「ですが、そのままでは!」



内臓にまで届くほどの深い傷は見当たらなかったが、口から血を吐いてせき込む様子からすると打撃か何かで内臓も多少傷ついているのだろう。


しかし、動かすな……と言った男に対して聡介はつい声を大きくしてしまった。



「ゴホッ……魔力さえ有れば回復できる……あんたここの鍛冶師だろ……魔鉱石か魔石が……ないか?」


「!今持ってきます!待っていて下さい!」



男の言葉を聞くや否や聡介はその場から走り出して工房を通り抜けて店前のカウンター前まで行った。


今聡介の目の前には白色の光を放つ魔石の玉があり、5個すべてを引っ掴むと裏庭へとかけだしていく。


男のもとへ戻った聡介がみると男は先ほどよりも心なしか顔色が悪くなっている。



「魔石を持ってきました!これです!」



聡介が魔術師の手へ押しつけるように渡すと、3つほど手からこぼれ落ちたが、男は残り2つを握り締めると目をつむった。


魔石を握った男が目をつむって何やら小声で呟きだすと、傷を負っていた場所が傷を覆うように光り始める。


10数秒もすると次第に光が薄れていき、光がおさまった後の肌には血はついていたが傷はキレイに無くなっていた。



「すまん……助かった……」



そういうと男は立ち上がろうとして、バランスを崩して堅い壁に肩をぶつけてしまった。



「なにしてるんですか!まだ治ったばかりじゃないですか!」



聡介は荒い息を吐く男に肩を貸しながらそういうと男を家の中へとつれていく。


なんとか二階へと連れて行きベッドへと寝かせると男はよほど体力が落ちていたのかすぐに眠りこんでしまった。


とりあえずの山場をなんとか乗り切った聡介は売れ残った商品を片づけ始めることにした。


ルシフェリオンとアクセサリー以外の全ての商品を倉庫へと片づけ終わったところで、二階からゴトッという音が聞こえてきた。


まさか……と思って急いで二階へ駆けあがり部屋の扉を開けると、男が立ち上がってこちらへ歩いてこようとしているところだった。


ふらつく男をベッドへと押しつけると、男はなおも立ち上がろうとしたので聡介はまた押さえつけた。



「こんなにフラフラなのにどこへ行こうって言うんですか!大人しくしていて下さい!」


「だが……俺がここにいると迷惑をかけちまう……もう俺は大丈夫だ……」


「全然大丈夫じゃないですよ!今は体力が落ちているんですから、安静にしておかないと……。それに治ったとはいえ怪我人なんですから迷惑をかけるなんて心配をせずに、体力の回復に努めて下さい」



聡介が言うと男はようやく動きを止めた。



「すまない、世話になる……今晩だけ一休みしたらすぐに出ていく。それまで休ませてもらおう」


「困った時はお互い様ですよ。それとこの魔石を握っていて下さい。あなたが使った魔力が回復すると思うので」



男が礼をいうと聡介は、ホッとした表情になって言葉を返しながら、裏庭から戻ってくるときに拾っておいた魔石の玉を1つ渡した。


男がその球を受け取って寝はじめると、聡介も日中の疲れがたまったのか眠たくなってきた。


男が夜中苦しむかも……と思った聡介は壁へよりかかると寝息を立て始めた。


外の太陽はほとんど沈み、空には深い群青色の空が東側から迫っていた。




■□■□■□■□■□■□


日が完全に沈み、深い夜の帳が下りて数刻たったころのことだった。



「お頭……あの野郎が連れ込まれたって家がここらしいとのことです」


「あぁ、あの野郎だけは生かしちゃおけねぇ……情報がバラされる前に俺らが奴をバラすぞ。」


「へい、分かりやした」



不穏な言葉を漏らしたのは、全身を黒色の服で覆った数人の男たちだった。


黒装束の男達の目の前には聡介の家の裏口があり、そこを開けようと一人の男が細い工具と共に近寄った。


しかし、裏口に鍵穴は無くてドアノブしかなかったので男は顔をしかめて戻ってきた。



「すいやせん、お頭……。鍵穴がないんですが……。」


「くそ!内鍵かよ!さては古い家だな、ちくしょう!表にまわるぞ!」



お頭と呼ばれた男は悪態をつきながら表の通りへと回るのだった。


表へと回った黒装束の男達が通りに目を光らせるなか、さきほどの男が工具を持って店の部分の扉の前に立った。


扉についた鍵穴を見かけると男は素早く工具を差し込み、慣れた手つきで工具を動かして鍵をあけた。


ガチャッという音と共に開いた扉はスゥッと内側へ開いていく。



「お頭開きやした。」


「でかした。中に入るぞ。」



店の中へと入った男達が店内を見回すと、壁際に置いてあるアクセサリーが目に入った。



「なんだ、こりゃぁ?……魔力もねぇし、ただのアクセサリーじゃねぇか。こんなのが売れるのか?」



手にとってみたお頭は魔力が籠って無いバングルとネックレスをみると不思議そうに頭をかしげた。



「お頭。なんか凄そうな剣がありやすぜ!」



小声でそう叫んだ男の前には薄緑色の剣がケースに入ったまま置いてあった。


それは聡介がしまい忘れたままだったルシフェリオンだった。



「これは……なかなか……。おい、これの鍵外せ。こりゃぁ売れば結構な値段になりそうな業物だぜ」


「へい、今外しやす」



そういうと扉を開けた男は、ケースに掛かった鍵の鍵穴に工具を差し込むと素早く鍵を開けた。


中からルシフェリオンを取りだした男は、ルシフェリオンを運ぶために自分の背中に掛けた。


それを見届けたお頭が目をカウンターに向けたところで暗闇にまぎれて動く1人の男を見つけた。


それは口封じに殺そうとしていた男の姿だった。



「みつけたぜぇ。このネズミ野郎が……。大人しく俺らに殺されな!」



お頭が見つけたその男は、聡介が助けたあの男だった。




■□■□■□■□■□■□


ベッドで寝ていた男はガチャッという音に続いて階下から聞こえてきた微かな足音に耳をすませていた。


くそ、もう追手が来たのかと思った男は懐から短剣を取り出して右手に持つ。


暗くなった部屋に慣れた目でまわりを見渡すと壁によりかかるようにして眠る聡介の姿が目に入った。


これ以上迷惑はかけられないと思った男は足音を殺して部屋の外へとでる。


階下の音を探りながらながら階段を下りていくと敵はまだ物色しているだけでこちらには気づいてはいなかった。


気づくなよ……と思いながら身をかがめてカウンターの下まで近づいていくが、まだ気付かれない。


しかし、カウンターから出てしまったところで後ろを振り向いてきた男にみつかってしまった。


男はこちらを見て獰猛な笑みを浮かべると言葉を発した。



「みつけたぜぇ。このネズミ野郎が……。大人しく俺らに殺されな!」


「くそ、やっぱりお前らか!しつこすぎるぞ!」



見つかったとなると、上に行けば聡介が…、出口に向かえば敵につかまると見た男は窓へと腕を交差させながら突っ込む。


ガシャーンッと音を立てて窓から飛び出した男はしばらく進むと、全員を聡介の店から引き離すために後ろへ振り返って敵がついてきているか確認をした。


男は、男達も店から出てきて追いかけてくるのを確認すると再び通りを全力で疾走する。


引き離すために何度か姿を見せた後に、男は全力で走って追手をまいた。


男はそのまま夜の街を走ってどこかへと消えていったのだった。




■□■□■□■□■□■□



「おい、君!大丈夫か!おい、起きろ!」



突如大声で起こされた聡介の目の前には、銀色の光を放つ鎧を着た守備隊の騎士がいた。


家の中にいる騎士に不思議に思ってなぜいるのかと尋ねると答えが返ってきた。



「覚えていないのか?……我々守備隊は早朝に君の店の窓が割れているとの報告を聞いて駆けつけたのだ。どうやら賊がはいったらしい。しかし、幸運だったな。ひとつのケースの中身が盗まれていたようだが、君は無事に眠っていたんだからな!」



ケース?と思った聡介は、昨日倉庫にしまう作業の途中で、男の看病をしてそのまま寝てしまったことを思い出した。


嫌な予感を感じた聡介は、部屋を飛び出して階段を駆け下りていく。


階下に降りた聡介の目の前には何事かと集まった人たちが見えたが、それらを通り抜けて、蓋が開いているケースの場所を発見する。


そこはルシフェリオンが収められていたケースの場所で、そのケースには、昨日聡介がしまうのを忘れたルシフェリオンが入っていたはずだった。


しかし、今や空気が入っているだけで、薄緑色の輝きを放っていた剣は影も形もなくなっていた。


嫌な予感が当たり、ルシフェリオンが盗まれたという事実に気付いた聡介は茫然と立ち尽くした。


そこに二階から下りてきた騎士が声をかける。



「君、いきなり走って行くなんて驚くだろう……ん?そんな茫然と立ち尽くしてどうかしたのか?」


「剣が……ルシフェリオンが盗まれたんです……」


「ルシフェリオン?まぁ商売には少々痛手かも知れんが命があっただけ良かったじゃないか」



ルシフェリオンの危険性をただ一人知っている聡介は気が気でなかったが、昨日看病をしていた男のことをふと思い出した。



「あの……もう一人男の人がいたと思うんですが、その人は今どこにいるか分かりませんか?」


「男?いや、みて無いが……。それが犯人か?」


「いえ、昨日裏通りで倒れていたので助けたんです。それで、二階のベッドでやすませていたんですが……」



聡介がそういうと騎士が、その男について聞かせてくれと言ってきたので、傷を負っていたことや迷惑がかかるといっていたことなどを全て話した。



「そうか、そんなことが……。我々でも調査はするがここ最近窃盗の被害が多発しているので犯人は捕まえられないかもしれん。君は家の戸締りをしっかりしとくんだ、いいね?」



そういうと騎士は馬に乗ってかけていってしまった。



「失礼。ソウスケ・カミオ様ですね?ご領主さまがお呼びですのでお屋敷まで一緒にきてくださいますか?」



茫然とする聡介に後ろから声をかけたのは執事服を着て髭を生やした男性だった。



「え?あ、はい……」



茫然としていた聡介だが、返事をするとすぐに馬車へ乗せられてガタゴトと揺られながら道を進んでいった。


しばらくすると町の中でも一際大きくてキレイな屋敷へと連れてこられた。


朝焼けに輝く屋敷はとてもきれいで、町の中で一番美しい建物だった。


馬車から下ろされた聡介は屋敷の煌びやかな廊下を通されて応接間へと連れてこられる。



「今お呼びしてきますので少々お待ち下さい」



そう言った執事服の男性は退出していき、豪華な部屋には聡介だけが残された。


部屋の隅には高級そうな壺や絵画などの調度品がおいてあり、床には毛足の長い絨毯、ソファはとてもフカフカで、机は一切の汚れがないし傷も見当たらない。


高級すぎる物が多すぎる部屋に、聡介は微妙に居心地を悪く感じていた。


しばらくすると先ほどの執事服の男性が、2人の男を連れて戻ってきた。


2人のうち1人は見たことが無かったが、見るからに高級そうな服を着ていたので恐らくはこの屋敷の主だろうとあたりをつける。


もう一方の男の方はというと、なんと昨晩聡介が助けたはずの男だった。


しかし、昨晩とは違って着ている服は、ボロボロだった物から真新しいキレイな服になっていて、顔色は昨日よりはだいぶ良くなっていた。


聡介が2人を見ていると、2人は聡介の前の椅子に腰かけてから口を開いた。



「君がソウスケ・カミオくんだね?私はこの屋敷の主のアームストロング・エドウィン・ハワードだ。昨晩は私の息子が迷惑をかけてしまったようだ、申し訳なかった」


「俺が息子のダンテだ。昨日はおかげで命拾いをした。しかし、そのせいで君に迷惑をかけてしまった。本当にすまなかった。」


「いや、そんなに謝らないで下さい。あれは僕が勝手にお節介を焼いただけですし、命にかかわるようなことは無かったんですから」


「そうはいってもそれではこちらの気が済まない。騎士に聞いたが剣が盗まれてしまったのだろう?お詫びと言ってはなんだがこれを受けとってもらいたい。」



そういうと執事服の男性をよんで、こちらに銀色札1枚を差し出してくる。



「いえ、そんなにもいただくわけには……」



聡介がそう返すが向こうはがんとして譲る気が無いみたいだ。


その様子を見ると結局聡介はそのお金を受け取ることに決めた。



「ところで、昨日何が起こったんですか?」



何も知らない聡介は昨日の夜起こったことについて聞くことにした。


2人は一瞬渋った顔をしたが話すことにきめたようだった。



「実は私たちは、街道を通る時に出没する盗賊について調べていてね。これが中々手強くて全く尻尾を見せない盗賊だったんだ。一向に尻尾が掴めないことに業を煮やしたダンテがついに潜入することに決めてね。盗賊のアジトに数日間潜伏して情報集めと証拠集めをしていたんだ。しかし、脱出する時になって見つかってしまったらしくてね。多くの追手に追われながらもなんとか町へたどり着いたんだが、町へ入る前に斬りつけられた傷が原因で、途中で力尽きてしまったらしいんだ。そこが君の店の裏通りの場所だったというわけだね。」


「それからは君のところで数時間ほど眠っていたんだが、深夜遅くに階下から物音が聞こえてきたんだ。不審に思って下に降りてみたんだが、予想通り盗賊の追手で、悪いとは思ったんだが窓を破って逃げさせてもらった。剣のことは暗闇で分からなかったんだ、悪かった。思い入れのある大事な剣だったのか?」


「思い入れがあるってわけじゃなかったんですけど、あの剣は一番危険な剣だったんです。切れ味も頑丈さもそうなんですが、一番危険なのがあの剣を持つと凶暴な性格になりやすいんです。それこそ殺人狂になりかねないほど……。ですから、早く取り戻さないと……」



途中で説明を変わって引き受けたダンテが聡介に剣のことを聞くと、聡介は苦虫をかみつぶしたような顔になって言葉をもらした。


そんな聡介の様子をみたダンテは一言、すまないと言うと言葉を切った。



「旦那様……そろそろ……」



執事服の男性が、アームストロングにヒソヒソと小声で話しかけるとアームストロングは小さく首を縦に振る。



「すまない、ソウスケ君。そろそろ仕事を始めなければならないのでこれで失礼することにするよ。その剣のことは私達でも調査はするが、見つかる可能性は低いと思う。もし、見つかったら届けさせるから待っていてくれ。では、失礼」



おもむろに立ち上がったアームストロングが聡介へそう告げると執事服の男性とともに豪華な絨毯を踏みしめながら足早に退出していった。



「俺も仕事があるから今日はこれにて失礼させてもらう。また今度いかせてもらうが、今度は客としていくからイイ武器を用意していてくれ。」



アームストロングを見送ったダンテも、ソファから立ち上がって扉を開けて外へ出て行ってしまった。


それからすぐにメイド服姿の――実用的なものなのでフリルは無駄についてない――女性が聡介を馬車まで案内して送って行った。


家へと送られた聡介は、御者に礼を言うと窓が割れた店内に戻っていく。


店内へと戻るとそこには心配そうな顔をしたエドガーが立っていた。


帰ってきた聡介を見つけたエドガーは、心配そうな顔をしたままズンズンと近づいてくるのであった。


6424文字です。ずっと座っているので腰がいたいです。

話数も増えてきて7話となりました。

10話ごろからは更新スピードをおとそうかと思っています。

さすがにこのスピードで更新し続けるのはきついです;w;

それでも、読んでくれるという方は今後もよろしくです。

それでは、次回もお楽しみに!

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