―003― 工房と依頼 ※誤字修正&文章一部改定
※文章一部改定しました!7月19日21:34
※2階の部屋が小さすぎたため直しました…。
―003― 工房と依頼
聡介は只今、エドガーの紹介により古びた――といっても一階に店舗、その奥に工房と倉庫、二階部分に六畳の部屋が1つと、十畳の部屋が1つある立派な店である――店を、案内されている途中だった。
商工ギルドの不動産屋の話によると、このお店を銅色5枚で譲ってくれるという話だったのだが、実際問題そこまでのお金は無かったので、分割払いをするという方向で話が決まった。
本当ならこのお店はだいぶ古くなっているとはいえ、土地もいい方で、銅色5枚ではなく8枚でようやく買えるような場所だったらしい。
エドガーの新人の世話焼きは町でも有名で、そのエドガーが口利きをしてくれたからこそ、これくらいの値段になったんだよ、とは案内をしてくれている不動産屋の話だ。
聡介がソレを聞いて店の奥を見に行っていたエドガーにお礼をいうと、照れたように頭をかきながら、出来上がったばかりの商工ギルドカードを聡介に渡し、自分の店の方向を指さして、俺はそろそろ戻るからな!と言い立ち去って行った。
それから不動産屋から説明を受けた聡介は、頭金として銅色1枚を渡して晴れて契約完了となって、この世界で新たな自分の牙城を手に入れたのであった。
古くなっているとはいえ、木造ではなかったので腐食しているようなところはなく、掃除を徹底的にすれば、汚れはすぐ落ちるようなものだった。
しかし、そのまま放っておくわけにもいかず、聡介は、まずはお店の掃除をすることにした。
店の部分は棚や、剣を立て掛ける木の箱が、傷ついていたがまだ十分使えるようであったのでそのまま使用し、錬金術で汚れを分解して落とすことだけにした。
このとき錬金術で新品同様に直さなかったのは、ボロ屋が一夜で直っていれば不審がられる…と思ってのことである。
店の奥の階段をのぼり、2階の部分にいくと、上の2つの部屋はどちらも蜘蛛の巣が張っていたり、なんだかよく分からない虫が何匹もわがもの顔で占領していた。
聡介は、早々に虫たちにご退場していただくために、窓を開け放ち、引っ掴んでは窓から放り投げていった。
投げ捨てられた虫たちは不機嫌そうに羽音を立てたりしながら各々散って行ったみたいだ。
またもや、錬金術をつかって瞬く間に汚れを落とした聡介は、次に、長い年月のせいで出来たのであろうひび割れを、これまた錬金術で次々と修復していった。
新品のようになった2つの部屋を満足げに見渡した聡介は、最後にのこった工房の方へと足を向ける。
階段を降り、店の奥の階段横の扉を開けて工房に入った聡介の目に入ってきたのは、煤でよごれた溶鉱炉らしきものと、ハンマーや、ふいごなどの工具が雑多に置かれた光景だった。
溶鉱炉は煤けたままで問題は無かったが、前の主人が置いていったのだろう工具類は、錆びて動かなくなったり、ふいごが破れていたりして使い物にならなかったので、錆を取ってしまえば、多少不自然にはなると分かっていても錬金術で直すほかなかった。
キレイになった工房を見渡すと、錆ついてはいるが頑丈そうな鍵が掛った扉を発見し、その扉の方へと近づく。
鍵は大型の物で、ハンマーなどで壊そうとした形跡があるも、未だにしっかりとその扉を己の役目通りに守っていた。
しかし、そんなものは聡介には一切関係が無かったので、あっさりと鍵を分解すると、鍵は工房の固い床へと落下し、甲高い悲鳴をあげて己の長い役目を終えた。
何があるのだろう?とワクワクしながら聡介が扉を開けると、その先に広がる物はただの石くずのように見えた。
が、更に扉を開け放ち、もっと多くの光を中に引き入れると、ソコにあるのは光を受けて黒光りする大量の鉄鉱石と木炭であることが分かった。
しかし、鉄鉱石は精製しなければ固いだけのただの石なので、倉庫から全て取り出して、錬金術で鉄のインゴットと、石クズとに分離していった。
鍛冶に必要不可欠な鉄を手にいれた聡介は、まずは何の変哲もない西洋剣を3本ほど練成してみて、創り方のイメージを掴むことにした。
出来上がったものをエドガーのもとに持っていこうかと思ったが、工房を獲得したその日に3本も出来上がっているのはさすがに不自然かと思い、持っていくのは明日にすることにした。
創り終えて外に出てみると、既に日は傾きすっかり暗くなり、まわりの人影は少なくなっていたので今日のところはこれで終わろうと思い、晩ご飯調達のために食事が出来るところを探して通りにでた。
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町は暗くなっていたが、すこし遠くに明かりがついている店を見つけ、この時間にやっているということは宿屋か食事処だろうとあたりをつけ、その店の前まで歩いていくことにした。
店の前までいくと、看板にナイフとフォークが交差している板が目に見えたので、店の中へとはいっていく。
「おーい、ソウスケ!今から飯か?どうせなら一緒に食おう!」
入った途端にどこか聞き覚えのある声を聞いて右手を見れば、数人の男性と一緒に楽しそうに酒と肉を頬張るエドガーがコッチを見て手を挙げている姿があった。
「あ、今そっちに行きます。」
そう言った聡介は、周りの人たちは誰だろうと思いながら、エドガーの横の席に腰を下ろす。
「おぅ店の方の準備は順調か?まぁまだ鉄鉱石やら木炭やら必要なものはたくさんあるだろうからしばらくは動けれないだろうがな。少しくらいならわけてやれるがいるか?」
エドガーがこう言うと、向かいに座った男がエドガーは本当に世話好きだなぁワハハハハッ!と豪快に笑う。
「あぁそのことなんですが工房の奥の扉を開けたら大量の鉄鉱石と木炭が置いてあったんです。たぶん前の持ち主のなんでしょうけど、この際だからありがたく貰っておこうと思うんです。」
「なに!?あの扉をあけたのか!ワハハハハ!!ソウスケは本当に運がいいな!初日に大量の鉄鉱石と木炭をゲットできる奴なんてそうはいないぞ!ワーッハッハッハッハ!!!」
酒も入っているのだろうエドガーは、聡介の運の良さを聞いて、楽しそうに、かつ豪快に笑い飛ばす。
「ソウスケ!今日は俺らのおごりだ、たくさん食え!!」
「ブッ!ゲホッゲホ…おい、エドガー!?俺らってなんだよ、俺らって!?」
聡介の反対側のエドガーの隣に座っていた男がのんでいた酒を噴き出して、むせながらエドガーに聞き返す。
エドガーはと言うと、いいじゃねぇか、新人の船出だ。こまけぇこと気にすんな!と言い、酒をさらにあおる…どうやら完璧に出来上がっているらしい。
その後、迷惑にならない程度食べた聡介は、明日もあるので……と言って、その店から涼しくなった夜の通りへと出た。
「エドガーさん、本当にいい人だなぁ…。なんか第二の父親みたいな感じがする。」
と、異世界で出会った面倒見のいいエドガーに感謝しつつ、そんなことを思っていた聡介だった。
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翌朝早くおきた聡介は、怪しまれないようにと炉に火をいれて、ハンマーを打ち鳴らしておき、しばらくして火がおさまったのを確認してから、エドガーの店のもとへと3本の西洋剣を携えて歩いて行った。
ガーランドの町の朝は早く、開店準備をする人が既にちらほらと見てとれる。
「すいませーん。エドガーさんはおられますかー?」
エドガーの店へ着き、準備をしている少し年上に見える従業員の方にエドガーさんの場所を聞くと、店の奥で品物を並べているエドガーさんのもとへと案内される。
「おはようございます、エドガーさん。昨日さっそく剣を3本ほど打ってきたんですけど見てもらえませんか?」
「おぅ、…おはようソウスケ。ん…剣打ってきたって?どれ、見せてみな…。」
エドガーはいくらか元気に欠ける声音だったが、昨日は飲んでいたし、それとも朝に弱いかだろうと思い気に留めなかった。
「ほぅ…。こいつはすげぇな。鉄の純度がここら辺じゃみないほどに高いな。コレはソウスケが精製したのか?」
近くの棚から取り出した小さな金槌みたいなもので刀を軽く叩いて音を聞いていたエドガーが顔をあげ、驚きとともにソウスケを見る。
「えぇ…ちょっと部外秘なので教えられないんですが、自分の住んでいた処に伝わる独自の精製法でしていて、高い純度で精製できるんです。」
聡介はとっさについた出まかせにしてはつじつまが合うようにうまく誤魔化せたなぁ、と感じながら笑顔を顔に浮かべて言った。
「ふむ…そうか、残念だが仕方ない…。いや、それにしてもコレはいい剣だな。俺も儲けは必要だし……そうだな、1本500ギルでどうだ?」
「分かりました。その値段でお願いします。」
そういうとエドガーはカウンターらしきところの裏にいき、手に1500ギルを持ってきて聡介の剣3本と交換した。
「あぁそれと鞘と柄は、今回は俺がつくって合わせておくが、今度から自分でやってくれば、買い取りの値段をもぅ少し上げれるからな。じゃぁそろそろ店も忙しくなるから、悪いが俺はひっこむぞ。」
と周りの商品や、廃材をみていた聡介に告げて店の奥へと歩いていく。
「あの!もし捨てるならこの廃材もらっていってもいいですか!?」
奥へと去るエドガーに、大きくなり始めた町の喧騒に負けないように、声を張り上げて言う。
あぁ、好きにもっていけーと適当な返事を返しつつ、エドガーは完全に店の奥へと姿を消した。
あとに残った聡介が大量の鉄くずが入った木箱を抱えようとすると、聡介よりも5歳ほど年上に見える従業員の一人がからかうように笑いながら、君じゃおもくてもてないぞーっと言ったが、聡介がムッとして黙って持ち上げて帰るのを見ると、ソレを唖然とした顔で見ていた。
「おいおい…嘘だろ?大の大人が3人でようやく持ち上げて運ぶような重さだぞ…。」
聡介は意に介さず、黙って自分の店へと木箱を抱えて歩いて帰って行った。
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「さてと…、この世界がどれほどの治安か分からないけど、防犯に徹するに越したことはないよね…。それに練成をみられると色々と面倒な事になりそうだし…。」
もって帰ってきた鉄クズと自分の目の前にある工房へと続く扉を交互に見て、聡介は一人呟いた。
目の前にある扉は、確かに鉄製ではあるが、何度も衝撃を加えてしまえば外れてしまいそうなぐらいの強度にみえる。
盗人どころか強盗が来てしまえば、この扉はいとも簡単に破られてしまうだろうことが容易に想像できる。
嫌な想像をした聡介は、ぶるり…と体を震わせてから、鉄クズを扉の前に持っていき、そこで掌を重ねて練成を開始する。
バチバチと音を立てながら、扉が分厚い鉄の扉へと変わっていく光景を、何度見てもキレイな光だなぁと思いつつ、イメージを保っていると、次第に光がおさまり、鉄製の分厚い扉が、工房への道を遮る重厚な文字通りの鉄壁となって立ちふさがっていた。
「うん、これなら大丈夫かな?」
確認のためにタックルをかましてみても、扉はビクともせずに、逆に聡介の肩の方が鈍い痛みを発するだけで扉にはなんら変わりは見られなかった。
「イタタタタ…ちょっと強くぶつけすぎたかな…」
鈍い痛みを発し続ける肩をさすりながら扉の出来栄えに満足するが、用心を重ねて鍵も練成して扉に取り付けられるようにしておく。
ひとまずやることがなくなった聡介だが、そういえば材料の補給はこまめにしておかなければ…と思い立ち、冒険者ギルドへと――材料の補給は冒険者ギルドに依頼すればいいとエドガーに言われていた――出かけた。
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「依頼をしにきたのですが、手続きはどうすればいいんでしょうか?」
冒険者ギルドにやってきた聡介は、受付で素晴らしい営業スマイルを浮かべるお姉さんに話しかけることにした。
「御仕事のご依頼ですね。では、あちらの机でこの用紙に依頼内容と、報酬、注意事項、依頼受諾場所を指定して書いてきてください。」
お姉さんから、お姉さんが机の下から取り出した用紙を受け取り――この間も営業スマイルはくずれない――言われたとおりに机の上で内容を記入していく。
依頼内容: 鉄クズ・鉄鉱石の採集 ※採掘場所問わず
報 酬:50~100ギル
受諾場所: ガーランド4丁目鍛冶屋にて
注意事項: 量が多ければ上乗せしますが、質にもよります。
「こんなもんかな?よし、お姉さんに見せに行こう。」
書き終えてペン――インクを使うタイプだった――を机に置き、紙――なんと羊皮紙だった――をお姉さんへと手渡す。
「はい、たしかにお預かりしました。依頼内容は間違いありませんね?…では商工ギルドカードの提示をお願いします。」
確認されてうなずくと、エドガーより渡されていた商工ギルドカードを、持ってきたショルダーバッグから取り出しお姉さんに渡すと、しばらくして確認が済んだのかギルドカードを返されたので、ショルダーバッグの中に大切にしまい込んだ。
「御仕事のご依頼たしかに承りました。それではまたのご利用をお待ちしております。」
依頼が完了――最後まで営業スマイルは完璧だった――すると、冒険者ギルドにいても意味が無いので、カラッと晴れた気持ちのいい日差しの中を歩いて帰る。
何事もなく店まで帰ると工房に入り、残りの鉄クズを集めて練成するために工房の片隅にまとめて置く。
いざ練成開始!とばかりに首を回して骨をコキコキと鳴らし、手を重ねようとすると、店先から男のものだろう呼び声が聞こえてくる。
「う~ん…出鼻をくじかれちゃったな…。まぁいいや。今行きますー!!」
表に聞こえるようにすこし声を張り上げながら小走りで店先まで駆けていく。
「依頼を受けにきた方ですかー……って、あれ!?あなた達は…。」
店の扉を開けながら言いつつ、目線を上へとあげるとソコにはこの世界に来てから初めて出会った冒険者らしき3人組が同じくビックリとした様子で立っていた。
5419文字でございます。それにしてもビックリしました…。
既にお気に入り登録数が17件も…期待されてるようで嬉しいのですが、期待にそえれるかどうか心配でございます。
総合評価も34PTと好評価?をしていただき恐縮しております。
…次回は本格的に武器を創ります。名前付きなどの剣はまだ登場してきませんが、架空上や、伝説上の金属といったものは数個ほどでてきます。
次回もお楽しみに!!