―028― 騎士団と再開
―028― 騎士団と再開
「ソウスケ!おい、起きろ!すぐに出てくるんだ!王都警備隊の騎士がえらい剣幕で店を開けろと言ってきてるぞ!一体何したんだ!?」
この日のソウスケの朝は太陽が昇るよりも少々早く、まだ空に薄暗さが残っている時間に、工房の扉をジョージが何度も強くドンドンと叩く音で飛び起きた。
飛び起きたといっても、体はまだうまく動かず、意識だけが先行してしまい、ベッドから降りた時にふらついて工房の壁に肩を数回ぶつけるが、それでも聡介は何事かと焦って工房の扉を急いで開ける。
「あぁソウスケ、良かった、起きたか!さっき俺たちも下で扉を叩く音と声を聞いて二階から飛び降りてきたんだが、警備隊の騎士が何か急ぎの用事らしい。早く出たほうがいいぞ」
ジョージの言葉を聞いて店の入り口の扉の方を見ると、全身を鈍い鉄の光を放つ鎧の装備で固めた王都警備隊の騎士5人ほどが早く開けろとばかりに店内を見てきていた。
聡介はすぐに、腰のベルト通しにさげたアンティーク調のキーリングから店の扉用の鍵を取り出して、店の出入り口の扉を開ける。
「早朝に失礼する。私は王都警備隊所属のベルナルド・バルベリーニだ。街外れの峠で襲われた商隊の荷物が、賊によってこの店に持ち込まれたとの情報があった。大量の鉱石だそうだ。心当たりはあるか?」
「……はい、鉱石なら確かに昼間に大量に持ち込まれて買い取りました」
「よし、確認させてもらおう」
リーダーらしいベルナルドが首だけを後ろに振り向かせて、後ろに控えていた騎士を呼ぶのを見た聡介は、今日片付けようと思い、工房入り口近くに積んでいた鉱石箱4つを店内に並べる。
騎士たちがそれぞれに木箱を開けて中身を確認し始めた様子を見て、聡介が近くの壁に背を預けていると、ジョージがスッと近づいてきた。
「なんだか最近賊絡みの事件ばっかりだなぁ。ソウスケもしかしてお前呪われているんじゃないか?」
「……いや、洒落にならないんだけど……」
「悪い悪い、別にそういうつもりじゃねぇんだ。ただ最近ソウスケのまわりは厄介なことが少々多すぎる気がするのは確かだ。商売だから仕方ないとは思うが、明らかに怪しい奴とは係わり合いになるなよ」
ジョージの一言でがっくりと肩を落とした聡介を見たジョージは、その様子に苦笑を顔に浮かべつつ、冗談だということを口にする。
「うん、わかった。気をつけるよ」
本当に気をつけなければ、またガーランドの街のときのようなことに巻き込まれかねないと思った聡介は、少し気を引き締めた。
「店主、間違いないだろう。量、内容物、木箱の形状からしてまず間違いなく襲われた小隊の物だ。これらを賊から買い取ってしまった店主には悪いが、盗品は発見され次第元の持ち主に返されることになっている。また、盗品と知った上での買い取り、及び盗品の使用は禁止されており、厳しい処分が待っている。確認のために聞いておくが、盗品ということは一切知らなかった上での買い取りだったのだな?」
「はい、盗品ということは全く知りませんでした。盗品ということを知らなかったとはいえ、申し訳ありませんでした」
「……よし、嘘は無さそうだな。ではこれらは我らが持ち主に返還しておくので、今後は気をつけるように」
聡介の返答を聞いて1,2秒じっと聡介の目を覗き込んだベルナルドは、聡介の目が揺らがないことを見た上で、嘘は無いと判断を下した。
「あぁ、そうだ。すっかり聞き忘れていたな。この店は最近できたばかりらしいじゃないか、今後のためにも名前を教えてくれないか?」
「そうですね、名乗られたのに返さなくて失礼いたしました。私の名前はソウスケ・カミオです。少し変わった名ですが…」
「まて、ソウスケ・カミオ?もしやガーランドにいたあのソウスケ・カミオか?」
聡介が自分の名前を名乗ると、その先を防ぐようにベルナルドが言葉を挟んだ。
「はい、確かにガーランドには数日前までいましたが……」
「あぁやはりそうか!私だ、ヴィリフィエラを売ってもらった元ガーランド守備隊長だ!いや、まさかこちらに移転しているとは思わなかったな。……あぁお前たちは先に行っててくれ、私はもうしばらく用事がある」
立ち止まってベルナルドを待っている4人の他の騎士に気がついたベルナルドは、荷物を持って先に行くようにと伝えてこの場に残った。
そのついでとばかりに、用が済んだと思ったのかジョージ達も話の邪魔をしないようにと配慮したのか、最後にジッと観察して危険が無いのを確認して二階へと引き上げていった。
「君にこの剣を売ってもらってから運が向いてきてな。ちょうどガーランドの周囲の森で演習をしていた時に、滅多に出ないんだが手負いのオーガが出たことがあったのだ」
「オーガって……よく無事でいられましたね」
ちなみに『オーガ(鬼)』とは人間の1.5倍ほどの身長で、強靭な骨格を有し、極めて凶暴で残忍な性格で人の生肉すら食べると言われる危険な魔物だ。
強靭な骨格を持って人間サイズの獲物であれば、一撃でそれを潰すほどの怪力を持つ反面、知性や賢さといったものがほとんど無く倒すのは注意さえすればなんとか出きるレベルではある。
が、それは装備が揃っていればの話であり、生半可な武器だと突き刺さってしまえば、筋肉を膨張させられて抜けなくなり、武器事態を折られてしまうこともしばしばだ。
「もちろん手負いと言っても相手は腐ってもオーガだ。けが人はそれほど出なかったのだが、武器がちょうど演習用で討伐用の物をあまり持ってきていなかったためにかなり折られてしまってな。その時にこの剣を使って訓練をしていた私が何とかオーガを倒すことが出来、その功績のおかげで昇進することが出来たというわけだ」
「なるほど、それで王都に異動となったんですね」
「そういうことだ。いや、しかし君には感謝している。この剣が無ければこうやってココに今いることも無かっただろうからな。君には感謝してもしきれないぐらいだ、おかげで妻にも良い暮らしをさせることが出来ている」
「いえいえいえ!それはベルナルドさんの力があったからですよ。私はただの剣を売っただけに過ぎませんから。結局はその剣を扱う人の技量が優れていたというだけのことです」
感謝の気持ちを真っ直ぐにぶつけられた聡介は少々焦りながら謙遜して言葉を返した。
「そう謙遜するな。君は良い武器をつくったんだからな。……これはお礼の気持ちだ。盗品だと渡したお金は返ってこないからこれを足しにするといい」
言葉の途中からゴソゴソと鎧の内側を探っていたベルナルドは、言葉を言い終わると同時に紫の布に包まれたモノを鎧の中から取り出して聡介の手の上に乗せてきた。
「いや……流石にここまでしてもらうのは……」
布自体はそれなりに上等そうなものだが、中に入っている何かが硬くゴツゴツとした感触だったために気になった聡介は、失礼だとは思いながらも包みを開き、中に入っていたものを見て驚いた。
布の中に入っていたのは、南国の海を思わせる明るく純粋なクリアブルーの輝きを放つ宝石で、研磨面の寸法や角度の絶妙な関係によって生み出される白色光の内外部の反射・スペクトルカラーの反射・動きによって生じる反射のどれをとっても、宝石の持つ魅力を最大限に引き出している。
宝石にさほど興味の無かった聡介にも一目で分かるほどの一品だったので、聡介はこれほどのものを受け取るわけにはいかないと思って断ろうとした。
「遠慮するな。うちの妻は宝石を着飾るタイプではないし、私も金銭に困っているわけではない。それに昔世話をした古物商がお礼にとくれただけのモノだ。そうとくれば私が世話になった君に渡すのが正しい騎士道だと思わないか?ここは騎士の私の顔を立てるという意味で受け取っておいてくれ」
流石にそこまで言われて断り続けるというのは逆に失礼にあたると思った聡介は、今度はありがたくその紫の布に包まれた宝石を受け取ることにした。
その様子を見て満足したのか、ベルナルドはそろそろお暇するよと言って来た道をゆっくりと引き返していった。
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ベルナルドが帰り、聡介が一息ついて宝石をしげしげと見ていると、次第に朝の澄んだ空気と、だんだんと頭を見せ始めた太陽の眩しい光が店内に入ってきた。
まだ少しだけ眠気が残っている聡介だったが、太陽の光を浴びて体を伸ばしていると体内時計が調整されていき、伸ばし終わって深呼吸をしたときにはすっかりと眠気が吹き飛んでいた。
しかし、眠気が吹き飛んだからといってまだまだ早朝であることに変わりは無く、市場も早すぎて開いていない。
よしんば開いていたとしても、買い付けや飲食店などの大口の注文ばかりなので行ってもすることが無いのだ。
外に出たとしてもすることも無く、店内の整理や朝食作りはガチャガチャとなってしまい迷惑になると思った聡介はとりあえず工房の中に戻った。
工房の中もそれほど物が置いてあるわけでもなく、目に付くものといえば炉と墨と鉄屑と雑多な生活用品ぐらいなので自然とやることは決まってしまう。
工房の中なら多少音が響いたとしても外までそうそう聞こえないので、聡介は暇つぶしがてらに補充用の鉄剣や、鉄とアダマンタイトを混ぜた『アイアンタイト』の剣、ダマスカス鋼の剣を適当に練成していった。
相変わらず練成時にはバチバチと電気の弾ける大きな音が工房の中に響くが、外にもれてはいない。
ちなみに現時点での店内に置かれている販売可能の剣の性能を比べると
アダマンタイト>ダマスカス鋼≒アイアンタイト>鉄剣となっている。
ダマスカス鋼とアイアンタイトでは性能では≒となっているが、実際に販売する値段としてはかなり大きく差がある。
ダマスカス鋼は性能自体もさることながら、その独特の模様も価値を持つため、何の装飾も無くただの薄緑色のアイアンタイトよりも値段があがっているのだ。
しかし、アイアンタイトには装飾も何もない剣としての剣のためにコストパフォーマンスに優れるという一面もある。
僅差でダマスカス鋼製の剣には負けるものの、性能自体はダマスカス鋼に迫るものなので金銭に余裕のない冒険者達には比較的安価で高パフォーマンスの剣となっている。
それではダマスカス鋼製の剣が売れにくくなるのではと思いかねないが、こちらにもしっかりと狙いはある。
ダマスカス鋼製の剣は、主に中小規模の貴族、または騎士団に所属するものなど身分階級を重視する者達用となっている。
剣に中々に見るような模様でなく、それでいて一つとして同じ模様の無いダマスカス鋼で、値段も安すぎずそれなりに高級なものとあれば例え使われなくとも一種のステータスという面でも売れる可能性もある。
そうして、アダマンタイトを創る時は時に慎重になりながらも比較的早いペースでそれらの剣を完成させていった。
あまり数を作りすぎてもいけないので適当なところでそれを切り上げた聡介は、工房の扉を開けて店内に戻る。
太陽は完全に顔を出し、まだ本調子ではないものの砂漠にサンサンと日光を降り注がせている。
午後は結構暑くなりそうだと思った聡介は、練成などをしていたために、そろそろ鳴き出すだろう腹の虫を沈めるために朝食作りに取り掛かった。
4547文字です。
お久しぶりです、皆様。地震大変でしたね……。
私の宮城の友人もあわやというところでなんとか命拾いをしたようです。
私はといえば、地震のために神奈川への引越しが伸びたぐらいで、岡山県で何も出来ずにすごしていました。無力さを痛感しました……。
友人が危険に、いや東北の人たちの命の灯火が次々と消えていく中で、私は安全な家の中でTV越しにその中継を見るだけでした。
無性に申し訳なくなり、1000円札をサイフに突っ込み、ちかくの大型百貨店に募金に行きました。
それで、終わりです。自分は何も出来なくてただ他人任せで……。
私にできることといえばこの小説を書いて、呼んでくれる人に一時の楽しさを覚えてもらうぐらいです。
この震災でなくなった方にご冥福を、これからを生きていく人々が幸せになれるように祈るばかりです。
今見てくれているあなたが無事でなによりです。