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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第一章:土の国ガーランド編
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―002― 出会いと親切 ※文章一部改定

※7月15日 質屋の店主が銅色1枚あればイイ店が買えると言っていたのを5枚にしました。後の話で銅色1枚で買っていないのでその矛盾を埋めるためです。申し訳ありませんでした。

※文章一部改定しました!7月19日21:11

―002― 出会いと親切



「う~ん………イタタタタ……背中が痛い……」



それもそのはずで、今聡介は固い地面の上に背中を下にした仰向けの恰好で倒れていた。


背中にわずかな痛みを感じながらも体を起こすと、最初に目に飛び込んできたのは深い緑色の木々。


都会に住んでいて、木々を見るといっても国立公園などしかなかった聡介にとって、それは新鮮な光景であり、吸い込んだ澄んだ空気も加わってとても気持ちのいいものだった。


しばらく周りの生き生きとした木々を見渡していた聡介の耳の鼓膜を震わしたのは葉のすれ合う音ではなく、女性特有の鋭い悲鳴。



「な、なに!?」



突然聞こえた悲鳴に飛び上がり、自身の心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかというほど鼓動が速くなるのを感じながらも、刺激に餓えた現代人の体は野次馬根性丸出しで、悲鳴が聞こえた方へと走り出していた。


木々を避けながらも進み、開けた場所に出た時には、足元に転がっている西洋の片手剣と、倒れた女性の体、それらよりも奥にいるゴリラを2周りほど大きくさせた生き物と、それを相手に戦う大柄の2人の男達が視界に入る。


倒れこんだ女性の髪は活発そうなショートヘアのオレンジ色で、着込んでいる軽鎧は動きやすさを重視しながらも女性らしさの感じられる防具だった。


普段ならば白くてキレイだろう肌には今では血が張り付きその輝きをいくらか失わせていましたが、なんとか生きているだろうと分かるくらいの浅い呼吸を、繰り返しているだけだった。



「おい!アンタも冒険者だろ!?手を貸してくれ!コイツは俺たちだけじゃ手におえん!剣ならあんたの足元にあるからそれを使え!もっとも切れ味は落ちてるがな!」



こちらに気づいたくすんだ茶色の短髪の男が視線だけは敵から外さずに怒声を張り上げた。


聡介には分からなかったが、男はおそらく聡介の服装を見て判断したのだろう。


聡介の今の服装は、裾を折ったジーパンに、黒色に赤のワンポイントが入ったポロシャツ、服に合わせただろうブレスレットとネックレス、レザーのショルダーバッグといったシンプルな格好だったからだ。


男はジーパンやポロシャツを特殊な繊維を織り込んだ物で、アクセサリーは一種の魔術礼装だと判断したらしい。


聡介には知る由もなかったが、この世界でただの一般人がアクセサリーをつけることは少なく、その理由として金属は大抵武具や防具に回されていて、アクセサリーには大抵体力の増強や、回復などといった魔術がかけられるものだったからだ。


もちろん聡介には動物を殺した経験なんて無いし、ましてや命のやりとりをするような危険極まりない場面に出くわしたことなど全く無い。


とっさに何の変哲もない剣を地面から拾い上げたのはいいが、その行動のせいでどうやら敵にも聡介の存在がばれたらしい。


敵は、二人の相手を延々としてもう一人が合流するよりは先にコチラをつぶした方がいいと判断したのか、体をこちらに向けて猛然と突っ込んできた。



「クソッ!アンタ早く構えろ!死ぬぞ!!」



やばい、殺される……。


と、思っても恐怖で動かない体に、何度も動くように電気信号を送り続け、ようやく動くようになった時には既に敵は目の前に来ていた。


恐怖でがむしゃらに剣を握った腕を振るったが、剣筋も何も有ったものじゃない剣は、当然のごとく敵に弾かれてしまう。


しかし、弾かれたことでバランスを崩した聡介は倒れこみ、結果として敵の突進をかろうじて避けることに成功した。


標的を失った敵の体は、停止するよりもはやく後ろの巨木へと衝突し、木の幹に大きなくぼみをつけながらも停止することとなった。


即座に後ろから追いついた、くすんだ茶髪の男と深い青色をしたショートヘアの男が止まった隙に後ろから飛び掛り、深々と、長い両手剣と片手剣を首筋に突き刺した途端、敵は鋭い悲鳴をあげ動かなくなった。



「おい、アンタ大丈夫か?俺たちは早くコイツを運ばなきゃいけねぇから先にいくぞ」



そういうやいなや、二人は聡介がきた方向とは逆の方に女性を抱えて走り去っていった。


一人残された聡介は突然訪れた命の危機にしばらく茫然としていたが、我を取り戻すと急にこの場にいることが怖くなり、二人を追いかけようと走り出していた。



「おーい、まってよー!」



聡介の声は再び静かになった森に反響したが、声が返ってくることはなかった。


不安だったが、この場にいることのほうが危険な気がした聡介は、とりあえず二人が駆けて行った方向に向かって走り出していた。




■□■□■□■□■□■□



「なぁ、ジャック。さっきの奴なんだったんだ?よく考えれば剣も持ってなかったしここらで見るような格好でも無かったよな?」



くすんだ茶髪の男は街道を女性を抱えて走りつつ、隣を走る深い青色をした男に話しかけた。



「さぁ?でも、傭兵じゃないみたいだね。恰好はそれっぽい気もしたけど、構えもしなかったし、何より動きがまるっきり素人だったしね。」



話しかけられた男ジャック・バロウズは肩をすくめながら、聡介をみたときの恰好と動きを思い出して言った。



「まぁジョージが気にしなくてもいいんじゃない?何も知らない奴が迷い込んで入っただけかもよ?」



と、くすんだ茶髪の持ち主のジョージ・アルフレッドに返す。


ジョージはそれもそうだな、と言ってそれから女性をしっかりと抱え直して走る速度を上げた。




■□■□■□■□■□■□



「あの~すみません。この近くで町かなにかありませんか?」



街道に出た聡介は、たまたま近くにいた職人気質なように見える壮年の男に話しかけてみていた。



「ん?なんだ?兄ちゃんここらで見るような顔じゃないな。どっか遠くから出稼ぎか?」



壮年の男は聡介の服装を見て興味深そうにしていた。



「あ?えぇ……え~っと…そうなんです。……えと……鍛冶をしようかと……」



聡介は質問に質問で返されて、困ったようにこの世界に来る前に候補にあげていた職業の名前をとっさに挙げた。



「へぇ……そこまで腕っ節が強そうには見えねぇが人はみかけによらねぇなぁ。……あぁそうだ。近くの町だっけか?それなら俺の住んでるガーランドがいい。近いし何より活気がある。俺は今からガーランドに帰るとこなんだが、一緒にいくか?」


「お願いします。ここら辺のコト全然詳しくなくて困ってたんです。助かります。」


「じゃぁ自己紹介しないとな。俺の名前はエドガー・バーンスタイン、ガーランドの町で武器・防具を扱う職人だ。もし兄ちゃんの打つモンがよかったら買わせてもらうぜ。」


「僕の名前は神尾聡介って言います。…あっ、名字と名前が逆みたいなんで、合わせるならソウスケ・カミオになります。」


「ソウスケ・カミオか。変わった名前だな。まぁこれから大変だろうがよろしくな。」



聡介は人のよさそうなエドガーと一緒に町まで行動をともにすることになった。


真上にうかぶ強い日差しを放つ太陽はとても明るかった。




■□■□■□■□■□■□



「なにぃ!?身分証明書もなにも持ってないだと!?」



町についた聡介に待っていたのは、この町で商売や就職するときに必要となる身分証明書が無くて何も出来ないという事実だった。



「……困ったな。しかたねぇ……商工ギルドに掛け合ってみるか。ソウスケ、ちょっと知り合いのギルドのとこに話してみるからしばらく待ってろ。……あぁそうだ、近いうちに自分の店をひらくつもりならそれの申請もだしておくが。」


「すいません。何から何までお世話になります。お店の申請もお願いします。本当にすいません……。」


「まぁ仕方ないしな……気にすんな。じゃぁそこらへんで時間を潰していてくれ。しばらくしたら戻る。」



そういうとエドガーは町の中へと走って行った。


来る途中に分かったことだが、エドガーはこの町でもそこそこ有名な武器防具店を持つ職人らしく、田舎から出てきた右も左も分からない出稼ぎや弟子を指導したりする面倒見のいい職人らしい。


しかし、時間をつぶしていろといわれたところでお金も何もない聡介は、どうしようかと悩んでいたが、目線を通りにめぐらすと、質屋らしき店が目に入った。


当然売るものも何もない聡介だったが、自分に与えられた能力を試してみるいい機会だと思い、人目の付かない通りの裏に回ってきた。



「よし、誰もいない。ちょっと試してみよっかな。え~っと、材料はないから地面の石や土を使うとして……壺や陶器をつくってみようかな。」



そういうと聡介は、はて?どう練成するのだろうと考えたが地面に手を重ねて置き、とりあえず、創り上げる壺や彫刻をイメージした。


すると重ねた手から広がるようにして、青白い電気がバチバチと音を鳴らして現れ、それと同時に地面から適当な大きさの何の変哲もない壺と陶器の入れ物が出来た。



「う~ん…これじゃぁ売れそうに無いなぁ…。もっと凝った物の方が売れそうだし……ギリシャ文明のが価値が高そうかな…?」



そう言って、陶器や壺を割って、粉々にしたあと、もぅ一度練成しなおそうと思い、また手を重ねて破片とかしたそれらの上に置く。


今度はイメージを変えて、美術的に価値の高そうな物をイメージしていく。


思いついたイメージは、勝利の女神ニケの彫像『サモトラケのニケ』。


その翼を広げた優美でダイナミックな姿を、頭の中で創り上げ、長い年月を経たであろう姿を想像して、頭の中にその全体像を完璧に写していく。


頭の中で創り上げられたサモトラケのニケは、本物よりもかなり小さいが、その優美さと迫力は寸分も変わらない。


掌から溢れる電光はまるでニケの生誕の喜びをあらわすように、バチバチを大きな音を鳴らしつづけ、ニケの彫像を創り上げていく。


その様はとても神秘的で、目をつむっている聡介には分からないが、第三者がこの光景をみれば言葉をあげることすら忘れて茫然と見続けることだろう。


創り終えた聡介が目を開けると、そこには大きさ以外なんら変わりの無いサモトラケのニケの彫像が悠然と立っていた。


自分自身ですらあまりの迫力に見惚れてしまったが、次第に表の通りの喧騒が自分の耳の中へと再び入ってきて我に返る。



「すごいな……ここまで完璧にできるなんて……。……エドガーさんが返ってくる前に早く換金しないと……。」



そう思い直した聡介は、ふだんなら重くて持てないだろう彫像を軽々と抱えて、質屋に行こうとして、ふとその異様さに気付いた。


普通小さいとはいえ、石で出来た彫像を持つことなど一般人には確実に無理だ。


こんなことが出来るのもやっぱり上位世界から来たからその補正によるものなんだろうなぁ……と驚きをおぼえつつまた歩き始める。


質屋につくと、ゴドンという大きな音とともに、表に向かって大きな声を張り上げていた店主の前に置く。



「お、おい……君……コレをドコで見つけたんだ!?教えてくれ!」


「え?え~っと、とある遺跡の奥の方に眠っていたのを持ってきたんですが…」



しまったなぁ、言い訳も何も考えてなかった…と心の中で思いつつ、適当にそれらしいことを言っておく。



「こんなモノがあるなんて…。君10000…いや12000ギル払う!コレを買わせてくれ!!」


「え?12000ギル?」


「ぐっ…。不満かも知れんがこれだけしか払えん…。頼む…。」



こちらとしては『ギル』という単価に疑問を思って聞いたつもりが相手の方はどうやら値段に不満があるとおもったらしい…単価は分からないが、まぁ円に換算してもそれだけもらえるなら儲け物かなぁ、と思った聡介は、それで頷くことにした。



「ありがとう!こんなものがあるなんて驚きだ…。本当にありがとう君!」


「えっと、まぁそれはいいんですが。1ギルって大体どれくらいの価値があるんですか?ちょっと田舎からでてきたばっかりで分からないんで、教えてもらえるとありがたいのですが。」


「あぁいいとも。君は出稼ぎか何かだったのか。なるほどな。コレは軍資金がわりというわけか。で、1ギルだが…そうだな、5ギルほどあればだいたい1食分にはなるな。それと硬貨だが1ギル、10ギル、50ギル、100ギル硬貨までが一般的な数字入りの硬貨で、10000ギルからとなると長方形の薄い札で、色がついて偽造防止がかかる、銅色札は10000ギルで、銀色札が100000ギル、金色札は1000000ギルだ。まぁこれらは早々御目にかかることはないけどな。あぁここらで店をかうなら、銅色5枚あればイイのが買えるぞ。」



つまり1ギルとはだいたい100円程度らしい。


そう考えると12000ギルとは120万円ぐらいということになるのだろう。


質屋だから利益のことを考えるとだいぶ高い値段がついたのだろう、売るときには何百万円もの価値になるのではないかと聡介は驚きと共に思っていた。。



「ありがとうございます、助かりました。それと、もしよければ袋をもらえますか?」


「はぁ…。しかたないね、コレをあげるよ。しかし君は全く何も持ってないんだね。君の未来が心配だよ。なんなら町をいろいろ紹介してあげようか?」


「いえ、エドガーさんという人が色々お世話してくれてるので大丈夫です、ありがとうございました。」


「おぉ、エドガーさんか。なら心配ないな!がんばるんだぞ!」



質屋の主の声援を受けつつ、お金のはいった皮の袋をショルダーバッグの中へといれてしっかりと口を閉じると、ちょうどエドガーさんが帰ってきたところだった。



「質屋に何かようがあったのか?まぁいい、それよりも商工ギルドで証明カードと店舗開設許可書もらってきたぞ。それと、古くて使われてない工房がウチの店の近くにあるんだ。そこなら俺も暇なときには面倒みてやれるし、手を加えれば店としても、工房としてもすぐ使えるからソコに店を構えるといい。」


「何から何まで…本当にありがとうございます。本当に……ありが……とう……ございます。」



ちゃんと生きていけるかどうか不安で、そのうえ生命の危機にもブチ当たった聡介は、ここまでしてくれるエドガーの優しさに触れてつい泣き出しそうになってしまった。



「お、おい!?泣くなって!どうしたんだ!?」


「いえ……エドガーさんがすごい優しくて……僕……すごく不安だったから。本当にありがとうございます。」


「……あぁ……いいから早く涙ふけって……はたから見たら俺が悪者みたいじゃねぇか……。」



そう言いながらもエドガーは、すこししわくちゃになったハンカチみたいなものを取り出して聡介に渡しながら、照れたように頭をかいていた。


聡介は、やっぱりこの人イイ人だなぁと、心の内で思いながらも涙をぬぐって、元の表情にもどしながら見ていた。


5665文字です。いやぁ…大変ですね…。今回も下地作りの回でございます。次回からは鍛冶をしていくつもりですので、なにとぞ…。

…見捨てないで('д';)

貨幣価値については色々考えましたが、うまくいったと思えない(泣)

それにしてもエドガーさんがめっちゃイイ人や…。

キャラが勝手に動くとかないわ~とか他の方々のあとがきをみて思ってた過去の自分を殴りにいきたいです。

プロットも何もない作品ですがこれからもヨロシクです!!

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