―027― ランチと報酬
―027― ランチと報酬
「ふぅ……それにしても、こんな剣造れるなんてソウスケは本当に何ものだ?鍛冶の事はよくしらんが、剣を3本つくるにしても制作スピードが速すぎる気もするし……」
「案外普通じゃないのかも……。これだけ早いってことはもしかしたら魔法を使って何かをしてるのかもしれないわね。あまり気にしてなかったから言わなかったけど、前の街にいたときにうっすら魔力っぽいのが漂っていたようなこともあったし」
目の前から迫ってきた全長4mほどの芋虫のようなサンドワームを横に避けながら、相手の突っ込む勢いに任せて剣を水平に構えるとサンドワームは、竹を縦に割ったようにきれいに真っ二つになった。
これでジョージが倒したサンドワームの数は5体で、ジャックはサンドワームとジャイアントスコーピオンを2体ずつ、エミリーはマミーを8体倒していた。
「おいおい、エミリーそりゃ本当かよ!?」
「本当のことよ。多少習得するのが難しいけど、才能があるなら魔法は使えないことも無いし、魔法使いにならずに生活の足しにするだけの人もいるから、聡介もそういうタイプなのかな~ってなんとも思わなかったんだけど……。もしかしたら新しい魔術でも自分で開発してそれを使って鍛冶をしてるのかもね。ほら、工房なんて前の街にいたときだって、引っ越す時に扉の隙間から中がちょっと見えただけで、後は全部見えないようにしてたし」
「そうかぁ……ん?自分で魔術創れるくらい才能があるのなら、魔法使いとして大成できるんじゃないかな?なんでわざわざそんな回りくどいことをしてるんだろ?」
エミリーの言葉を聞いて、少し引っかかったジャックはその疑問をエミリーに尋ねてみた。
「そういえばそうだけど……。まぁ、何か理由があるのかもね」
「そうだな。けど、あんまり詮索しない方がいいぞ。秘密なんて知られて気持ちのいいもんじゃないからな」
そういったジョージは、切られてからもしばらく暴れていたサンドワームが大人しくなるのを確認すると、サンドワームの腹の真ん中あたりにズブリと剣を差し込むと梃子の要領で腹の中から一つの臓器を取り出した。
剣の腹からズルリと滑り落ちたその臓器を剣で切り開くと、太陽に照らされてテラテラと光る胃酸と共に、今回受けた依頼達成のための鉱石が入っていた。
ガランダイトと呼ばれるその鉱石は、サンドワームに飲み込まれた魔物の体の一部が長い時間を掛けて、魔物を食べて魔力を帯びた酸と結びつくことでようやくできる代物だ。
大抵の場合はそのまま溶けて無くなってしまうので、非常に珍しく、通常2mほどのサンドワームが4m級に育ってようやくみつかるといったぐらいのものだ。
使用方法としては、魔法で不純物を無くして創りだした純水で丸一日煮込むことで強力な溶解剤として精製し、通常の溶解剤では溶けない魔法用の触媒を溶かす時に用いられるのが一般的で、魔法を研究する人達の間では結構な値段で取引されている。
4m級のサンドワームが5体目で出て、そこからガランダイトが一発で見つかったジョージは、こりゃ運がいいなと思いつつ、砂の上でガランダイトを転がして胃酸を十分に落としてから、腰元のぶら下げた袋にそれをいれた。
「よし!依頼物もこれでゲット出来たことだし、帰るとするか!」
ジョージが上機嫌でクルッと後ろを振り返ると、そこではエミリーとジャックが美味しそうなサンドイッチを頬張っていた。
「……え?ちょ……。俺の分は?」
「鉱石取りに夢中で、呼んでも返事なかったからいらないのかと思って食べたよ、ジョージ」
「とりあえず死ね!ジャック!」
「ちょ!?まってまって!冗談だから!!」
ジョージはうがぁぁぁぁぁぁぁぁと叫びながら剣を振りまわしてしばらくの間、ジャックを追い回していた。
「……まぁいっか。お腹減ってるし食べちゃおう」
そんな時エミリーはというと、ジョージとジャックの追いかけっこを座り込んで観戦しながら、ジャックがジョージのために本当は残して置いたサンドイッチに齧りついていた。
「……俺……朝もあまり食べてないんだけど……」
朝のホットドックも昼のサンドイッチも食べ損ねてしまったジョージは、街まで帰ると空腹でふらふらとしながら市場の屋台の方へと歩いていった。
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「すいませーん。ギルドの依頼書を見てきたんですが今いいですかー?」
聡介がちょうどお昼ごはんのカルボナーラを作っていると、軽やかな音を立てて扉があく音と同時にそんな声が聞こえてきた。
聡介はちょうど出来あがったソースにサッと絡めてブラックペッパーをふりかけると皿に移してから、近くにあった鍋の蓋を上から被せて冷めないようにしてカウンターに向かった。
カウンターの向こうでは小奇麗な鎧に身を包んだ人の良さそうな青年風の冒険者が薄く頬笑みを携えている。
「うーん、いい匂いですね。これからランチといったところですか?」
「ええ、ちょうどカルボナーラを作っていたところなんですよー」
ただの世間話に聡介がちょうど作っていた料理名を挙げてにこやかに応えると、そこでその好青年は眉をひそめた。
「うん……?カルボナーラなんて料理あったかな……?」
「え~っと……実は私は最近王都にやってきた者でして、カルボナーラって言うのは私の住んでいた場所の料理なんです。牛乳や生クリーム、チーズを使った濃厚でおいしいパスタ料理なんですよー」
あっやば……と思った聡介は内心焦りながらも、表面上はうろたえずになんとかスムーズに話を進める。
ちなみに食材自体の名前は、前の世界のモノと同じモノはそのままの名前で、前の世界に存在していなかったモノは、当然この世界での名前が付けられている。
料理名も一致するのがほとんどだが、カルボナーラはたまたまこちらにそういう文化が無かったからなのかもしれない。
とはいえ世間に広く知られていないだけで、実は地方料理として存在している可能性もあるので、聡介はソコを利用して地方料理としてありふれた料理だと説明したのだった。
「なるほど。これは美味しそうだ。ふむ……チーズの良い香りが食欲をそそりますね」
相手の好青年もそれで納得すると、店内に漂っていたチーズの良い香りをかぐと顔をほころばせた。
「私もお腹が減ってきましたね。早く話を済ませてランチを取るとしましょう。……さて、話が大分それましたが確か依頼内容は金属鉱物などの採集でしたね?」
「はい、間違いありません。」
「実は既に依頼の品物を持ってきているのですが、もしよろしければ買い取っていただけないでしょうか?たまたま安くいただくことが出来たのですが、かさ張るものですから困りまして……」
「もちろん大丈夫ですよ。では、それらを見させてもらってもいいでしょうか?」
「あぁ良かった。これで重い荷物ともオサラバできます」
話していた好青年は聡介の返答を聞くと、困ったという表情を一転させてホッとした表情を作ると、店の外に待機させていた馬車の荷台に向かう。
聡介がその後ろについていき、馬車の荷台に入るとそこには大量の鉄鉱石や、魔鉱石などが入った木箱が合わせて4つほど置いてあった。
これほどの量があるならば、しばらくは依頼の心配をしなくてよさそうだと思った聡介は、一応木箱の蓋を一つずつ開けていき中身の確認をしていく。
当然木箱の中には黒光りする鉄鉱石や、魔鉱石がギッシリと詰まっており、試しに持ち上げてみるとその重さから底上げをしてないことが分かるぐらいの手ごたえがあった。
想定していた量を大幅に超えていたために依頼報酬の額で悩んだ聡介は、最初に話しかけてきた好青年と話し合った後、報酬の額を当初の倍にすることで交渉を終えた。
満足そうな笑顔を浮かべた好青年は聡介に対して、気持ちの良い交渉をありがとうございましたと感謝の意を示して仲間を引き連れて店を出ていった。
それを見送った聡介はとりあえず馬車から降ろして店先に置いていた木箱を店内奥の工房へと運び始めるのだった。
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「へへっ、ニールちゃんよぉ。おめぇも大した詐欺師だよなぁ?いくら俺達に脅迫されているといってもあんな笑顔を浮かべて、人の良さそうな新米店主に俺らの盗品を押し付けれるんだもんなぁ。えぇ?おめぇは生まれついての詐欺師だぜ、全くよぉ」
「……うるさい、黙れ……」
ニールと呼ばれた青年は、先ほど聡介に依頼の鉱石を渡していた好青年だが、今はその表情は悔しさに歪みきっていて先ほどまでの朗らかな雰囲気の面影は全くと言っていいほどにない。
「おぉこえぇこえぇ。でもいいのかぁ?大事なだ~いじな妹が怪我しちゃうかもしれないぜぇ?」
「っ!妹には手を出さない約束だろっ!」
「そうだなぁ、そういう約束だなぁ。でもよ、事故ばっかりはどうしようもないんだよなぁ?事故ってこわいよなぁ?」
「っく……」
ニールは物心ついた時には既に両親はおらず、自分が捨てられていた町はずれの場所の近くに住んでいたお爺さんによって拾われて育てられていた。
そこにはもう一人サーシャという2つ年下の女の子が育てられていて、一緒に暮らしていくうちに二人は次第に仲良くなり、すぐに兄妹と呼べるほどに仲良くなった。
ニール達三人は何年間も町はずれで自給自足の生活をしてゆっくりと過ごしていたが、おじいさんはついに寿命を迎えてしまい、あとにはおじいさんの持っていた土地と家、そしてニールとサーシャだけが残った。
それでも二人は協力し合って仲良く暮らしていたが、1ヶ月前に突然やってきた盗賊達にそれは跡かたも無いほどに壊されてしまった。
家は焼き払われ、畑は走り回る馬によってメチャクチャにあらされてしまい、果てには妹を攫われてしまった。
妹だけは取り返そうと思ったニールは馬で走り去る盗賊達に、途中で何度もこけてボロボロになっても必死でついていき、盗賊達のアジトまでたどり着くことができた。
ボロボロで辿りついたニールに山賊のアジトから妹を助け出す体力は既に無く、それでも無謀にも向かっていったニールはあっさりと捕らえられてしまうが、盗賊団の頭にその根性と整った顔立ちを気にいられ、妹の安全と引き換えにニールは盗賊団に引き入れられることになった。
それからは盗品を捌く時などに街での交渉役として使われるようになり、何度も笑顔を浮かべては商人達を騙して盗品を売りつけた。
当然のごとくニールは生来の人の良さから、今の仕事に嫌悪感を示してはいるが、妹を人質に取られていてはどうしようもなく、仕方なく仕事をこなしているという具合だ。
そうした背景を持つニールは、街の外に出ると仕事仲間兼見張りのための盗賊団の数人に小突かれたり、なじられたりしながらいつものように盗賊団のアジトまで帰っていった。
4333文字です。
いやぁ今回は大分待たせてしまったのに短くて申し訳ないです(汗
キリのいいところで切ったらこれだけになってしまいました。
それと前回の朝食ネタを引きずったのも人によっては不快に感じたかもしれませんね……
自分としてはこの作品にあまり無いギャグ成分をちょっと入れたかっただけなんです、すみません。m(_ _;)m
今回はちょっと話が大きく動きそうな流れで終わってしまいましたが、次は番外編として、聡介の過去話でも書こうかと思っています。
これまでにリクエスト……というよりも、不自然だから書いた方がいいとのご指摘があったので書いてみようと思います。
ぶっちゃけると、ストーリーを考えるのに手いっぱいで過去とかそういうのが未だに確定していない現状です。
ちょっと自分でも書き挙げられるのかが不安ですが、がんばってみますね。
それでは次話(予定:番外編)でお会いしましょう