―025― パーフェクト営業スマイルと開店準備
―025― パーフェクト営業スマイルと開店準備
チュンチュンという小鳥のさえずりを聞きつつ日の出と共に朝早く起きた聡介は、まだ二階で寝ているであろうジョージ達を起こさないように極力気をつけながら、自分の家である店を出た。
早朝特有のスゥッと澄んだ空気を胸一杯に吸いこんだあとは、聡介はこの街にある冒険者ギルドの方へ歩みを進めていった。
ちなみに冒険者ギルドや、商業ギルド、役所などの生活に必要となってくる場所は、自分の店を決める案内の時に聞いておいたから問題はない。
砂漠地帯特有の朝の温度の低さを肌に感じながらもテクテクと通りを歩いていくと、視界に入ってきた冒険者ギルドには既に何人かの冒険者が出入りしているのが見えた。
屈強な冒険者達に混じって冒険者ギルド内へと入っていくと、中のテーブルでは温かい飲み物を片手に魔道書を読んでいる人や、暖炉の前でギルド印の付いた貸出用毛布を被って椅子で眠りこけている人たちがいた。
寝ている人を起こしてしまうにはまだ少しばかり早い時間帯なので、聡介はその人たちを起こさないようにしてゆっくりとギルドのカウンターまで歩いていく。
「すいません、ちょっと採取の依頼をしに来たんですが、今大丈夫ですか?」
「はい、少々お待ちを……」
周りに配慮したのと、後ろを向いて書類整理をしている女性職員が忙しそうだったために聡介が少々声を落として話しかけると、その女性職員はいったん手を止めてコチラへ振り返った。
「「…あ」」
その女性職員はガーランドの冒険者ギルドにいた例の完璧営業スマイルのお姉さんだった。
ただし、驚いたために営業スマイルが崩れて一瞬素の表情が現われたので、聡介は一瞬とはいえ初めて営業スマイル以外の表情を見ることが出来た。
「ソウスケさんおはようございます。こちらへは材料の仕入れにきたのですか?」
それから0.5秒以下の早さで営業スマイルを完全に取り戻したお姉さんは何事も無かったかのように聡介に話しかけた。
「いえ、ちょっと所用でこちらへ店を移すことになったんです。材料はこれから依頼するところです」
「そうですか。大変ですね。私もこちらへ異動することになったのでまたよろしくお願いしますね」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします」
お姉さんにお辞儀をされた聡介は、慌ててお辞儀を返した。
その後はお姉さんに依頼用の用紙を渡された聡介は、それに必要事項を記入していき、書きあげたソレをお姉さんに渡した。
お姉さんに用紙を渡してギルドから出た後は、聡介は市場の準備をしている人達の前を通り過ぎて店へと戻っていく。
朝の陽光を受けてキラキラと輝く店に対してわずかばかりの期待を感じずにいられなかった聡介は、少しばかり良くなった気分のまま店の扉を開けた。
すると本来なら来客を告げるベルが、カランコロンッと店内に軽やかに響き渡った。
ついやってしまった……と思った聡介だが、時すでに遅しとはこのことで、階上からはゴトッという物音が響いてきた。
ちょうど音が聞こえた位置が入口の所の真上だったことからして、おそらくはジョージかジャックのどちらかが起きたのだろう。
朝早くに起こしてしまったなぁ……と後悔する聡介は、せめて気分良く起きてこれるようにしようとお茶を入れ始めた。
結論から言えばジョージ達は二度寝という怠惰な方向へ向かったので、聡介がせっかく用意したお茶は冷めてしまったのだが……。
■□■□■□■□■□■□
あれからしばらくして起きてきたジョージ達に温めなおしたお茶を渡した後、聡介は3人に断りを入れてからすぐに工房の中に入って鍵を閉めた。
色々とバタバタしていて出来なかった新装開店の準備をするためである。
まずは、新装開店の目玉商品として安く売り出す包丁を大量に造る必要があるので、今日一日は工房にこもらなければならない。
とはいえ、実際は錬金術を使って一瞬で大量に造ることが出来るのだが、これもカモフラージュのためである。
最近では、包丁は鍛造よりも鋳造で大量に造られているらしいので、一日で大量に出来ていてもそこまで不自然ということにはならない。
もちろん聡介が錬金術で創った物ならば、性能は鍛造となんら引けを取らないし、耐久性もあるので、鋳造のモノとは比べ物にはならないのは明白なのでなかなか良い広告の材料となってくれるだろう。
刀剣などの武器は冒険者でもたまに手入れにくることはあっても、そう頻繁に買いに来るようなものではないので、こういった地味ながらもコンスタントに続けられる商売も必要である。
錬金術という自由度の高い能力があるのだからそれを使えば更に幅も広がるので、地元に根付いた商売というのもこれから次第だろう。
今回創る包丁は商売として長く続けていくことが目的なので、下手に『折れず・錆びず・切れ味が落ちない』というものにすることはできない。
よって今回のコンセプトは『ある程度の性能』となってくるので、そのあたりのさじ加減を上手くしていかなければならないのが難しいところだろう。
使用用途に合わせて、いくつかの種類の包丁に創ることを既に決めている聡介は、まずは見本となる型を鉄のインゴットから創りだす。
まずは、主に魚などを捌く時に使われる、刃渡り20㎝程の出刃包丁。
これは元々が魚の骨を切るための物なので、他の包丁よりも重くなっており、最近では小骨程度のものが入っている肉などを切る時にも使われている意外に使う機会がある包丁だ。
次は、野菜を切る時に使われる、刃渡り17㎝程の菜切り包丁。
まさに『名は体を表す』とはこのことで、野菜を切るためとして造られているこの包丁は、地――包丁の幅――が薄くなっており、固い野菜も砕くことなく切れる反面、肉を切ることにはまったく向いていない包丁だ。
そして、メインとなるのが肉や、野菜などのほとんどの材料を切れる万能包丁として使われる、刃渡り20㎝程の牛刀。
元々は塊の肉を小さく切るのに都合がいいように設計されており、反りが大きいため押して切ることで、硬い物を切るのに便利で、筋などの切りにくい物を切ることによりすぐれている包丁だ。
他にもセットとしても売れれるように、ペティナイフ、パン切り包丁などを加えて5点セットというのも考えているし、1本あれば万能で何にでも使える三徳包丁も単品で売ろうかとも考えている。
この街ではまだ広まっていないが聡介の剣の評判が広まれば、良作を創る店の一品というブランド的な価値に加え、包丁自体の値段の安さも加わるとじわじわと広まっていくことだろう。
肝心の創り方だが、この包丁は魔力を使わずに聡介が前の世界にいた時に見たことがある特殊な合金を使ったもので作り上げる予定だ。
それは『V金10号』と呼ばれるもので、炭素1.0%、クローム15.0%、モリブデン1.0%、バナジウム0.2%、コバルト1.5%を高純度の鉄に加えたもので、これを使うと研ぎやすく、切れ味がとてもいい刃物が出来上がる。
高純度の鉄は錬金術を使用して不純物が全くないように出来る上に、他の材料はイメージさえすれば創ることも可能なので問題は無い。
そして、包丁の見通しが立った聡介はそのほかに補充しておかなければならない商品を考えるが、それは持ってきた分の武器を店頭に並べれば十分なので、今日は包丁を創ることだけにする。
そうと決まった聡介は、初めての試みとして必要な各種金属を『空中』から生み出すことにした。
目をつむって心を落ち着かせ、目の前の空中で細かな塵が集まって出来ていくイメージで金属を作り上げていく。
イメージが出来上がると同時にゴッという音が目の前から響いてきたので目を開けると、そこには1㎝角程の大きさのクロームが銀白色の光を放ちながら工房の固い床に転がっていた。
その出来を見た聡介の顔は、成功であるはずなのにどこか不満げなものになっている。
それもそのはずで、聡介が想像したのは3㎝角程の大きさのクロームだったのだ。
「う~ん……やっぱり出来なくはないけどイメージするのが難しいなぁ。無から有を生み出せないっていう固定観念が邪魔してるのかな……?」
むぅ……と唸った聡介はしゃがみ込んで、床に転がったクロームの塊を拾い上げた。
鉄よりもいくらか軽いクロームは銀白色に輝いていてとてもキレイだが、今は見惚れているよりも材料を作り上げてしまうことの方が重要だ。
失敗作記念ということで、トランプのダイヤの形に簡単に整えた聡介は、それをネックレスに通して首にかけると、今度は目を開いたまま練成する体制に入った。
イメージの仕方自体はさっきのでも問題無かったので、その方法で練成をしていくと、どこからともなくキラキラとした光の粒子が集まっていき、立方体の形に固まり始める。
凝縮していくイメージを加速させるとその分だけ、目の前の光の粒子の動きも加速していくのを見ていると、この練成方法は目視しながらの方が簡単にできるということも分かる。
そして、それと同時に思いついたのが、この練成方法を使っての攻撃方法だ。
それは、標的の真上に巨大な物質を創りだして、落下させて押しつぶすと言う至極単純な方法で、この攻撃方法はある程度開けた空間でなければいけないという欠点もあるがかなり有用な攻撃方法かも知れない。
この練成方法の技術が上がって一瞬で練成できるほどになれば、応用技として空から流星のごとく降り注ぐ槍のシャワーも、空から巨大な島を落とすことも理論上は可能となる。
そのようなことをしなければならない事態に陥るはずは無いのだが、つい考えてしまうのは男のロマンなのかもしれないと思った聡介は一人クスリと笑った。
■□■□■□■□■□■□
あれからしばらくして全ての材料を創り終えた聡介は、練成する速さが最初と比べ格段に早くなったことに満足そうにしていた。
良い機嫌のままに起こったその後の練成もつまずくことなく、しっかりと思い描いた通りに出来あがり、今聡介の目の前には『V金10号』がデンッと鎮座している。
完璧にできたその仕上がりにペタペタと表面を触る聡介は楽しそうだ。
そして残る工程はそれぞれの種類の包丁の型に成型していく作業だ。
しかし、ただ成形するだけでは芸が無いので、持ち手に滑り止めを兼ねた溝を掘っていき、刃には刀と同じ様な波紋をかざりとしていれておく。
これでデザイン性も上がって少しはかっこよくなったと自画自賛した聡介は、次々と包丁を創っていき、出来あがったそれらを単体で飾るか、セットとしてキレイな木の箱に入れて店内の一角に飾った。
これらと、挨拶回りで配った包丁では性能が違うが、挨拶回りで配ったのはオープン前の前評判を上げるためなので、もしアレと同じものをくれと言われても非売品ということでかわせばなんとかなるだろう。
店内に飾られた包丁が光を返すのを見て満足そうに頷いた聡介だが、次の瞬間固まった。
包丁が光を反射しているということは、外はまだかなり明るいということで。
聡介は包丁作りのために今日は一日ほとんどずっと工房にこもっていないと不味くて。
今の自分を見られたら疑いが湧くと言うかなりマズイ自体になるということだった。
幸い店内部分にはジョージ達の姿は無く、聡介は大慌てで全ての包丁を工房の中に戻していき、自分も工房の中に飛び込んだ。
包丁を工房に運ぶ際に最後の一本を取り落としてしまい、腕をスパッと切ってしまった聡介は、その後クラウに回復魔法を掛けてもらうのだった。
《ソウスケって結構ドジなんですねぇ》
「……返す言葉もございません……」
4637文字です。
皆さんお久しぶりです。感想を見て気付かされました。
もうこの物語は自分だけのものではないのですね……。
読まれた以上はこの物語だって、その人の中で息づいていくわけですし、それを私の身勝手な理由で閉ざしてしまってはいけませんよね。
本当に申し訳ございませんでした。
しかし、これからはやはり不定期更新になりそうです。
というのも、今年の春に進学予定で住所を変更したり、卒業式をむかえたりなどで色々とすることが山積みなのです。
また落ちついたらゆっくりと進めていきたいと思います。
そして、最後になりましたが、qweap様……すごく嬉しかったです。
ここまで思われるというのは想定外でしたので、本当に涙が出るかと……。
他にも、
バッカス様、リトラ様、皇 翠輝様、akito様、DDG-173様、苑怜様、ruru05様、針山様、ゆう様、弘人様、男爵様、安積様、和樹様、なんでもやさん様、Σ(@。@ノ)ノ様。
感想は書けていませんが感謝しています。これからもよろしくお願いいたします。
それでは皆様、次回でまた