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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第二章:土の国デザートランド編
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―024― 脱出と銭湯

―024― 脱出と銭湯


聡介達はあの広場で巨大スケルトンと出会ってから10分弱、薄暗い坑道を全速力で地上目指して走っていた。


地上を目指すというだけあって、坑道内は緩やかな傾斜がずっと続いている。


しかも坑道と言う特性上、通路は何本も分かれていて暗闇で先が見えにくいので更に性質が悪い。


それでも、地上を目指していけるのは全速力で走りながらも、僅かな傾斜を感じ取りつつ先導するジャックがいるからこそだろう。


ちなみに、なぜドラゴンゾンビを倒せたのに逃げているのかというと、巨大スケルトンは単体としての群体なので、倒そうとするならば巨大スケルトンを構成する全てのスケルトンを倒さなければならないからだ。


当然、狭い地下空間では逃げ回りつつちまちまと倒すなんて出来ない上、数が多すぎたので逃げているというわけだ


そして、走り続けること凡そ20分。


暗闇のせいで先の見えない道が無限に続くように思える絶望感と、後ろから追いかけてくる『巨大スケルトンだったもの』の存在という生命の危機に晒され続けて極度のプレッシャー状態が何分間も続いたためか、ついにエミリーの足の回転が落ちてきた。


冒険者として鍛えているとはいえ、男性と比べて体力に差がつくのは仕方のないことだし、これほどの緊張下に置かれれば体力の消耗も激しいことだろう。


その証拠に広場ではジャックに続いて2番目に走り出していたエミリーが、今では最後尾を走っていた聡介の後ろまで下がってきてしまっている上に、呼吸も乱れてあらくなっている。


その更に後ろでは巨大スケルトンだったものが、狭い坑道内で溢れだした水のように無数の骨の濁流となって追いかけてきている。


巨大な人型だったスケルトンがなぜそうなっているかというと実に単純なことで、広い広場から狭い坑道へと場面が映った際に巨大スケルトンが自らの体を構成する無数のスケルトン達をバラバラに分解させて骨の濁流とすることで追いかけてきたのだ。


当然追いかけられる側としてはたまったものではない。


あの中はスケルトンが持っていた様々な武器等も混ざっているのに加え、骨と言う硬質な物質が高速でかきまわされる巨大なミキサー状態となっている。


あんなところに人体が放り込まれれば正視に堪えない人肉ミンチが早々に出来あがってしまうだろう。


今だとエミリーがその最有力候補だ。


助けると言っても、ジャックは先導するという立場上身軽に動けて速度を維持しなければならないし、ジョージは軽くなったとはいえ動きの邪魔になる大剣を背負っての全力疾走に加えてエネルギーを大量に消費する大柄な体型だ。


いくら鍛えていると言っても流石に、これほどの長さの全力疾走は体に堪えるらしく汗が噴出している。


その二人の様子を後ろから見ることが出来ていた聡介はエミリーを助けるのは自分しかいないと決断したところだった。


幸いにも聡介は身体能力が大幅に強化されていたおかげで、すこし汗がでているぐらいで体力はまだかなり余裕がある。


刻一刻とペースが落ちるエミリーの様子を振り返って確かめてからの聡介の行動は早かった。



「エミリー!今から抱えあげるからしっかりと捕まってくれ!!!」



直ぐ後ろでガラガラガラガラと轟音をたてる骨の濁流の音に負けないように声を張り上げた聡介はエミリーの返事をまたずにその体を抱えあげる。



「ハァハァ……ありが……と………」



ぜぇぜぇと荒い息を吐き出しながらありがとうと呟いたエミリーをお姫様だっこで抱えあげた聡介は、すぐにペースをあげてジョージの横に並ぶ。


ジョージもしゃべるのが億劫なのだろう、目線で大丈夫なのか?と聞いてきたので聡介は力強い眼差しでそれにこたえた。


それから5分間走り続けた時、先頭を走っていたジャックが灯りを見つけた。



「おいおい、ウソだろう……!こんなときに他の冒険者なんて!……クソ、あんたらさっさと逃げろ!後ろから亡者の大群が押し寄せてきてるんだ!今すぐに引き返せ!」


「我々はデザートランドの騎士団である!それを討伐しにやってきたところだ!聖水も持ってきている安心しろ!」



ジャックの警告に反応して返ってきた声に希望を見出した4人だったが、騎士団達を目視できる距離に近づいて、その持ってきたという聖水の量を見て絶句した。


それは騎士が小さな台車に乗っているたった樽2つ分ほどの量の聖水だった。


確かに初心者レベルのダンジョンなら普通はそれぐらいで足りると無意識に思ってしまうのも無理はないが、とてもじゃないが後ろの亡者共の大群をまとめて浄化するには量が足りなすぎる。


騎士団の連中も後ろから追いかけてくるの亡者の大群がようやく視界に入ったのか、目に見えて顔が青褪めていった。



「て、撤退ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」



先頭に立っていた指揮官らしき人物が発した言葉を聞いた他の騎士たちは、撤退するために邪魔になる荷物などを捨て置き迅速に全力で後退していった。


そして後退する時に、まだ騎士団に入りたてで練度が低い騎士のひとりがこちらの様子を伺おうと後ろを振り向いてしまった。


眼に映るのは坑道を埋め尽くす大量の骨と暗い眼窩に真っ赤な炎を宿した髑髏の…負の感情で彩られた亡者の群れ。



「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」



それからがひどかった。


パニックを起こしたその騎士が叫びながら、逃げようと必死に他の騎士を押しのけて進もうとして他の騎士の誰かが坑道の固い地面に押し倒された。


一人の騎士が起こしたパニックは感染爆発(パンデミック)のように瞬く間に騎士たちに広がり、誰かが倒れたことでまた他の誰かが倒れ、悲鳴が坑道内に響きわたる。


もちろん、そんな惨劇を目の当たりにしても聡介達はとまることは出来ない、いくら助けたくても立ち止まったら最後、亡者の群れに呑みこまれて一巻の終わりだ。



「エミリー、ちょっと揺れるけど我慢してよ!あと舌噛まないようにちゃんと口閉じて!」



聡介の言葉に何か返事をしようとしたエミリーだったが、すぐそこに倒れた騎士が転がっていたのを見た聡介は飛び越える時に舌をかまないように注意する。



「ジョージ、まだ生きてる!?」


「ぜぇぜぇ…あったりまえだろッ!……勝手に……殺すな!!」



ジョージがずっと黙っていたので、声をかけると荒い息ながらも威勢のいい返事が返ってきたので、反論するだけの元気はあると分かって一安心する聡介。


それからは倒れて呻き、助けを求めている騎士達の頭上を飛び越え、必死に走って走って亡者共に呑みこまれないように逃げる。


後ろから迫る亡者の群れに呑まれる騎士達の断末魔が絶え間なく追いかけては聡介の耳に飛び込んでくることが更に恐怖心を煽るがそれでも走る。



「外だッ!!!」



戦闘を走っていた騎士団のうちの一人が指さした方向には確かに四角く切り取られたような形の、太陽の明りがあった。


ラストスパートとばかりに速度をあげた騎士団は、出口が見えたことで余裕がでたのか、お互いに声を掛けつつ速度を合わせて走り出した。


聡介達もやっと長かった逃走劇のゴールが見えたことで緊張が少しばかりやわらぎ、それで生まれた心の余裕が更に速度をあげた。



「みんな!ついてきてる!?」


「「「もちろん!!!」」」



先を気にしなくてもよくなったジャックが振り返って心配そうに叫ぶが、それに向かって揃って答えるのは聡介、エミリー、ジョージの全員だ。


そして、騎士団に続いて外に飛び出した聡介達はそのままの勢いを保って坑道入口から距離をとってから振り返った。


坑道の入口からはずっと追いかけてきた勢いに押された大量の骨がガラガラガラという音と共に空中に骨のアーチを築くかのごとく飛び出してきている。


まだついてくるのか!?と一瞬身構えた聡介達と騎士団だったが、髑髏と骨が創りだすアーチは地面につくまえに太陽の光によってことごとくが灰となって風に攫われて消え去っていった。


しかし、追いかけてきていた全部が飛び出たというわけではないらしく、残った骨はゾゾゾゾゾと言う音を伴って坑道の闇に引き返して行った。


その様子を見届けた聡介は大きくふぅ……と息を吐いて、太陽がまぶしい空を見上げた。


聡介も流石に人間一人を抱えて走るのはきつかったらしく息もけっこう乱れている。



「え~っと……そろそろ降ろしてもらえる……?」



自分の胸元から聞こえてきた声で、やっと聡介は未だにエミリーをお姫様だっこしていることに気づいて、慌ててエミリーを地面に降ろした。



「ありがとう、聡介。本当に助かったわ。あのままだと流石に飲み込まれていたわ……。無理させてごめんね」


「気にしないで。それと大丈夫?かなり辛そうだったけど……」


「体が熱くて喉が渇いているぐらいでもう大丈夫よ。とりあえず皆全力疾走したんだし、ちょっと休憩しましょ」



そういってその場に腰を下ろしたエミリーに水筒を渡した聡介は、ありがとという言葉を聞きながらジョージ達と共に地面に座り込んだ。



「あ~……死ぬかと思った……。まさかあんなのがいるとはな……。この鉱山はもうほとんど調べられていてあんな奴が出るっていうことは聞いたことなかったんだが……」



水筒を持って中の水を一気にガブガブと飲み干したジョージは、額に浮かんだ大粒の汗を手の甲でぬぐいながら愚痴る。



「……そうだよねぇ。今回は運がよかったから逃げきれたけど、退路が分かっていない状況であれだけの全力疾走してたら判断間違えて行き止まりに行ってたかもしれないし……。……今思うと奇跡だよ……こわっ……」



ハンカチを取り出して汗を拭き取っているジャックも、先ほどの逃走劇がいかに危険なものだったかを再確認して改めて恐怖を覚えたようだ。


そうこうしていると、まだ坑道から魔物が出てくるかどうか警戒していた騎士団の中から一人の騎士が近寄ってきた。



「土の国首都デザートランド防衛騎士団所属のスタンリー・マッケイだ。この隊の指揮官をしている。少し話を聞いていいかね?」



それからは、巨大スケルトンが出現した場所の特徴や、だいたいの位置、気付いたことなどを話してほしいとのことで、しばらくの間話しつづけていたが、聖水の補給のために一旦もどるとのことで騎士団は街に引き返して行った。


聡介達もまさかもう一度鉱山に入っていくようなことはせず、鉱山入口の札が掛かっている木のところに繋げていた馬にのって、街へと帰って行った。


帰りの馬上で、エミリーを抱えるときに口調が変わっていたぞと、ジョージにからかわれて顔を赤くしたのは実にどうでもいい話である。




■□■□■□■□■□■□


街に帰った聡介は、埃っぽい坑道内を歩き回って汗や土などで汚れた体を洗うために近くで開かれている銭湯にきていた。


銭湯と言っても、日本のように桶が置かれていたり、富士山の絵が描かれていたりするわけではなく、シャワーと風呂が設置されているだけなのでそれほど銭湯らしさは感じない。


前の街なら裏庭のところに簡単なシャワー――といっても温水ではない――のようなものがあったが、この都会にそんなスペースがあるはずもなく、困っていたところでエミリーがこの銭湯を紹介してくれたのである。


入口でバスタオルとボディソープ――安物だが――を買った聡介は、番台らしき場所に座って頬杖をついて暇そうにしているお姉さんに料金5ギルを渡して、ロッカーのカギを貰う。


脱衣場にはいると、奇妙なことに縦に細長いロッカーがかなり並んでいる。


もちろん、普通のサイズのロッカーもあるのだが、それでも細長いロッカーの方が多数を占めている。


不思議に思っていると、後ろから来た冒険者らしき2人組がそのロッカーを開けて、その中に自分の武器と服を仕舞って風呂場に入って行った。


つまり、あのロッカーは自分たちの武器を仕舞っておくために細長くなっているのだ。


武器と言うものが総じて高価な物であることは、自分の商売からして分かっていた聡介は、なるほどなぁと一人頷いた。


自分の武器や鎧は、既に店に帰った時にちゃんと金庫に仕舞っておいた聡介は、小さなロッカーの方に脱いだ服と替えの服を放り込んでタオルを片手に風呂場に入って行った。


中はとてつもなく広いというものでは無かったが、そこそこ広く、天井も高かったので解放感があり、中々にリラックスできそうな感じだった。


そして、体に付着した砂や埃などの汚れを落として、ゆっくりと時間を掛けて体を温めた聡介は、体に火照りを感じ始めたので風呂から上がった。


サッと替えの服に着替えた聡介は、番台の横で売っていた牛乳を一つ1ギルで買い、その場で腰に手を当て勢いよく飲む……ということはせず、近くに置かれていた長椅子に座ってゴクゴクと牛乳を飲んだ。


牛乳を飲み終わった聡介は空きビンを番台に返し、建物の外へと出て行った。


日が沈みかけた空は夕焼けに染まり、それに照らされてオレンジ色に染まる建物にとまっている真っ黒な鳥が、カァーッと鳴く通りの下を歩く聡介の姿は、建物と同じ様に夕焼けに照らされてオレンジ色に染まっていた。


5257文字です。

う~ん、これ続けていってもいいのかなぁ……。

自信無くなってきた。

プロットも一応完成して、完結させるための道筋もあらかた書いたんですが、やはり批判も多くて、この作品は支持されてないんじゃないかと……。

このまま終わらせると何のひねりも無いただの無意味な作品になるのは分かってますが、どうも……。

このまま続けるべきか……それとも一旦凍結して他のを進めつつ、また気が向きしだい書くか……。

色々考えさせてもらいます。

あぁちなみに他人の反応がどうこうというよりも、自分自身の色々な事情も含めて考えてますので、批判が嫌なら書くなという感想はおやめ下さい><;

では、また次話で……。


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