―022― 夕日と採掘場
―022― 夕日と採掘場
聡介が酒場から店へと帰ってくると既に太陽は西方へと沈み掛かり、今日という命を終えようとしているところだった。
今日という命の燃えるような赤に照らされた積雲はまるで炎で創られた津波の様に空を覆いつくしている。
もといた世界となんら変わりの無い空だが、この空は元の世界の空とは繋がっていない。
『どこにいたって空は繋がっている』と誰かが言ったが、ここの空とは繋がっていない。
その事実が、無性に悲しくて聡介の望郷の気持ちをかきたてるが、聡介はどうしようもないことだと首を振り忘れ去る。
結局のところ慣れるしかないのだ、この世界に。
店の扉のノブを回すと、ゆっくりとドアが開いて聡介を迎え入れる。
どうやら先にジョージ達が帰ってきているようだ。
そして聡介は夕日に背を向けて、店の中に入っていった。
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「あぁ、聡介か。俺らも今さっき帰って来たばっかりなんだ。まだ灯りも付けて無くてわりぃな」
「いいよいいよ。今灯りつけるね~」
本当に帰って来たばかりらしく、市場かどこかで買ってきたものが入っているだろう袋の横を通り抜けて工房の中の灯油をいれた甕の倉庫まで歩いていく。
倉庫の扉を開け、甕の蓋をずらして、横に置いておいた灯油式ランプの中に灯油を零れないようにゆっくりと注いでから、蓋を閉めて火をつける。
もちろん、火をつけたのは倉庫から出てからであるのはいうまでもないことである。
それから火のついたランプを部屋の中に置くと、流石に昼間ほどの明るさはないが店内は明るくなった。
「で、3人は今日何を買ったの?」
カウンター――剣等を置くので4人掛けのテーブル並に広い――の前の椅子に座った聡介は、3人が傍に置いている袋を見て言う。
「ん、まぁとりあえずジュースでも飲もうぜ。本当なら俺は酒の方がいいんだが、安い酒店に行ったせいか良いのが無くてな。それでイファナのジュースにしたんだ。そこそこ人気があるみたいだぜ」
イファナというのは桃の形をしたブドウ味の果物で、ここら一帯で重宝されている果物だ。
水も無い様な砂漠地帯にジュースにできるほどの水分をもった植物ができるのかと思う人も多いのだが、実はこのイファナは地中深くに根を伸ばして地下水を大量に吸い上げることで成長する種類のものなので瑞々しく、ここらでは水代わりに飲むことも多いほどらしい。
ジョージがイファナのジュースを取り出して全員分のカップに注ぎ終わると、それぞれが飲んで『おいしい』『飲みやすい』など感想を呟く。
それから一呼吸分置いてジョージが真剣な眼差しで聡介と向かい合った。
「ソウスケ、今回の王都までの護衛では守りきれなくてすまなかった。俺達のミスだ。許してほしい」
「あ、いや、まぁ結局無事だったんだしもう気にしてないよ。だから3人共顔をあげてよ」
いきなり謝罪の言葉と共に頭を下げた3人に驚いて、焦りつつ顔をあげてと言う聡介。
「ありがとう。それでな、ソウスケ。今からいうことは自分たちのことを棚にあげるようで気が進まないんだが・・・・・・。ソウスケ、お前は相手の命を奪うことに憶病になりすぎだ。これから先、いざとなった時にそれじゃぁ絶対に自分の命を守れない。なぜだか分かるか?・・・・・・それは迷いのある剣ではどんな相手も倒せないからだ」
聡介が横に首を振ったのを目で確認したジョージは更に話を続けていく。
「迷えば迷った分だけ剣はぶれる。そうなれば急所は外すし、最悪の場合は反撃を受けて殺されるかもしれない。戦う場において迷うことは死に繋がるんだ。俺達だってそうだ。俺が冒険者をしていて初めて人を斬ることになったとき、俺は一瞬迷ったんだ。本当に殺してもいいのかと。その結果俺はここに大怪我を負わされた。出血が酷くて死ぬかと思ったよ」
そういったジョージは服をたくし上げて、腹を見せた。
そこには鍛え上がられた腹筋の上を一筋の傷が痕になってハッキリと分かるほどに残っていた。
「相手がその隙を見て、剣を振るったんだ。その結果がこれだ。幸いPTに腕のいい治癒術師がいたから助かったが、放っておいたら間違いなく死んでいただろうな。ソウスケ、俺はお前にそうなってほしいとは思わない。この物騒な世の中だ、商人だからって何があるかわかったもんじゃない。だから、ソウスケが望むなら俺達に手伝いをさせてほしいんだ」
終始黙って聞いている聡介だったが、実は聡介もそれは思っていることだった。
向こうで死んでこちらへ来た以上、この世界に慣れることは必須の事であり、そうしなければ、今までの常識を変えていかなければ、生きていくことは難しいとは思っていた。
しかし、その機会も無くずるずるとここまで引っ張ってしまい、そのせいであの盗賊を殺した時に落ち込んだ聡介はこの申し出を受けることにする。
「そうだよね、やっぱり慣れなきゃ生きていけないよね・・・・・・。うん、わかった。お願いするよ」
「そうか。よし!少し辛い経験になるが頑張れよ!日にちだが、いつなら空いている?」
「う~ん・・・・・・。店もまだ開店していないし、別に明日からでもいいかな・・・・・・?」
「そうかそうか!善は急げというし、さっそく明日いくぞ!」
「あっそういえば、相手は何なの?」
肝心な相手のことを聞くのを忘れかけていた聡介は、ジョージに気軽に聞いてみた。
「あぁゾンビだ」
瞬間、聡介の顔から血の気が引いた。
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あれから数時間たって翌日。
聡介は3人にこれも慣れるためだという説得を受けてなんとか復帰していた。
聡介を含めた4人は、道中で猛スピードで走っていく馬車とすれ違いつつもデザートランドから馬車を飛ばして2時間ほどいった所の採掘場にきていた。
採掘場といっても今は機能しておらず、人一人いないので元がつく採掘場である。
ここは土の国でも有数の大鉱山だったが、数年前に地震によって大きな崩落事故が突然起こり、それによって地下深くで働いていた工夫が百数十人生き埋めにされたままになり、その無念が負の感情となることで多くの魔物を生み出すことになった場所だ。
怨念などの強い負の感情ではなかったので、出没する魔物は比較的弱い部類の物ばかりだが、地下にいくほど段々と魔物が強くなり、さらに無念の元となっている工夫達が死んだ場所は崩落によって塞がれているままなので浄化することも出来ず、魔物が途絶えることは無い。
昔、土の国有数の鉱山だったここを取り戻そうと思った国王が軍を派遣したが、崩落した区間が長く、掘っていく間もまるで命を求める様に次々と魔物が現れるのであえなく撤退した。
それ以来、この鉱山は閉山となっているが、鉱物が未だに多く取れるのでギルドに採掘の依頼がでることもしばしばある。
ギルドの方も初心者が通いやすく、小遣い稼ぎが楽に出来るところなのでということで、その依頼は普通に張り出されている。
出没する魔物はスケルトン・グール・ゾンビ・リッチ・運悪くリッチに捕まって操り人形になった冒険者などが主だ。
リッチは比較的下層にいる強力な魔物で滅多に表に出てくることは無いが、たまに出てきたところで初心者が被害にあうことがあるらしい。
それ以外はどれも楽な魔物なので、ここが聡介を鍛える場所として選ばれたというわけだ。
ちなみに今の装備は武器に『クラウ・ソラス』、鎧に『オールキャリク』といった具合なので、初心者が通うダンジョンにしては過剰すぎるとよべるぐらいの装備である。
ゲームの終盤で使うような装備をこんな初心者用のダンジョンで使うとはまさにチート装備と呼ばれることだろう。
そして、今立っているのは採掘した鉱石などを荷馬車などに積み込むために設けられていた広場で、まわりには採掘終了とともに打ち捨てられた道具がちらほらと見える。
そこから視線をあげると目の前には坑道の入口がぽっかりと黒々とした闇を見せて生者が入るのを手をこまねいている。
これから自分はあそこに入っていき中の魔物と戦うのだと思うと聡介はぶるりと振るえた。
興奮や恐怖、興味、不安がないまぜになった微妙な感情が駆け抜けていったのだ。
新たに気を引き締めた聡介はギュッとクラウ・ソラスの柄を握り締めて気持ちを切り替える。
それでも、切り替えるといっても戦士のソレではないので、「よし、やるぞ!」といった気合の入れ方ぐらいのものではあるが・・・・・・。
「よーし、入るぞ。最初のうちは俺らが相手をして手本を見せるが、そのあとは俺達はお前のサポートに回る。危険な時は間にはいるがそれ以外はよっぽどのことが起きない限りは手を出さないからそのつもりでいろよ?」
「分かった」
返事を返した聡介に満足そうに頷いたジョージはジャック達を伴って先にダンジョンの中に入って行った。
見失わないようにと少し駆け足で追う聡介もダンジョンの中に入った。
残ったのは黒々とした闇を渦巻く坑道の入口だけになったのだった。
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坑道を黙々と進んでいると前方の曲がり角からザリッザリッという音が聞こえてきた。
曲がり角が邪魔して敵がどの程度の距離にいるのかがわからないため、先頭を行くジョージの指示に従って一旦立ち止まる。
実力的にいえばジョージ達なら飛び出していって即座に殲滅することもできるはずなので、この行動はひとえに聡介の為のものなのだろう。
「まず何か音が聞こえたら立ち止まってその音を確かめろ。音ってのは、こう先が見えないダンジョンだと敵をみつけるのに重要なファクターだ。地面をするザリッという音が断続的に聞こえたら地上を歩くタイプ、バサッという音が聞こえたら飛行タイプ、ズルズルという音なら地面を這うタイプって感じで分かる。それに加えて聞こえる方向から相手の場所を察知できるし、音の数で相手の数も、聞こえる速さで行動スピードも推測できる。慣れてくると聞いただけで魔物の特徴と照合して対策が打てるようになるから絶対に聞くんだ。慎重すぎるくらいが生き残るには一番いい」
背中を坑道の埃っぽい壁に付けて曲がり角の向こうから響く音を聞いているジョージが小声で聡介にダンジョンでの注意点を話す。
「・・・・・・うん、これはたぶんスケルトンだろうね。数は1体。骨だけだから軽い音ってことと、緩慢だけど規則的に響く足音が特徴だね」
こちらは口を閉ざして音を聞いていたジャックの言葉だ。
「スケルトンはゆっくりとした動きで、特殊な能力もないから普通に出ていくだけで大丈夫だ。まぁ魔物の特徴についてはおいおい覚えていけばいいさ。・・・・・・さて、講義も終了したことだしさっさと倒すか!コイツは俺が倒すから見とくんだぞ」
そういったジョージは曲がり角から姿を現すと、ちょうど引き返そうと向きを変えたところのスケルトンに向かって、壁に引っかかっていた小石を投げ付けた。
頭蓋骨にカツンという音と共に小石をぶつけられたスケルトンはこちらへと引き返してくる。
眼窩の奥に赤い炎を滾らせたスケルトンが片手を振り上げつつこちらへ向かってくるのはなんとも言えない迫力がある。
惜しむべきは、その振り上げた手に何も握られていないことでその姿が一瞬間抜けな姿に見えたことだろうか・・・・・・。
そう考えつつも見ていると、スケルトンはジョージの目の前まで来ていて振り上げた手をジョージの脳天に振り下ろしたが、それを見きっていたジョージが軽くバックステップを踏みながらデュランダルを横一閃に振りぬいたので、スケルトンの頭蓋骨はあっさりと首から切り落とされた。
「っとまぁこんな感じだ。本来は小石なんて投げなくても後ろから奇襲かけてさっさとぶっ倒せばいいんだが、まぁ奇襲なんかを見せるよりはこっちを見せた方がタメになるからな。さて、これも潰さなきゃなッ!」
そして、ジョージは足を振り上げ、足元に転がっていた頭蓋骨をガシャッという音を立てて勢いよく踏み砕く。
そうすると眼窩の奥に宿っていた赤く燃える炎は、風に揺られたロウソクの火が消える様に掻き消えた。
「こいつらは頭の中に魂が込められていてね。これを破壊しないとこいつらは何度でも骨を吸い寄せて起き上がるんだ。だからめんどくさくてもしっかり潰そうね。いくら弱いからって無視して先に行ってたら後ろから大量のスケルトンに襲われたって話も聞くしね」
「たまにあるわね~、そういうドジを踏んじゃう初心者の話も。アハハ。まぁ笑い事じゃないんだけどね~。極稀に何体か合体して巨大スケルトンになるって噂もあるみたいだしね~」
ジャックが聡介に気を付ける様にと忠告をいうと、エミリーがギルドでたまに笑い話にされている初心者のことと噂話のことを思い出しておかしそうに笑う。
実際にそんなことになったら笑い話にならないような気がするが、こうして笑っていると言うことはめったに起きないこと何だろう。
エミリーが笑うことで少し緊張感が薄れた聡介はもう少しリラックスして肩の力をぬいてみようと思うのだった。
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聡介達が坑道に入ったころ、別のルートを通って鉱山を脱出した初心者冒険者PTの4人組がデザートランドの冒険者ギルドに駆けこんでいた。
ボロボロの装備で駆けこんできた4人組に何事かとギルドの人が様子を見にでてくる。
「あんたら確かあの鉱山に潜りに行ってたんじゃなかったのか?」
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・そうだ・・・・・・。鉱山についた時に・・・・・・ズズンという音が微かに聞こえていたんだが・・・・・・大したこと無いと思ってそのまんま入った・・・・・・んだ。・・・・・・途中まで順調だったんだが、埃が舞っている広場みたいなのがあって・・・・・・そこに興味本位で入ったら・・・・・・。クソッ!馬鹿みたいにでかいスケルトンの怪物がいやがったんだ!おかげでこのザマだ!クソッ!」
ギルドの人に聞かれた4人組の内の一人が荒い息をさせたまま語り始めたが、最後の方になるとほとんど怒声に近い様な感じのものになった。
しかし、何かに気付いたギルドの人はその初心者の方を掴んで揺さぶりながら聞き始める。
「おい!そこはどんな場所だった!?どんなことでもいいから覚えていることを話せ!」
「あぁ!?木造の小さな小屋とレールが敷かれていたぐらいしかおぼえてねぇよ!」
「おいおいおい・・・・・・なんてこった・・・・・・。そりゃ避難シェルターのある場所じゃねぇか・・・・・・。あの崩落事故の場所がさらなる崩落で出てきたってことかよ・・・・・・。クソッ!被害が大きくならないうちに聖水持って浄化しにいくぞ!今まで塞がれてたんだ、でかいスケルトンだけとは思えん!」
広場の特徴を初心者から聞いたギルドの人は思わず額に手をやって上に顔を向けるが、すぐに我に返るとテキパキとギルドの人に指示を出し始める。
大急ぎで用意を始めた一行は聖水や騎士団の人達を伴って、数十分後にデザートランドを出発した。
5984文字です。
ふぅやっと書き上げれた・・・・・・。
お疲れですw
タイトル変えました!やっぱりどうしても内容と合わないと判断したので・・・・・・。
では、次回もお楽しみに~