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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第二章:土の国デザートランド編
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―021― 挨拶回りとマフィア ※一部改定

売上金に対し王都が3割、マフィアが1割、店側が6割と変更しました

―021― 挨拶回りとマフィア


門から店へと戻ってきた聡介は、ジョージ達にあいさつ回りに行ってくるから好きにしてていいよと言葉を残して工房の中へ入っていく。


この工房の扉は元の持ち主の防犯意識が高かったためか、少し薄いがしっかりとした鉄製の扉で、外に南京錠が、内側に閂がかけられる作りになっていたので特に弄らなくても良さそうだ。


店の扉にも『安全守る君』を取りつけておいたので侵入される心配については大丈夫だろう。


もっとも、相手が周囲にお構いなしで扉をぶっ飛ばしたり、ガラスをブチ破らなければ……の話だが……。


扉の話はさておき、工房に入った聡介は金庫――元は倉庫だが――の中の木箱から鉄のインゴットを5本ほど取りだすと、その中の一本をアダマンタイトへと練成していく。


魔鉱石はほとんど残って無かったので、なけなしの魔鉱石と己の内に在る魔力だけを使って練成をする。


クラウに頼んでも良さそうな気もしたが、あまり魔力を使わせてまた倒れる――力が抜けて浮かばなくなるだけだが――ようなことをするのも忍びないため、今回は我慢。


体力だって魔鉱石も使うからちょっと疲れるだけだろうし許容範囲内だろう。


よしっと体に喝を入れた聡介は、手を重ね合わせて鉄からアダマンタイトへと連金していく。


以前創った時の魔力の通る道を思い出しながら腕から魔力を放出していくと、聡介の体は薄いヴェールを纏うように柔らかく光を放っている。


最初の練成の時の噴き出すように体から溢れていた余剰魔力とは違って、薄く纏うように漏れ出ているだけということはコントロールが上手くいってることのなによりの証だろう。


それから出来あがったアダマンタイトと鉄を1:4の比率で混ぜ、多少質を落としてから何本もの包丁の形に仕上げていく。


包丁の形に仕上げた理由は、料理で包丁を使う際にその切れ味を実際に体感してもらうことで評価を得ようという考えによるものだ。


一人暮らしの男性に配っても料理をするなら気づくだろうし、奥さんがいる家庭ならその奥さんが旦那に包丁のことを話すことも一応は期待できる。


一応アダマンタイトを入れてはいるが、鉄の比率が大きいので研ぐことが必要になるだろうからその辺も商売に組み込めるだろう。


しかし、冒険者に関してはタダで配るわけにもいかないのでそこら辺は開店してからのことということでとりあえずはコレで良いだろう。


あとの作業は持ち手をつけることと、それを入れる箱を創ることだが、これは薪を使ってササッと仕上げてしまう。


持ち手をつけた包丁を箱の中に収めて蓋を閉じた後に、その蓋に漢字で『聡介』と名前をいれたらコレで出来上がりだ。


もちろん、『聡介』という文字が分かるはずはないのでコレはただの製作者の印というだけのものである。


全部仕上げた聡介はそれらをバッグに入れると工房の扉を開けて外に出た。


店の中はシーンと静まり返っていて人の気配がしないのでジョージ達はきっと外にでかけていってるのだろう。


工房の扉に鍵を掛けた聡介は外に出て『安全守る君』でしっかりと戸締り――ジョージ達には合いカギを持たせている――をしたのを確認して歩き出す。


挨拶の回り方などをくわしく知らない聡介はとりあえず左隣りの魔法具を扱う店に向かった。




■□■□■□■□■□■□



(……黒魔術でも扱っているんだろうか……。)



店の中に入った聡介の最初の感想はそんなものだった。


店の中には干からびた手のようなもの――人間の手そっくりである――や、まだ神経や血管が付いたまま目玉がホルマリン漬けのように置かれていたし、極めつけには骸骨――どう見ても人間のモノ――や、血液が置かれていた。


そのほかにもなんらかの内臓らしきものなどの非常に目によろしくない代物が置かれていたがここでは割愛させてもらう。


床などに直接おかれているナニカをひっくり返さないように気をつけながら進んでいくと、奥には妙齢のお姉さんが黒い皮表紙の本を片手にカウンター横の本棚に寄りかかる様にして立っている。


恰好はというと、モデル並の八頭身の持ち主で、背中と胸元が大きく開いたホルターネックタイプの黒のロングドレスからは瑞々しく張りのある豊かな胸と引き締まったウエストが見て取れる。


ロングドレスに阻まれて直接見ることは叶わないが、その下にある足もスラッとした美しい脚であろうことは間違いない。


肌の色はというと、普段日の光を浴びてないのではないだろうかと思うほど雪のように真っ白で、黒のロングドレスがよく生える。



「あら?珍しいわねぇ、お客様かしら?」



こちらの気配に反応して本を下げると、その奥には本に隠れて見えなかった顔が現れる。


鴉の濡れ羽色のように真っ黒でサラサラと零れ落ちそうなほど柔らかな髪は、後頭部でひとくくりにされていわゆるポニーテールになっていて、側頭部からの遅れ毛は先が軽くウェーブが掛けられている。


髪をあげることによって見えるうなじからはなんとも言えない大人の色香が漂って来て、思わずドキリとしてしまう。



「あっ、いえ。隣に越してきたのでご挨拶にきたのですが」


「あら、そぉ。良い子なのねぇ君。ここら辺だとあいさつ回りなんてするような殊勝な商人は少ないから……お姉さん、君の事気にいっちゃったわぁ。こまったことがあったらお姉さんにいいなさいね?」



キリッとした目を少し細め、流し眼を送るお姉さんは筆舌に尽くしがたいほどに色っぽい。


健全な青年男子としては反応に困ることこの上無いが、これがお姉さんの素なのか、止める気配はない。


つい赤面してしまうのはどうしようも無いというものだった。



「ふふふ、初心な反応ねぇ。そういうかわいいのって好きよ、食べちゃいたいくらいに……。うふふふ」



ぷっくりとした唇から放たれた言葉に更に顔をあからめつつ、このままではいけないと思い立ち、包丁を渡すことで話題転換を図る聡介。



「あ、あの!これウチで創った包丁なんですけど良かったらお使いください」


「あら、ありがとう。創ったっていうことは鍛冶屋なのかしら?」


「あ、はい。鍛冶屋兼武器屋……というよりは創ったものを売るっていう感じですかね、そういう店を開いてます」


「ふぅん。お姉さんも何か必要になったら頼むわねぇ」


「ありがとうございます。まだ他の人のところが残っているのでそろそろ失礼しますね」



軽く一礼した聡介は回れ右をすると、不自然にならないように気をつけながら足早にお姉さんのお店から出て行った。



「なんか、すっごい色っぽい人だったなぁ……。まだどきどきしてるよ……」



未だに赤い顔のままをしている聡介はそう呟きながらあいさつ回りを再開するのだった。


(鍛冶屋にしては魔力を使って何かしていたみたいだし、ただの鍛冶屋の坊やって感じじゃなさそうね。……ふふふ、おもしろい子……。)


それを見ていたお姉さんは、聡介が来る数分前に聡介の店から感じた魔力を思い出して楽しそうに笑っていた。




■□■□■□■□■□■□



「あっ、ちょっと待ちな!」



近隣の店や民家へのあいさつ回りを終えて聡介が最後に挨拶をした店を出ると、思い出した様に後ろから引きとめる声が掛かった。



「なんでしょうか?」


「いや、この街にはあまりくわしくなさそうだからちょっとね。ここら辺を縄張りにしてるTempesta(テンペスタ)って知ってるかい?」



縄張りにしているという単語に嫌な予想が浮かんでくるが、その名前自体にはなじみがないので首を傾げる。



「あ~やっぱり知らなかったか。まぁ一口に言えばマフィアだな。んで、ここら一帯の店なんかはチンピラや賊とかから守ってもらう代わりにみかじめ料を収めてるってわけだ。マフィアと言ってもTempestaは無法者の集まりじゃなくてしっかりとしたカポを頭に据えている組織だから安心していいぞ。まぁもちろん、マフィアってだけあって麻薬取引、暗殺、密輸、密造、共謀、恐喝って具合に法に触れることはしているがな。これらは口には出すなよ?」


「はい、気をつけます」


「それと売春と賭博のことは間違っても口に出しちゃだめだぞ。向こういわく『名誉ある男』がするビジネスじゃないそうだからな。良くて半殺し、最悪殺されかねないから注意しろよ」


「殺し……ですか。穏やかじゃないですね」



殺されるということを聞いて聡介の背中に冷たい汗が流れるが、目の前で注意をしてくれる人はお構いなしに話を続ける。



「言わなければ大丈夫だよ。んで、ここらで商売するんなら挨拶とかを先に済ませとかないと厄介なことになるから、早く会いにいくといい。

今の時間帯なら、この通りを真っ直ぐ行って突き当たりのところの右手の酒場に行くと、酒場の隅でポーカーをしている黒服の男がいるからそいつらに話しかけろ。その後はそいつらが案内するはずだから、何も逆らわずにしていれば連れて行ってもらえるさ」


「わざわざありがとうございます。あとで行ってみますね」



また面倒に巻き込まれなければいいけど……と内心思う聡介だが、一方では、街の人がそれほど恐れていない様子を見て大丈夫だろうと楽観視する自分もいる。


前回のことを思い出してそんな自分に呆れるが、こればかりは時間をかけて矯正していくしかないだろう。


一旦家――正確には工房の中――に戻った聡介はあいさつ回り用に用意していて余った包丁をしまって、急遽練成した小さなナイフを服の内側に忍ばせてから、また通りに出た。


挨拶に行って帰るだけなのでトラブルに巻き込まれるとは思いがたいが、それも今までのことから考えると怪しいため、用心するほうがいいだろうと思ってのナイフである。


そして通りに再び出てきた聡介は、先ほどのおじさんに聞いた通りの道を進んでいき、突き当たりに位置する酒場の前に立った。


つきあたりの店にしては割と小奇麗な二階建ての酒場は、マフィアがいるというわりには意外に盛況しているらしく活気がある。


店内からは軽やかな音楽が響いてくるし、酒によった人の笑い声や話し声などがガヤガヤと聞こえる。


店内に入るために建てつけの良い扉を押し開けると、その騒音が一層大きくなった。


聡介は気付かないが、実は聡介が入った瞬間に店主やテーブルについている何人かの客、従業員達から一瞬だけ鋭い視線が飛んだ。


もちろんそれはただの客や従業員ではなく、れっきとしたマフィアの構成員である『ソルジャー』達だ。


彼らはこの酒場にくる客を『役人(警備隊など)』『客(酒場として)』『(マフィアとして)』の3つに見分けるのが仕事である。


もちろん『客』は酒場側であれ、マフィア側であれ、どちらにしても利益を得ることが出来るので彼らにしてみれば歓迎すべき対象だが、もしそれが『役人』だとすればすぐにお帰りいただくための準備もしてある。


しかし、マフィア側もそれをするのはまずいことだと分かっているので、普段から高官にお金を渡して黙らせているのだが……。


マフィア達の話はさておき、話しを聡介にもどすと聡介は今、言われたとおりに酒場の隅でポーカーに興じている黒服の男達のテーブルへ着いたところだった。



「あの、すいません。ちょっと話があるのですが、いいでしょうか?」


「ん?あぁそういえば商談の約束だったな。奥に部屋を用意してるからそこで話そうぜ。こっちだ」



まさかこんな酒場で、『マフィアの頭と会わせて下さい』というわけにはいかないので、なんとか話をぼかしながら尋ねると3人の男達は立ちあがって、聡介を連れて酒場の奥の部屋に入って行った。


酒場の奥の部屋に入ると、最後に扉をくぐった一人が扉に頑丈そうな鉄製の鍵をしめる。



「んで?俺らに用ってなんだ?」


「この街に越してきたのでその挨拶をしにきました」


「あぁそんなとこだろうな。この麻袋をかぶってろ。俺らがその場所まで案内する」



質の悪い麻袋を渡された聡介はそれに逆らうことなく頭からすっぽりと被った。


被ってからしばらくすると何か重い物を動かす振動音が聞こえて、それから体を引っ張られた。


鉄製の鍵を外す硬質な音は聞こえなかったので、恐らくは隠し通路でも進んでいるだろうと考える聡介を連れて、男達は折れまがった通路を歩いていく。


何分か経ち、まだかな?と思い始めたころ、扉の開くカチャリという音が聞こえ、再度カチャリという扉の閉まる音が聞こえてから麻袋を取られた。


急に取られたために麻袋で擦られた鼻を押さえながら正面を見ると、高級そうな机で手を組んで座っている男が目に映る。



「あなたがTempestaのカポの方ですか?」


「いや、俺はカポ・レジーム――幹部――だ。俺がここら辺の管理を任されている。君は確か鍛冶屋を始めるそうだな?さっそく挨拶に来るとは良い心がけだ。それと料金の相談といったところかな?」


「ん、あぁそう不思議そうな顔をするな。部下に情報を集めさせただけだよ」



既に話が回っているとは思わなかった聡介が目を丸くしているのに気付いたらしくソレを簡単に言ってのけるが、文化レベル的に情報伝達手段があまり整っていないはずのこの世界では驚くべき速度だ。



「そうですか。いや、まさかもう情報が回っているとは思っていなかったのでびっくりしました。では改めまして……。ソウスケ・カミオと申します。このたびここ『荒野地帯(デザートランド)』で鍛冶屋を始めることになりました。今後ともよろしくお願いします」


「あぁよろしく。で、金のことだが、王都の税が3だから、売上金に対してお前の取り分が6、俺らが1だ。だが、まだ開店すらしていない上に最初は何かと必要だろうから、土の月の前半までは0.5ぐらいでいい。それでいいな?」


「はい、ありがとうございます」



土の月と出てきたが、これはこの世界での暦の表し方の一つだ。


この世界では、もとの世界での2カ月を1カ月とするらしく、月の初めから月の中盤までを『前半』とし、月の中盤から終わりまでを『後半』としている。


もとの世界と比較して考えるなら、1月と2月を併せて『光の月』、3月と4月を『風の月』、5月と6月を『水の月』、7月と8月を『炎の月』、9月と10月を『土の月』、11月と12月を『闇の月』とできる。


この『光・風・水・炎・土・闇の月』というのは6柱の大精霊がそれぞれ支配するという意味があり、月ごとにそれに該当する属性の力は大きくなる。


例えば、炎の月では同じ呪文、同じ魔力量を込めたとしても、他の月で弱火だったのが、中火レベルになったりといった具合にだ。


他にも月ごとにその精霊を表す特徴があり、『風の月』では強い風が吹いたり――春一番など――、『水の月』では、長く雨が降ったり――梅雨など――と分かりやすい。

ちなみに、今は『土の月(前半)』の1日目なので、もとの世界でいえば夏休みがちょうどおわったぐらいだろう。



「よし。金はその時が来たら部下に取りに行かせる。……おい、酒もってこい!」



目の前の男が後ろに控えていた男の方に振り向くと酒をもってくるように言った。



「酒……ですか?」



意味が良く分からない聡介はなにをするのだろうと興味を引かれて聞いてみる。



「あぁ……まぁ儀式の様なもんだな。これから仲良くしていこうやって意味で酒を酌み交わすのがここでの習わしなんだよ。俺は酒が苦手なんだがな……。こればっかりは昔からの決めごとだから仕方ない。俺に次ぐのは少なくしろよ」



少しして部課らしき男が持ってきたのはウォッカとショットグラスだった。


他には氷も水もなく、このことから察するに『ストレート』。


量が少ないとはいえ、ウォッカなどというアルコール度数が40もあるキツイ酒をストレートで飲むにはいささか抵抗がある聡介だが、相手はマフィア……そうもいってられない。


覚悟を決めて、ウォッカが注がれたショットグラスを右手に持ち、胸の高さまで持ち上げる。



一気に口の中に流し込み、飲み干すとキュッと喉が焼けつく感じがした。


なんとか我慢して飲み干した後、正面を見るとそこには眉間にしわをよせて俯きながら低く唸る男がいた。


どうやら本当に苦手らしい。


それにしても、自分が酒に耐性があると知らなかった聡介は――未成年なので飲んだことは無い――、直ぐに酔うだろうと思っていたので意外と拍子抜けしていた。


再度正面を見ると額に手をやり、俯きながら手を振る様子が見て取れる。


つまりはもう行ってもいいぞということだろう。


最後に一礼をして踵を返して後ろの扉の前まで歩いていくと、麻袋を持った男が傍に立つ。


そういえば麻袋をかぶらなければいけないんだったと思いだした聡介は、男から麻袋を受け取るとスッポリと被った。


そして男達に案内されるままに歩いた聡介は、ようやく酒場の奥の部屋へと戻ってきた。


そして、麻袋を取られる際にまたもや鼻頭を擦って赤くしたのは言うまでも無い。


6703文字です。

更新遅くなって申し訳ない><;

高校3年生だもの!忙しいんだもの!

テストや勉強や恋(片思い)や遊びや……

あっ、受験はAO入試でうかりましたので問題なし!

なるべく1~2週間で更新するように心がけますので許して下さいな……。

では、次回もお楽しみに~

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