―019― 殺人と殺人
※注意!!
作者の性格上、グロイ所が書かれています!
読んでいて気分が悪くなった方は飛ばしてくださっても問題ありません。
本格的にグロく書いたつもりはないのでそこまで気にしなくてもいいかもしれませんが……。
……十分グロいって!って言う方は感想で愚痴ってください。
直しませんが……。
―019― 殺人と殺人
ポチャンと、夜の暗闇の中で月の光を反射してキラキラと光る川面に小さな石が投げ込まれた。
それを投げ込んだのはいささか暗い雰囲気を放つ聡介だった。
今、聡介達はあの戦闘があった峠からさらに進み、峠を下った先の河原で野営している。
さきほどまではジョージ、ジャック、エミリーの3人は盗賊達を切ることによってついた血脂を川の水で綺麗に洗い流していたが、今はその3人も明日のことを考えて早めに睡眠をとるらしく、川べりに座り込んでいるのは聡介ただ一人だ。
そうは言ったが、実際のところは聡介を一人にさせてやろうと考えてのことだろう。
聡介は傍らにクラウ・ソラスを置いて川べりの一際大きな岩に腰かけて川の流れをじっと見つめているだけで身じろぎ一つしていない。
なぜ、聡介がこのような状態になっているのか。
それは少し時間をさかのぼらなければいけないだろう、数時間前までの盗賊達との戦闘の場面へと。
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聡介は荷台の奥の荷物の片隅に隠れる様にしてじっと動かずに潜んでいた。
荷台の入口の方では、こっそりと近づいてきていた盗賊の一人が荷台の入口付近の荷物を物色している最中だった。
ガタンと言う音と共に盗賊の一人が乗り込んで来た時はヒヤリとしたものだが、盗賊は目の前に積まれている荷物――剣や、鉄板など――に目がいってるのかこちらへ近づいてくる気配は無い。
できればコチラにきませんようにと、なるべく息を殺し、身を固くして一切の動きを止めていた聡介だがその願いも叶うことは無かった。
「クソがッ!!撤退だ、奪えるもんだけ奪っていけ!!」
という言葉に反応して盗賊が顔をあげたからだ。
じっくりと見るのを止めた盗賊は手元に置いてあった数本の剣を左で纏めて掴みとり、そして奥の方へ何かをとりに来た。
「あん?」
と、盗賊が声を出したことで何だろうと思った聡介が少し視線をずらすと物陰から少しだけ飛び出した衣服の端っこが見えた。
やばい……顔を青くした聡介だがもう遅い。
ハッとして顔をあげた聡介の目の前には既に上から覗きこんできた盗賊の無精髭の生えた顔が映る。
「テッメェ……!」
盗賊が声を上げ、右手を腰に差した剣へと持っていった瞬間、聡介の脳裏にはそれで斬られる自分の姿が幻視された。
いくら契約によって死ぬことがないと言えども、死と言う純粋な本能的恐怖を叩きつけられた聡介は半分パニックに陥った。
「ワァァァァアアアアアアアアア!!?」
一応……と剣の柄へと手を触れさせていた聡介の右手は、それを握り締めると恐怖自体を振り払おうかとする様に剣を振るった。
相手も見ずに無造作に振るわれた剣は、盗賊が剣を振り上げてがら空きになった胴体を逆袈裟に斬り上げ、心臓へと達するほどに深々と切り裂いた。
ザシュ
と剣が肉を切り裂く音が耳に入り、ついでゴトリという音が床と空気を通してつたわってしばらくしてようやく聡介は目を開けた。
目を開けると目の前には胴体を深々と切り裂かれ斬り口から血を溢れさせ始める斬死体。
映画などのグロテスクなシーンではこういう物も見たことはあるが、それはスクリーンを通しての単なる映像でしかない。
実物は違う、目の前でピクピクと痙攣する筋肉に、むせ返るほどに濃厚な血の匂いと生々しく光を照り返す血液。
それら全てを含めた情報は聡介の脳を激しく揺さぶる。
「ソウスケ!大丈夫か!!」
そう言って飛び込んできたジョージの横を通り過ぎ、一刻も早くここから離れようと外に飛び出すと外にも凄惨な死体がいくつも転がっていた。
心臓を突き刺されて胴体に血の滝を流す死体、頭と胴体を切り離されて夥しい量の血の海を広げる死体、眼球にナイフが突き刺さって絶命している死体、極めつけは胴体を真っ二つにされたことで血にまみれた小腸や大腸などの臓物がボトリと地面へと散乱している死体。
始めて実物の惨殺された死体を見てしまった聡介は思わずその場に両膝をついて胃の中のものを吐いた。
地面へと吐きだされた吐瀉物からはすっぱい匂いが立ち上ってきてそれが更に吐き気を増していく。
全て吐きだした聡介はその現場から目を反らし、山の向こうへと沈みゆく太陽へと目を向けた。
後ろでは凄惨な光景が広がっているのに、眼前には山に沈みゆく美しい太陽があるのがひどく奇妙に思える。
これほど見るも絶えないことが起こったのに、世界は何事も無かったかのように回り続ける。
それは当たり前のことだが、今の聡介にはとても奇妙なことのように思えた。
日常となんら変わらぬ太陽を見ることで段々と落ち着きを取り戻してきた聡介は深呼吸を一度する。
「ソウスケ……わりぃ、また守れなかった……。警護なら一番に護衛対象者を優先しなけりゃいけねぇのに倒すことに集中しちまった。……すまん……」
馬車の中の死体を片づけているジャック達のところから歩いてきたジョージは聡介の後ろに立ち、頭を下げた。
「うん……いいよ。ジョージ達は精いっぱいやってくれたんだから……。こっちこそ取り乱してゴメン。……もぅいこっか」
死体を見ないようにジョージに話しかけた聡介の顔には作り笑いが張り付けられていた。
それを見たジョージは無理しているとすぐに感づいたが自分がそれを言えるはずも無く、あぁ……とだけ短く答えるだけにとどまった。
やはり馬車の中に戻るのは出来なかった聡介は、御者台の空いているスペースのところへ座らせてもらっている。
御者は多少気の毒そうな目で聡介を見ていたが、何も言わない方がいいと思ったのかすぐに前を向いた。
キレイに有る程度血を拭き取ったジョージ達が馬車の荷台に乗り込むのを確認すると馬車はそろそろとゆっくり動き始める。
当初の目的地である河原までは誰一人としてしゃべらなかった。
それゆえに葉が風に揺られてざわざわと言う音だけがいやに耳についた。
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《ソウスケ……あれは仕方が無いというものです。抜かなければソウスケ、あなたが切られていたのですよ?》
「そうはいっても……殺し……ちゃったんだよね。初めての人殺し……」
《確かに人殺しではありますが、正当な理由による殺人ですよ。今このぐらいのことで凹んでいてはこの先が大変ですよ?》
「……うん。……ごめん、ちょっと一人で考えるよ」
そういった聡介は、夜空というスクリーンに爛々と輝く星々の瞬きを見上げる様に岩の上で仰向けになり、頭の下で腕を組むとゆっくりと目を閉じた。
そして、何かを考えているのか数分間険しい表情で目をつむっていたが、しだいに力が抜けていくように表情が柔らかなものとなってきた。
どうやら目をつむって考えている内にねむってしまったらしい。
《……しかたないですね……。風邪を引かないように暖かい空気の膜で包んでおきますか……》
一人?残されたクラウはソウスケに向かって優しく魔法をかけたのだった。
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「あぁ久しぶりだね。どうだい?初めての人殺しをしてみた感触は?」
目を開けると、そこにはいつぞやの真っ黒い球体がホワイトアウトのように距離感が分らなくなるほどにどこまでも真っ白な空間に浮かんでいた。
きっと『コレ』が出てくると言うことは夢であって夢ではない場所なのだろう。
「お久しぶりです。そうですね……やっぱり怖いですよ。殺したことでその罪が生きていく中でずっと付いて回って、新しく出来た関係でさえ、殺人をしたことが知られたらそこから周りの全てが崩れていく気がして……」
「なるほど……。実に平凡かつ解決しやすい悩みだな。この世界は殺人が当たり前の世界な上に、そのような小さなことで追及してくる人間などいない。ここは君のいた世界ではないのだからな、君の心配は杞憂というものだ」
バッサリと斬って捨てる『ソレ』は確かに正しいが、それでも釈然としないのは仕方のないことではある。
「……それでも、相手に怨まれているなんて思うと……。重圧で押しつぶされそうで……」
「……君は存外に面倒くさいな。それならば直接会って話すといい」
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんなの出来るわけが!」
「私が出来るといったら出来るのだ。君の悩みを解決できるし、これからもこの世界で生きていく上で死者からの話を聞くのは良い経験になるだろう。そら、話してみろ」
そういって『ソレ』の手前が一瞬真っ黒なインクで塗りつぶされたかと思うと、目の前には自分が殺したはずの盗賊団の男が立っていた。
殺した時の違いといえば、バッサリと切ったはずの傷が無くなっていただけで、それ以外はあの時と全く同じ格好だった。
「……よぉ。久しぶりだな……」
「……あの……久しぶりと言っても半日ぶりなんですが……」
「あぁ?……くそっそうか、ここじゃぁ時間の流れが違うんだったな、くそっ。俺はもうここで10年過ごしてんだ!」
どういうことだろう?と思っているとその説明を『ソレ』がした。
「まぁこの男が住むのは別の部屋ではあるが……ここは私の管理する空間でな。一般には天国や地獄などとよばれるとこだ、いわば魂の行きつく先だよ。私はここで様々な世界を監視・管理しなければならんのだ。そのためには膨大な時間が必要だ。たとえ1日といっても、1つの世界でも情報は膨大で、その世界自体がいくつもあるのだから、とてもじゃないが同じ時間の進み方では追いつかないのでな。半日に対してのこちら側の時間の進み方が10年と言うわけだ。分かったか?分かったなら話を続けたまえ」
あいかわらず傍若無人な態度で一方的に話す人だな……と思うが、そちらにばかり気を取られるわけにはいかない。
「あ~……話がそれたな、どこまで話したっけな……。……あぁ、思い出した。どうやらお前は俺がお前のことを恨んでいるんじゃないかと思っているらしいな。……まぁ殺されたばっかりの時は、そりゃあ腹は立ったし、お前を殺して復讐してやりたいと思ったが。それも最初だけだ、今はもう何も考えてねぇよ。よくよく考えてみりゃ、俺だって盗賊で何人も殺してきたんだからな。お前を責めることなんて出来ねぇよな。……それにこの方がよかったのかも知れねぇ。盗賊続けて人殺しまくって人から獣に堕ちるよりはな。……だから、俺はお前を恨んじゃいねぇ。そもそもこの世界……いや、あの世界か、あの世界じゃ人殺しなんて日常茶飯事にされてることだ。生きるために殺し、楽しむために殺し、命令されて嫌々殺すことだってある。だから、俺を殺したことに執着するな。殺した相手の全てを自分の力にしていくぐらいの気概をもて。そうしなければ……お前もまた無残に殺されるだけだ」
途中で口を挟もうとする聡介を手で制し、そうして名前も知らない盗賊は言いきった。
それは全て背負っていくという、救いのない残酷な事実であるが、真実的を射ていることでもある。
死人を思ってうじうじと悩むことは結局は現実逃避であり、自己満足でしかないのだろう。
厳しい現実を叩きつけられた21歳の聡介にとって、その言葉はとても重く受け止めがたいものだったが、同時に受け止めねばこの先生きてはいけないものだった。
「……殺した本人からこう言われるなんてなんだか不思議な感じですね。想像していませんでした。……でも、ありがとうございます。少し楽になった気がします。あなたの人生の分もこの世界でしっかりと生きぬいていきます。本当にありがとうございました。」
スッと腰を折り曲げ、頭を下げる聡介。
「……どうやら話は終わったようだな。もう戻すぞ、こう見えて私は忙しいのだ。もぅこれ以上手間をかけさせるなよ」
「……では、どうして呼んだんですか?」
「…………。無責任に異世界に送って人殺しごときで潰させては私が納得せんだろう。……勘違いするなよ、お前の為などでは無い」
最後のそれを言うのは逆効果、むしろツンデレって思われるだけなんだけどなぁ……と思いつつも聡介はそちらにも頭を下げる。
『ソレ』も本当にこれで終わりのつもりなのだろう、聡介の足元からいつぞや光が渦を巻いて湧きあがってきていた。
あの時と同じ、眩しくて荒々しい光だが、どこか温かみのある光がゆっくりと聡介の全身を覆っていた。
ただ違うのは聡介が『異世界に行く』ではなく、『異世界に戻る』という事実だけだ。
「あの!最後にあなたの名前を教えてもらえますか?」
光に包まれつつあるなかで聡介は叫んだが、それに返ってきたのは簡単な答えだった。
「今更知ってどうすんだ。お前が生きるのは……未来だろう?」
その言葉と共に聡介の意識は温かな光の中にゆっくりと溶けていった。
5025文字です。
ちょっとグロイ部分書いちゃったかも……。
反省も後悔もしてませんが。自分的にはこれでいいので……
あ、苦情だけじゃなくいつも通りの感想も求めていますので~。
それでは次回をお楽しみに~。(次話こそ王都に!)