―018― 馬車旅と盗賊達
―018― 馬車旅と盗賊達
翌日、聡介の店の中では慌ただしく4人が動きまわっていた。
ジョージ達3人は自分達の防具や生活用品などの荷物をまとめるだけで済むのだが、聡介はそうにも行かない。
この前創ったレコードや蓄音機、ランプ、灯油、食糧、道中の水に武器・防具、アクセサリーに更にはその他もろもろの生活必需品をまとめなければならないのだ。
当然旅をするつもりで揃えたものではないのでかさ張る上に重いものばかりだ。
それらの雑多な物を聡介が工房の扉前に置き、ジャックとエミリーが店の扉前の通りへ置き、最後にジョージが商人用の大型の馬車へと積み込む。
金庫兼倉庫の中で錬金術を使って取りだすのを見られないようにするために、全力で全ての荷物を運び終えた聡介は今倉庫の中に佇んでいる。
とりあえずさっさと自分用の防具などを取り出した聡介だが、部屋の中の鉄板を置いて行くのももったいない気がして、全ての鉄板を鉄のインゴットに変えている。
インゴットに変え終えた聡介は、次に床に敷いてあった擬装用の木の板を使って、インゴットを入れる木箱と木の繊維を利用した袋を練成した。
木箱にはもちろん鉄のインゴットを次々と放り込んでいき、袋の中には自分用の防具を丁寧に入れていく。
「おーい、ソウスケー!工房の前にあったのは全部積み終えたよー!他には無いかー?」
「待ってー。今持っていく~」
工房の扉の隙間から聞こえてきたジャックの声に返事をしながら木箱を抱えて持っていく。
ゴンッと鈍い音を響かせて床に置かれた木箱に背を向けて工房の中に戻っていく聡介。
「!?重ッ!」
重そうな音がしたが聡介が持てていたのだから大丈夫だろうと高をくくっていたジャックは、自身が全力を込めてもなかなか持ち上がらず、持ちあがってもフラフラとするということにショックをうけていた。
(俺そんなに力なかったっけ……?)
しかし、そんなショックもジョージに木箱を渡した時点で霞んでいった。
ジョージでさえも受け取った瞬間に一瞬バランスを崩しかけたほどだったからだ。
とはいえ、そこは怪力の持ち主のジョージで、すぐに持ち直して馬車の中に積み込んでいった。
自分用の防具を取りに戻った聡介もすぐにエミリーと共に店から出ていき、ジャックやエミリーを先に馬車に乗せると店の扉に付けてあった『安全守る君』を取り外してから最後に馬車に乗り込んだ。
「じゃぁ首都までおねがいします!」
馬車の先頭の御者台にのっていた御者の方に指示を出すと、4人を乗せた馬車はどんどんと『元』聡介の店から離れていった。
滅多に訪れない裏路地を横目に見ながら通い慣れた表通りを通り過ぎ、色々な材料を買った市場を横切って馬車は街の南門へと向かう。
見送られるほど親しくなった人も居らず、馬車はただただ通りを進んでいく。
門を通り抜ける寸前、聡介達が乗る幌をかぶせた荷台の中にパサッという音と共にカードが放り込まれた。
荷台から体を乗り出して周りを確認するも門の近くでごった返す人ごみに紛れてしまったのか相手は分からない。
この人込みでは見つかりそうにないと判断した聡介はカードに書かれている内容を見る。
『餞別代りってわけじゃねぇが、一つ忠告をしておいてやる。王と宰相には気を付けろ。あとは自分で考えろ。
Ps.誰にもバラすなよ』
差出人も名前も無かったがこれを書いたのは恐らくエドガーなのだろう。
どういう意図かは不明だが、王と宰相に気をつけろと言うことでエドガーに益があるとは思えないので心の片隅に留めておくぐらいはしてもいいかもしれない。
追伸の方は一見『王と宰相に気をつけろと書いたことに対する不敬罪を黙れ』とも取れるが、本当のところは『エドガーが率いていた組織のことについて黙れ』ということなのだろう。
一般の人が見ても組織のことが分からないようによく考えて書かれているなぁなどと場違いなことを思いつつ、聡介はそれを懐に仕舞うのであった
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馬車による旅路は荷台に惹かれていた商人用の質の高いクッションのおかげでそれほど苦にならず――とはいえ振動はそれなりにあったが――、一行は予定の行程通りに進んで1日目の野営場所でしっかりと一泊した後、2日目の行程を消化している最中だった。
時々用を足したり、昼食をとるために停まることはあったが、それ以外は何事も無くガタゴトと揺られながら進んでいた。
かっぽかっぽと蹄で地面を叩く音が軽快なリズムを生み、その上に車輪の地面を転がるガラガラと言う音が重なるのを聞くと、自分は今馬車に揺られているんだなぁと感慨深く感じてしまう。
元の世界では馬車はおろか、乗馬さえしたことのない聡介にとっては新鮮に感じるのは当然のことだろう。
舗装されてない道を走る馬車は凹凸に引っかかって揺れることもしばしば有るがそれさえ気にならない。
ときおり風に乗って運ばれてくる土や草の匂いでさえもとても芳しい天然の香水の様に感じられてくる。
体を反らし深呼吸して胸一杯にその香りを吸い込むと今度は雲一つない真っ青な空が目の前一面に広がる。
ギラギラと照りつける太陽は現代にいたころであれば、建物の陰に隠れクーラーで涼をとっていたが今は全く気にならない。
風景というものがこれほどまでに影響を与えるものだということも驚きであった。
そして、夕暮れ時に峠に差し掛かり、予定の場所まで達していないこともあり、峠を進むことを決めた4人は幾分か遅くなったペースで進む馬車の中で雑談に興じている。
しかし、その楽しい雑談も突然夕焼けにそまった空に響く馬のいななきで中断させられてしまった。
それだけでは無く、周りからはドドドドドと言う複数の馬が地面を踏みならして駆ける音が馬車を取り囲むように響いてくる。
「と、盗賊だぁ!!?」
御者の悲鳴に近い叫び声が聞こえた。
そう……つまりは盗賊の集団に囲まれてしまったのだった。
「よぉう!商人様ぁ!哀れな我ら盗賊団に身包み全てめぐんでくれよぉ!」
その言葉のどこがおもしろかったのか仲間の奴らはギャハハハワヒャヒャヒャ笑いまくっている。
「……オラァ!無視してんじゃねぇ!さっさと出てこいやゴラァ!この状況わかってんのかてめぇら!あぁ!?」
馬車の中でキョトンと顔を見合わせているとそれが無視されたのかと思ったのかボスらしき男が怒鳴ってくる。
さぁどうしようかと思い始めたところでジョージが無言で立ち上がって荷台から下りていった。
それに続くようにジャックも口を閉ざしたまま降りる。
「ちょっとまっててね」
エミリーだけがそう短く言葉を残して、これまた荷台から下りていった。
今や荷台の中にいるのは大量の荷物と聡介だけだ。
「ヒューッ!こりゃ活きの良さそうな女じゃねぇか!あとでた~っぷり可愛がってやるからなぁ」
下卑た視線がまるでヌメヌメとした触手のように無遠慮にエミリーの体をなで回していくが対してエミリーは涼しい顔のままだ。
女性冒険者として過ごしていると少なからずそういった目で見られることがあるために耐性はできているのだろう。
と、そこへ後ろから拘束でもしようと思ったのか近づいた男の首から上が鮮血を撒き散らしながら宙を舞った。
近寄られるのを察知したエミリーが剣を抜く勢いのままに体を半回転させて首を真一文字に切り裂いたのだ。
耐性はできてはいるが、不快感はどうしようもないためにイライラとした感情も合わさっていたのだろう、その様は流麗なというよりは荒々しさが勝っていた。
心臓から送り出される血液がドクンドクンという鼓動のリズムに合わせて間欠泉のように断続的に首から噴き出していたが、次第に首なしの体はスローモーションで見る様に後ろへと倒れていった。
ドサッという音と共に地面に赤黒い血だまりが出来始めたころにやっと時間は元の速さを取り戻した。
「こんのクソアマァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!ゆるさねぇ!!!野郎共ブッ殺せ!!!!!」
そして、最初に叫んだのは盗賊達のボスだった。
仲間が殺され一気に殺気付いた盗賊達は鎌や斧、剣、ナイフなどの統一性の無い武器をそれぞれ取り出して構える。
相手の人数は14人――エミリーが殺したのを入れるなら15人――で、だいたい1人が4人を殺せばいい計算だ。
相手もそれがわかっているのかバラバラに攻撃してくることは無く、1人に対して4人が取り囲んで一斉に攻撃してくる。
前後左右から同時に襲い来る刃の1つだけに集中すれば他の3つの刃がその無防備な体を切り裂くことになる。
かといって、同時に対処すると言うのもかなり厳しい話だ。
ジョージは4人がどうしたと言わんばかりに背中に携えていたデュランダルを取り出し、その場で体ごと一回転させる形でデュランダルを振りぬき取り囲んできた全ての敵の胴体を上下に分断した。
ジャックはと言えば、右斜め前方へ体を投げ出し前転しつつ刃の交錯点から抜け出した次の瞬間、起き上がるついでに体を右回りに回転させて右手に持ったジュワイユーズで右手にいた敵の左脇腹を深々と切り裂く。
その後も切り裂いた勢いを利用して初めに正面にいた敵に素早く斬りかかると、対処しきれなかった盗賊は自前の斧を振り上げる間もなく逆袈裟に切り裂かれた。
それからはあとの二人の獲物である鎌と斧の木製の持ち手を斬り飛ばすと軽くジュワイユーズを振るいトドメを指した。
エミリーの方は、前方で相手が斧を振り上げた瞬間にそのガラ空きの胴体へ体ごと突撃する形で相手をオートクレールの剣先で貫き、勢いのままに相手ごとたおれこむことで残りの3つの刃を回避する。
運よく心臓を突き刺さったオートクレールを引き抜き、後ろを振り返って構えると、敵はあわてて構えなおした所で追撃などは来ていない。
3人の中で最も弱いのか、お前が行けよとばかりに押し出された相手はバランスを崩してこけかけた隙を狙って無防備な背中にオートクレールを突き立る。
背中を刺された相手は、あまりの痛みに持っていたナイフを空中に放ってしまい、それを空中で見事にキャッチしたエミリーが狙いを付けて次の相手の顔面に投げつける。
仲間の眼球に深々と突き刺さったソレを見て恐怖の色を浮かべ始めた盗賊は、近寄ってきて剣を振るったエミリーに殺された。
「クソがッ!!撤退だ、奪えるもんだけ奪っていけ!!」
盗賊達のボスがやけくそ気味に叫ぶのを聞き、ジョージは何を言っているのか意味が分からなかった。
相手は4人ずつ倒せば住むぐらいの計算で、自分もジャックもエミリーも自分の周りの敵は倒して、残りは目の前のボス一人だけだと思ったからだ。
しかし、冷静になって考えてみると何が間違いだったのかようやく気付く。
相手は何人で攻めてきていたか
答えは15人
エミリーが最初に殺したのが1人と、その後にエミリーとジャックと自分が倒したのが4人ずつ、目の前で逃走を始めるボスを入れても14人だ。
では、残りの1人はどこにいる?
「ワァァァァアアアアアアアアア!!?」
ハッとして振り返った馬車から聡介の叫び声が響いてきて
ザシュ
と、剣が肉を切り裂く音が時間がとまったように静まり返るこの場に響き、次いでゴトリと何か重い物が馬車の硬い床に落ちる音が聞こえた。
「ソウスケーーーーーーーッ!!!」
そんなジョージの叫び声は、血で真っ赤に染まる峠の上に広がる深い夕暮れの空に吸い込まれていった。
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ん~なんか微妙にしっくりこない出来ながらもあげてしまった気がする。
これでよかったのだろうか@@?
まぁ……いいか……。
それでは~
次回をお楽しみに~(モチベあがらない……