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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第一章:土の国ガーランド編
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―017― 話し合いと黒幕

―017― 話し合いと黒幕


酒場から戻り、防具と武器を身に付けた3人はほのかに輝く月明かりのもとそれぞれが『敵』にそなえて隠れていた。


エミリーは裏庭隅の木箱横の影に小柄な体を屈めて隠れている、さっきまで息巻いていたのがウソのように静かに無感情に隠れているのは、あふれ出る気配によって見つからないようにするためだ。


ジャックはというと屋根の上に上がり伏せた体勢で、夜になって人気が無くなった通りと路地を監視する。


最後に表通りの斜向かいの店横の路地の暗がりに身を隠すのはジョージだが、普段の明るく豪快なジョージはなりを潜め、真剣な表情で静かに『敵』が現れるのを待っていた。


夜の闇にまぎれて隠れること数十分、聡介の店の2軒隣りの路地からそいつは姿を現した。


服装はいかにも街のチンピラですと言わんばかりに着崩した服装に、赤いペンキと大きなハケを携えている。


しかし、それ以上に不可解だったのはその隙の無さと気配の無さだった。


恰好こそありふれた街のチンピラではあるが、その身のこなしを見る者が見れば一目でプロの道のものだと分かるだろう。


服装をありふれたチンピラの恰好にすることで、たとえ一般人が目にしたとしても「あぁ、チンピラがいるなぁ」程度に抑え、プロの犯行ということを悟らせないための措置だろう。


プロが動くということはただの寄せ集めの組織と言うことは無く、洗練された、強力な組織ということでもある。


斜向かいの路地に隠れながら様子を見ていたジョージはこめかみから顎にかけて冷や汗が一筋流れるのを感じた。


裏庭にいるエミリーはもちろん、ジャックでさえ眼下の建物が死角となってこのチンピラ風の男のことを把握できてはいないだろう。


そのチンピラ風な男は聡介の店の前まで来るとハケを赤いペンキにどっぷりとつけ、過剰に着いたペンキを落とすことなく辺りにペンキを巻き散らせながら大きくなんらかの文字を書き始めた。


出来あがったその文字は何かは良く分からないが、おそらく嫌がらせのための落書きということは間違いない。


チンピラ風の男は書き終えるとハケをペンキを入れている缶の中に放り込み、その場を去り始める。


有る程度距離が離れたのを確認したジャックは路地の暗がりから出てその男を追いかける。


薄暗い裏路地を通り抜け、いくつもの角を曲がり、その後ろ姿を見失わないように懸命に追いかける。


裏路地を抜け、ついに郊外へと飛び出した男はそのまま森近くの小屋へと駆けていく。


障害物が少ないため、男が小屋の中へと消えるのを確認してから小屋の方へと走っていく。


小屋自体は放置されている風に汚れ、壊れているところがあるのに対し、中に入ってみると柱はしっかりと立てられ、要所要所はしっかりと補強されている。


デュランダルを引き抜き、小屋の中を一通り見てまわるが男の姿は無く、裏口なども無かったため小屋から出ていったとは考えにくい。


隠し部屋に注意しながら小屋の中を見ていると、床の板が少し盛り上がっているところが一か所だけあった。


デュランダルの剣先を板の切れ目に差しこみ、てこの要領で跳ねあげると地下へと通じる階段が現れる。


階段を下りていくが、所々に薄暗い灯りが設けられ、ひっそりとだが使われていることが分かる。


通路は狭く、ジョージの大剣では振り回せずに苦戦することは必至のため、リーチを活かした突きの構えで通路をソロソロと足音を立てずに進んでいく。


通路の横にドアは無くいきなり強襲されるということは無いが、その分前後で挟み撃ちを受けた場合は逃げる場所が無くあっという間に殺されてしまう。


嫌な予感を頭の中から振り払って進んで角を曲がるとようやく通路の終わりにたどり着く。


目の前の鉄製の扉に耳を押しあて、そこから伝わる声の振動をキャッチする。


最初は何か話し声がすると思うぐらいだが、さらに集中して耳を澄ますとようやく聞こえるぐらいまでになった。



「……ボス…………を………して……した………」


「……った。……明日……だろう。もし……今……いるかも…な」



心臓を鷲掴みにされるような嫌な予感を感じ取り、即座に扉から離れて反転し、足音を立てない中で最速のスピードを出して角を曲がる。



「いや、やっぱり誰もいませんよ」



角を曲がり切ったところでガチャッと扉が開く音がし、そんな男の声が聞こえた。


扉は直ぐにガチャリという音と共に締まり、静寂が通路に戻ってくるが、ジョージの心臓は周りに聞こえるんじゃないかと思うほどにドクドクと鼓動を強めていた。



(あっぶねぇ~……。もう少しで見つかるところだったぜ……)



一先ず危機を脱したジョージはここに留まるのは下策と思い、通路を元来た方向へと取って返す。


そして、小屋まで戻って安全を確認したジョージは尾行されてないか注意しながら聡介の店へと戻っていった。




■□■□■□■□■□■□


聡介の店へとジョージが戻ると、ジャックとエミリーがペンキが乾かないうちにと洗い流している途中だった。


木材の奥へと染み込んだペンキの赤色は落ちておらず、うっすらと赤色が残っていたが、幸い早く対処したおかげでそこまで目立つほどの後にはなっていなかった。


ジョージが戻ってきたことに気付いたジャックはエミリーを呼び、ジョージのところに歩いていく。



「どうだった?」


「あぁ、奴は郊外のボロ小屋に入っていったよ。一見ただのボロ小屋だったんだが、上手く隠されてたが床に扉があってそこから地下に入れるようになってた。通路の奥に扉があってその中で誰かが話してたんだが、うまく聞き取れ無かったよ。そのあとは見つかりそうになったんでここまで戻ってきたってわけだ」


「なるほど……。他には何かなかった?」



ジャックがさらなる情報を求めてジョージに質問をすると、ジョージは腕を組んで苦々しい表情をしながら相手のことを思い出した。



「それを書いてた奴の事だ。街のチンピラ風の恰好をしていたがあれは間違いなくプロだな。気配も足音もそこらにいるチンピラが消せるレベルじゃなかった。もしかしたら相手は大規模な組織かもしれんな」


「……う~ん、困ったね。流石に僕たちじゃどうしようもないかも。」


「ちょっと厳しそうね……。」



2人に報告し終えたジョージは片づけを手伝い、その後は店内に戻り、二階に上がって休息をとる。


短い時間だったとはいえ、極度の緊張状態に晒されたジャックの体はすぐにその意識を夢の中へといざなっていった。




■□■□■□■□■□■□


翌日目が覚めてジョージ達から昨晩の出来ごとを聞くと、しばらく悩んだ末にそこへ行くことに決めた。


今はそこへ行くための準備の最中だ。


と言っても、聡介自体は話し合いの席に武装して立つのは相手に警戒心を与えて纏まる話も纏まらなくなると考えたため非武装で行くことに決めたので、今実際に準備をしているのはジョージ達3人だ。


3人が武装したら元も子も無いじゃないかと聡介は訴えたが、丸腰で向かって脅されては目も当てられないというジョージの言い分も正しかったので、渋々承諾したというわけだ。


3人の武器はそれぞれ『デュランダル』『ジュワイユーズ』『オートクレール』だが、防具はと言うと極めて一般的な物を使用している。


ジョージはその大柄な体格を生かし、重量があるが防御力の高い鉄製のアーマーを着こんでいるために普段よりも迫力がある。


ジャックは細身の体を生かして速度を出すために革製のアーマーの上に要所要所を守る様に鉄板を付けられたモノを。


エミリーは女性なので重いアーマーを着こんで動くのは難しいために、全て革で(といっても強度は高い)出来たアーマーを着こんでいるが、その表面には幾らか幾何学模様が描かれていたり、文字が書かれている。


恐らくは魔術的な補助を組み込んだタイプの防具だろうが、その効果までは魔術を良く知らない聡介は分からない。


3人の装備の点検が終わり、さぁこれから行くぞ!と言う時になると、店の扉がバンッと開き、昨日のチンピラが入ってきた。



「……へぇ今ここで俺とやるってか?あぁん?」



聡介の後ろの3人の武装している姿を見て判断したのかチンピラは睨みをきかせてくる。


それにあわてた聡介は直ぐに誤解を解くために声をあげた。



「ち、違います!自分は話し合いをしたいだけです!待って下さい!」


「……それにしては随分な武装じゃねぇか。本当に話す気があるのかてめぇらは。…………まぁいい。話をするってぇならついてこい。ただし、向こうについたら武器は預からせてもらうぜ」



途端にスッと目が細まり、嘘を見抜くように眼光鋭くこちらを見てくるのに対して聡介が真っ直ぐに視線を返すと、少しの沈黙のあとチンピラは条件付きで許可を出した。



「ちょっと!そんなの……」


「エミリー。いいから……。分かりました。案内お願いします」



反論をあげかけたエミリーを手で制し、聡介がチンピラに頭を下げるとチンピラは店の外へと歩き出した。


店を出るときに『安全守る君』でしっかりと鍵をし、安全を確認するとチンピラの後ろをついて歩き、裏路地を通り郊外へと抜ける。


チンピラに促されるままに小屋に入り、地下へと通じる階段を下りていく。


薄暗い明りの灯った通路を抜け、角を曲がると鉄製の扉が目の前に現れる。


見かけによらず意外に分厚い鉄の扉をくぐると応接室のようにテーブルとソファーが備え付けられた部屋が視界に広がった。



「ちょっと待ってろ、今呼んでくる」


そういうと男は部屋の奥へと通じる扉を開けて向こうに入っていった。


どんな奴が出てくるんだろうと緊張していると、入ってきた扉がガチャリという音と共に開いた。


あれ?と思い後ろを振り向くと、そこには何度もお世話になっているエドガーの姿があった。



「あれ?もしかしてエドガーさんも嫌がらせを受けてきたんですか?」



不思議に思いつつ、エドガーに尋ねても否定するように横に首を振るだけだ。


その様子を変に思っていると、ようやくエドガーが口を開いた。



「……まだ分からないか?しゃーねぇから教えてやる、俺がここのボスだ」



言い終わるや否や、影に潜んでいたのだろう男達3人が聡介以外の3人の背後に回り込みあっと言う間に拘束すると同時にその首元に短いナイフを突きつける。


気が緩んだ一瞬のすきを突いて飛び出してきた男達になす術も無く拘束されてしまった3人はもう動くことは出来ない。



「安心しろ。後ろの奴らは暴れられたら困るから動きを封じただけだ。害を加えるつもりは無い」


「え、そんな……。エドガーさんが……なんで?」



突然の事態にいまだ頭が混乱している聡介はショックをうけたままだ。



「あの店は隠れ蓑だ。普通に成功している店なら、裏でこんな商売をしているとは思われないからな。経営自体は何も黒いところは無いから怪しまれることはねぇ。こことは全く別物だからな。あぁそれと素人に手を貸しているあれもそうだ。周りからの評判は上がるし、多少怪しまれるようなことがあってもそれが覆い隠してくれるからな。仕事もしやすくなるってもんだ」


「……それじゃぁ、あれは演技……?」


「あぁそうだ」



その言葉を聞いた途端急に力が抜けたように聡介は柔らかいソファーへと沈みこんだ。


それも当然で、今まで親しくしていた人にいきなり裏切られれば誰だって茫然とするだろうことは想像に難くない。



「わかったか?さて、本題だが話は聞いているな?今ならまだ何もしない。早くでていくんだ」


「何故ですか……?」


「予想以上にお前が売り上げを伸ばしているってことだ。これ以上成長しないうちに芽は摘んでおくに限る。これ以上成長すると表の店の経営に影響が出るからな。幸いまだ常連とかもついてないだろう。分かったか?」



消え入る様に声を発した聡介に対してエドガーは無表情のままに言葉を並べる。



「でも……!」


「くどいぞ、ソウスケ。これは最後通告だ。俺だってお前を憎んで殺したいわけじゃない。引くんだ」



言葉の刃と共に、喉元に鈍い光を放つ鉄の刃を突きつけられた聡介は黙って引き下がるほかない。


しばらくボウッとしていた聡介だが、今まで色々してもらったことは事実だ、たとえ利用するためだったとしてもっと自分に言い聞かせるとついに聡介は口を開いた。



「分かりました。エドガーさんには色々教えてもらったりお世話になったので出ていきます」


「それでいい。1日待つ、明日までに荷物を纏めて出ていけるようにしろ。移動用の馬車は俺が話を通しておく」



ジョージは声を上げようと動いたが、喉にヒヤリとした鉄の刃を無言で押しあてられ、生温かい血が流れるのを意識すると動きを止めた。


隣のエミリーやジャックは血こそ流れてはいないが、先ほどよりも刃と喉の距離は近い。


どちらにしても動くのは愚か、声を発することもできないだろう。


そうしてついに聡介とエドガーの話は終わってしまった。


ジョージ達はドラゴンゾンビ戦の時に加え、またもや自分達の実力の低さを痛感し、苦汁を舐めることとなるのだった。


5200字です。

今回もちょっと更新に時間が……><;

学校も始まってしまい、親にPCする時間も制限されてしまったので申し訳ない!

イイ訳ですよね!本当に申し訳ない!


皆さんが読んでいて「まさか!」と思っていればいいなぁと思いつつ書きました。

そう思っていただけだでしょうか?もしかして予想済み;w;?

予想済みなら自分はもう本格的に落ち込みますがね!


……さて、活動報告でも書いてあったとは思いますが、タイトルを変更しようと思い悩んでいます。

ちょっと内容と合わなくなってしまったので……。

これは自分の見通しが甘かったとしか言えません。

弁明の余地なしです、頭が上がりません。

まだ新タイトルを決めたわけではないので、変更が確定事項ではありません。

なので、感想と共にタイトル変更の是非を問いたいと思います。

なにとぞご協力お願いいたしますm(_ _メ)m


それでは!

次回もお楽しみに!(次は出発ですよ!

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