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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第一章:土の国ガーランド編
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―016― 音楽と脅迫 ※誤字修正

―016― 音楽と脅迫


聡介は今朝買って来たばかりの石灰とコークスの目の前に立っている。


というのも、昨日のジョージが暇そうにしていた時のことを思い出したのがことの発端だった。


この世界でも何とか手軽に音楽を楽しめることはできないだろうかと?と考えると、まず最初にMP3プレーヤーが浮かび、CD、MD、カセットテープと浮かんできたが、それら全てが電気を使うという点で不可能だった。


そして、しばらく悩んでいると、昔近所のおじいさんがレコードを聞かせてくれた時のことを思い出した。



「これはのぅ~、ぽりえんかーびにーるっちゅうので出来とるんじゃ」



当時、そのおじいさんは自慢げにそう言っていたが、十中八九『ポリ塩化ビニル』のことだろう。


そう判断した聡介はさっそく市場へと買い出しに出かけたが、当然そんなものがこの時代の市場に置いているはずは無く、原料の原料であるカーバイドを生成することにした。


そして帰ってきて今に至るというわけだ。


通常カーバイドの合成には、普通では容易に達することのできない2000度もの高温を必要とし、もとの世界ならば電気炉を使用して合成するのが一般的だ


それらの過程を錬金術という便利な術で一息にふっ飛ばし、空色を少し濁らせたような色のカーバイドを創る。


ここからはカーバイドからアセチレンを生成する過程に入るわけだが、アセチレンの製法は実に簡単な物で、水を作用させるカーバイド法を用いて行う。


反応させる前に急造のミニガスタンクもどきをつくり、傍に置いておくことを忘れない。


それからカーバイドと水を反応させて出来たアセチレンをミニガスタンクに貯めていく。


次の過程は毒を伴う危険な作業になるために細心の注意を払いつつ、水から精製した水素と食塩から精製した塩素を結合させて塩化水素を得ると、これもまたミニガスタンクに移してアセチレンと反応させてポリ塩化ビニルを得る。


そうして出来たポリ塩化ビニルを加工し、直径30cmほどの円盤型レコードを創ると、その表面に細い音溝を施す。


やっと出来た自作レコードは多少脆いが、昔見せてもらったレコードと同じように見えた。


さて、次はレコードを再生するために蓄音機創りに取り掛かる工程に入ることになる。


再生をするにはレコードの表面に施された音溝をたどり、それで得た振動を空気中に振動として発してやる必要がある。


その仕組みは単純な物で、録音時に蛇行して刻まれた溝を針で辿り、その針の振動を増幅し、スピーカーに相当する振動板に伝えて音を再生するというものだ。


しかし、ここで再生された音はまだまだ綺麗な音では無いので、パイプで出来たトーンアームという場所を通してホーンへと導く必要がある。


聡介はそのホーンを、落ち着いた柔らかい音を出すために金属製のホーンでは無く、木製の長めのホーンをそこらに置いてあった薪で創った。


そして、最後にゼンマイ式のモーターを取りつけると、ようやく蓄音機は完成した。


聡介が早速録音をしようとレコードを一枚セットし、ゼンマイを巻いてレコードが回りだすのを確認してから福山雅○の歌を歌う。


とりあえずサビだけを歌いきった聡介はレコードをセットし直してからハンドルを回し、再生を始める。


再生が始まるとCDとはまた違う深みのある、そしてどこか温かみのある声になった福山○治の歌――正確には聡介が歌った福山雅○の歌――が流れてきた。


それに満足し、これからはどんな歌を録音していこうかと思いを馳せる聡介はあることに気がついた。


どこにその録音できる歌があるかということだ。


自分の歌を録音すると言ってもレパートリーに限界がある上に、そんな恥ずかしいことは論外である。


といって酒場などに行ってもそうそう歌が上手い子がいるわけじゃない。


あぁ言うのはその場のノリというか、酒の勢いや、または相手の服装によって場が盛り上がっているだけだ。


ガーランドの街には音楽家と自称している者もいるにはいるが片手で数えるほどしかいない上に楽器またはその本人自体がお粗末だったりすることのほうが多い。


そんな理由から聡介はせっかく作った蓄音機とレコードを泣く泣く店内の片隅で埃をかぶせることになったのだった。


しかし、コレが数年後にとある貴族の目にとまり、音楽の録音という目的だけでなく、スパイの情報伝達手段としても使用されることになるとは聡介でさえ思いもよらなかった。――蓄音機が広まるとこの方法は廃止された――




■□■□■□■□■□■□



「オラァ!店主いるかぁ!店主ぅ!」



蓄音機を部屋の片隅に片づけ、聡介がカウンターの上で意気消沈としているときにその男はやってきた。


ドアをバンッと乱暴に蹴り開けて入ってきた男はズカズカと大股でカウンターの前まで歩いていき、イスに右足を上げ、その膝に腕を乗せると身を乗り出して威嚇するように声を発した。



「テメェがここの店主か?あぁ?」


「えと、そうですが……。どうかしましたか?」



イキナリのその態度に気圧され、タジタジとしながらなんとか言葉を返す聡介。



「最近段々と調子に乗ってきてるみてぇじゃねぇか?あぁ?ウチの頭《かしら》の縄張りで好き勝手してんじゃねぇよ。まだ常連もついてねぇみてぇだし、いてぇ目見る前にとっととこの街から出ていけ。いいか?コレは注意じゃねぇ警告だ。1日だ。1日で出ていくか、どうか決めろ。出ていかねぇならどうなるかは分かるよなぁ?」


「ちょ、ちょっと待って下さい!いきなりそんなこと言われても……!」


「あぁ?事前に言っとけば出て行くとでもいうつもりか、テメェは?明日日が落ちてからまた来るぜ。よ~く考えろよぉ?」



そういった男は足を乗っけていたイスを蹴倒し、店の武器陳列台を蹴飛ばしながら進み、扉をまたも蹴破る様にして出ていった。



「一体なんなんだ……。……せっかく、ジョージやジャック、エミリー達とも仲良くなってこれから営業をしっかりやっていくって時に……。」



突然現れて退去勧告を一方的に告げて去っていった男のことを思い出しながら、聡介は腹立たしくも思いながらどうするかということを考え始めた。


部屋の中の雰囲気は一気に悪くなり、聡介自身も暗い気持ちになってしまった。


しかしそんな聡介とは対照的に、店の外では何事も無かったのようにいつも通りの活気のある昼下がりの光景が広がっていた。




■□■□■□■□■□■□



「はぁ!?何よその男!ふざけんじゃないわよ!」



男が去ってから数時間後、依頼から帰ってきて――聡介にお金を払うためにしている――、事の顛末を聞いたエミリーが最初に声を張り上げた。



「まぁまぁ、エミリー……。落ち着きなって、今憤慨しても仕方ないでしょ。」


「いいえ!落ち付いてられないわよ!ソウスケは一生懸命やってるのに!許せないわよ!」


「おい、落ち着けって。今大事なのは憤慨することじゃなくて、これからどうするかっていうことだろ?」



珍しくジョージによってたしなめられたエミリーは不承不承といった感じで用意されたイスに腰を下ろしたが、その頬はまだ膨れている。



「で、ソウスケはどうするつもりなんだ?」


「どうもこうも……何が何やら分かんないよ……。出て行きたくは無い。だけど……どうしようもないよ……」


「あんな奴らなんてバシッととっちめてやればいいのよ!あのドラゴンと戦ったソウスケならそんなの簡単よ!」


「無理だよ……。あの時は自分でも無我夢中だったし、何より今度のは相手が人間なんだよ?いくら相手が悪くてもそんなのできるわけないじゃないか……!」



聡介がこれまで生きてきたのは日本という法治国家で、一部の例外を除きどのようなものであれ『人を傷つけること』が法によって大きな罪とされてきた社会だ。


『人を傷つけてはいけない』そう言われて長年をかけて培われた倫理観というものは、いくら異世界にきてそこまで法にしばられないと言ってもそう簡単に変わるものではない。


そんなに気が強くない聡介の心の内から『自分が犯罪者になる』という意識が拭えないのは仕方のないことと言えるだろう。



「ソウスケがやりたくないというのならやる意味はないだろう。」


「でもそれじゃぁ!」


「エミリー!そこまでにしとけ。ソウスケだって悩んでるんだ。俺達が口を出す問題じゃない」



ジョージの言葉に反応して思わず声を上げたエミリーだが、先の言葉は続くことはなく、ジョージに遮られてしまった。


正論ゆえにこれ以上いうことが出来ないエミリーは、仕方なく黙って口をへの字に結ぶ。



「ゴメン。今日は色々考えたいから……」



聡介はそう言葉を残すと、ガタッと椅子を引いて立ち上がり工房のほうへと暗い雰囲気のまま去っていく。



「ソウスケ!手が必要な時は言ってよ!僕達も手伝うから!」



工房の扉を開けたソウスケにジャックが声をかけると、こちらを振り返り「ありがとう」と言って工房の中に入り、扉を閉めた。


バタンという音と共に締まった鉄の扉は、まるで今の聡介の拒絶の意思をしめすようだった。




■□■□■□■□■□■□



「さて……ソウスケにはああ言ったが、納得できるわけがねぇ……。ソウスケには恩義もある。」


「うん、俺も許せないよ」


「私だって許せないわ。ソイツを見つけたらギタギタにしてやるんだから!」



ソウスケが工房に籠ったあと、戸締りをして酒場で早めの晩御飯をとっていたジョージ達は酒場の隅のテーブルで話し合いをしていた。


酒場の隅は他人に聞かれるとまずい話をしやすく、他の客も店員もそれとなく距離を話すのが暗黙の了解となっているので、早い時間帯も手伝ってか周りには人が少ない。



「たぶん今晩ぐらいに本気ということを示すために嫌がらせか何かをしてくる可能性が高い。見つけ次第潰すのが定石だが、生憎俺たちは相手のボスが誰か分からない。何をするかは分からないが、工作が終わって油断して帰るところを尾行するぞ。今回ばかりは何があっても我慢だ、いいな?」


「うん、それがいいと思う。それで、ボスを見つけた後はどうする?」


「潰す……っと言いたいところだが、相手の組織の規模にもよる。まぁ戻ってソウスケに報告するのがいいだろうな」


「わかったわ。じゃぁ早く準備しなきゃ……!」



そういうやいなやエミリーは自分が頼んでいた料理を急いで片づけた。


が、ジョージとジャックがそれほど急いで食べようとしなかったため結局エミリーは待たされるハメになり、待てなくなったエミリーによってジョージとジャックの料理はだいぶ食べられてしまう。


ジョージとジャックは恨みがましい目でエミリーを見たがエミリー自身はどこ吹く風と言った感じで、諦めた2人は会計を済ませて酒場の外に出ていった。

4256文字です。

今回はちょっと短めですねぇ。

話をつなげようと思ったのですが予想以上に長くなりそうだったので短く切らせていただきました。

前話でアイディアの募集をしたところ予想以上に多くのアイディアを頂き、とても驚いております。

まさかこれほど反応していただけるとは思わなかった><;

なるべく出すようにはしますが、無理なモノはこちらの判断で除外させていただきます、申し訳ない。

出来そうなモノは出す予定ですが、だいぶ後になるかもしれないのでソコはご了承を……。


さて、気づけばPVが446,951アクセス・ユニークが66,573人 となっていてこれもまた驚いております。

これからも精進していきますのでよろしくお願いしますm(_ _メ)m

それでは、

次回もお楽しみに!(次は結構重要な展開がッ!

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