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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第一章:土の国ガーランド編
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―014― 錬金術と魔法

―014― 錬金術と魔法


朝起きた聡介は未だ覚醒しない頭を左右に振るが、それでも頭の中に靄がかかったままのような気がして冷水で顔を洗うことにする。


裏の井戸からくみ上げたばかりの水はとても冷たく、顔を洗うとすっかりと意識は覚醒した。


昨日、工房にこもると言ったので外に出ることも出来ないので、当初の予定通りに3人の武器を作り上げることにする。



「まずはジョージの分の剣から創ろうかな。」



190㎝近くの高身長を持ち、冒険者生活で引き締まったガッシリとした体格のジョージには大剣を創ることにする。


元の時代での使用方法は、主に『槍を構えた敵の隊列を攻撃するために使う』ものであり、斬るというよりは、重量でもって叩き斬る、または押し潰すといったものだ。


大剣と言えば、その重量のために長時間の戦闘をするのに相当な体力が必要とされ、剣自体の長さによって発生する遠心力で振り回されやすいというのが欠点に挙げられる。


そのために接近戦を主とするこの時代の決闘には用いられないが、魔物を狩る時などには一定の距離を取りつつ戦うので力に自信がある人には好まれている。


その点ではジョージは問題無いだろう。


しかし、かといって欠点である重量の問題を残したままでは、最高の武器とはいいがたいのではないだろうか?


重量の問題を克服するためには、重さを持たない魔力と金属とを結合させることで重さはかなり軽減されるだろう。


斬り方についてはそのままでも良い気がするが、防御力の高い相手の場合に備えて、刃こぼれしない金属で鋭い刃先を創っておくほうがいいかもしれない。


刃こぼれしない金属は『ルシフェリオン』を創った時に使ったアダマンタイトでいいだろうが、今回はあの時以上に魔力を結合させる必要がある。


何回か練成して慣れたとはいえ、多くの魔力が必要なのは変わり無い。


魔力の伝導効率が上がった今では、体の中にある魔力と少量の魔鉱石でなんとかできるだろう。


倉庫から鉄のインゴット数個と魔鉱石を取りだしてくると、それらを纏めた上に手を翳す。


そして鉄を分解して行きつつ、魔力が体内を通るための路をイメージして、そこに魔力を通していく。


聞きなれて来たバヂンバヂンと弾ける練成音は既にBGMのようにさえ感じられる。


前回アダマンタイトを創った時のイメージよりも多めの魔力を鉄の周りに展開し、結合させると、前回よりの濃い目の色の金属に仕上がった。


前回の『ルシフェリオン』を翡翠色とするならば、今回のはエメラルドグリーンと言ったところだろうか。


出来上がった金属を大剣の形に成型し、鍔とグリップを取りつけてから鞘に納めると完成なのだが、大剣を入れるような鞘は無いため、自分で皮を巻きつけるなどをしてもらおう。


とりあえずは出来上がったジョージの剣の重さは1.4~1.7kgほどだろうか。


通常のツーハンデッドソードほどの大剣の重さは2.5~3.0kg程度なのでこれで重さに関しては問題無さそうだ。


切れ味は既に分かっているので問題無い。


今回の剣は持っても引き込まれるようなことも無く、少し気分が高揚するぐらいなので大丈夫だろう。


完成したジョージの剣は工房の隅に立て掛けて置き、次はジャックの剣に取り掛かる。


ジャックは特に扱う武器も決まっていないため、1mの長さのロングソートと、ダガーを渡すことにした。


ジャックの剣の素材については、ジョージの大剣の時に使ったアダマンタイトをそのまま流用してロングソードとダガーを仕上げる。


ロングソードは普通に鍔とグリップを付けて仕上げたが、ダガーの方は握りやすいようにグリップ部分に窪みをつけておく。


ジョージの時と違い、考えるほどのことも無くあっさりとジャックの剣が出来てしまい、寂しい感じもするが、それは仕方が無いことだと割り切るしかない。


剣としては一流だし、まぁいいかな……と考え直した聡介は、次にエミリーの武器を考えることにした。


エミリーの武器の形自体はジャックのと同じく、1mほどのロングソードで構わないのだが、エミリーは魔法を使うので魔法の術式を補助する機能を付けたい。


アダマンタイトは確かに魔力も込められていて、刃こぼれもしない金属だが、魔法的な補助機能は無いからエミリーの武器には合わない。


となると、新しく金属を考えなければならないのだが、聡介は既にアドルフから貰った銀を使うことに決めていた。


銀と魔力と考えて聡介の頭の中で閃く金属は一つしかなく、その金属とは聖銀と名高く、元の世界でも様々なゲームに登場してきた『ミスリル(聖なる銀)』だ。


特徴としては、とても軽く、不浄――アンデッド系の魔物や汚染された地域など――を退ける神聖な力が宿ると言われる。


神聖な力と言っても聡介にそのような力はないので、そこはクラウに光系統の加護か何かを入れてもらうしかないだろう。


しかし、銀と魔力で『ミスリル』を創ると言っても、銀というものの性質はとても柔らかく、圧縮したとしても時間が経つと『自然軟化』という変化を起こして元の柔らかさに戻ってしまう。


この性質があるため、銀の高度を上げるためには別の金属を入れて硬さを調節しなくてはならない。


元の世界では、この調節に銅を用いるのが常識となっている。


例えば、ジュエリーやアクセサリーに使うには、有る程度の柔らかさを残すために銀95.0%銅5.0%の割合――コレを950銀という――で、銀食器などには硬さを出すために銀92.5%銅7.5%の割合――コレは925銀という――で銅を混ぜる。


しかし、ミスリルでは銀の輝きを残すためにはコレ以上銅を混ぜるわけにはいかないし、銅を7%以上加えても硬度にあまり変化は見られないらしいので銅は無理だ。


それならば別の金属を混ぜるしかない。


通常の金属の中で硬いとされ、手元に有る金属から精製できるのは鋼ぐらいしかない。


鋼ならば通常の剣として使っても問題はないぐらいだし、硬さは出せるだろう。


しかし、鋼にくわえ魔力までも混ぜるので切れ味・耐久力共に一級品では有るだろうが、刃こぼれしないとまでは行かないかもしれない。


それだけ銀と言う金属は柔らかく、本来は戦闘用の武器に使用するものではないのだ。


それでも、エミリーの武器にする材料の中で思いつく最高の材料は『ミスリル』しかないというのも事実。


聡介はゴチャゴチャと考えるのをやめ、『ミスリル』を創ってみることにした。


思い立って倉庫から銀を取り出してきた聡介だが、銀はあまりにも量が少なかった。


魔力や鋼を混ぜるにしても1mのロングソードを創るには圧倒的に量が足りない。


また貰いに行くということも出来ないので、工房の中のベッドに腰かけて手の中で銀塊を転がしつつ思案する。


しばらく考えても中々名案が思い浮かばない聡介だったが、それは腰元で光を放つクラウが話しかけたことによって解決することになった。



《あの……『法則の無視』って能力を使って無理やり量を増やせばいいんじゃないでしょうか?聞かれても合金だからって答えれば済むでしょうし……》


「それだよ、クラウ!」



あまりにつかって無くて、直ぐに思いつかなかった聡介だが、聡介には『錬金術の使用に関する全ての法則の無視』という能力があったのだ。


合金という、言い逃れるための嘘の情報を手に入れた聡介はさっそく銀を練成して量を増やすことにした。


手に握っている銀塊を増やすイメージが湧かないため、今回ばかりは無理を承知で『練成後に大きくなった銀塊』をイメージするだけだ。


どのようにして大きくなるかの過程はすっ飛ばして、つまりは質量保存の法則を無視して練成するわけだ。


難しいイメージは無く、ただ完成した大きい銀塊を想像するだけ・


バチバチという練成音を、出来るかどうかの幾ばくかの不安と緊張を持って聞いていたが、終わってみるとあっさりと、大きくなった銀塊が手の上に乗っていた。


あまりにもあっさりと出来たので一瞬聡介は拍子抜けするが、まぁ出来たならいいかと思ったのか次の工程にとりかかる。


腰元ではクラウが、本当に出来ちゃった……みたいな雰囲気をだしていたが気にしない。


まずは量が増えた銀塊に対して8%の鋼を混ぜて、均一に仕上げていく。


スチールグレーが混ざることによって銀色の輝きは少し薄れてしまったが、ミスリルの色は銀灰色らしいのでちょうどいいだろう。


出来上がった『ミスリルの原石』は鈍い輝きを放って出来上がるのを今や遅しとまっているようだ。


聡介は意を決すると、手を重ねて、自分の内から湧きでてくる魔力を自身の体の中の路にゆっくりと通していく。


路を介して湧きでた魔力はどんどんと『ミスリルの原石』に纏わりつき、結合していく。


ドンドンと吸い込まれ、結合していくごとにキラキラと宝石を散らした様に細かな光を放つ光景は、妖精たちが剣に祝福を授けている儀式のようだ。


次第にキラキラとした光はおさまっていき、代わりにボンヤリとした光を纏ったのを見ると練成は成功したようだ。


出来上がった『ミスリル』を成形し、1mほどのロングソードに仕上げて鍔と握りを付けて振ることが出来るようにする。


試しに振ってみると、ボンヤリとした光が軌跡をなぞる様に後を追ったが、いまいち締まらない。



「う~ん……まだ完成じゃないから何とも言えないけど、ちゃんと出来るかな……?」



今のとこいまいちな仕上がりのままの『ミスリル』の剣を見ながら一人呟いた聡介は、腰元に差したクラウ・ソラスを引き抜いた。


金属が擦れる音すら発さずに引き抜かれたクラウ・ソラスは、相変わらず神々しいまでの光を放っている。



《そろそろ私の出番ですか?》



自分の出番がようやく回ってきたクラウは、口調こそ普通だが心なしか嬉しそうな雰囲気だ。



「うん、お願いするよ。自分で出来る範囲のことは精いっぱいしたから、あとはお願いするよ、クラウ」


《分かりました。掛ける魔法は、術式補助と身体強化の魔法の2つだけでいいですか?》


「そうだね。あまり強力過ぎても変だしね。その2つで大丈夫だよ」


《では、今から始めます》



そう言うとクラウは刀身から発する光を強めていき、やがて大気に存在する魔力さえも渦巻く光の中に取り込んでいく。


魔力が光の渦に飲み込まれていく過程で、魔力自体が白銀の光を発し始め、工房の中は渦巻く白銀の光で溢れていた。


光の渦の中心で言葉を紡ぐ――言語は違うらしく理解できない――クラウの声は、工房の中で反響することも無く頭の中に染み込んでくるようだ。


五月蠅くなく、心地いいとすら感じられる言葉の旋律は心の奥まで入り込んできて、心を震わせる。


そして、クラウの声が止むと、白銀に渦巻いていた光もおさまっていく。


やっと正視できるほどの光量になり、目の前に置いていた剣を見ると、刀身に白銀の輝きを持つ『ミスリル』の剣が在った。


聡介がクラウ・ソラスを鞘に収め、その剣を手に取って軽く縦、横と2回振ると剣の軌跡を追うようにキラキラと白銀の粒子が舞った。



「ありがと、クラウ!クラウのおかげだよ!」



会心の出来に満足した聡介は剣を手に持ったまま、クラウの方へ向いて感謝の言葉を述べた。



《え?あぁいえ……こちらこそどういたしまして……?そ、それよりもこの剣の名前を早く決めましょうよ!》



何故か戸惑ったような返事を返し、その次に焦ったような感じで声を発したクラウに、可愛いなぁとほんわり癒されつつも――恋愛的な感情では無い――クラウの言葉通りに剣の銘を付けることにする。



「う~ん、何にしようかな……?そうだ!クラウがしてくれなきゃ完成しなかったわけだし、クラウに決めてもらおうかな~」


《わ、私ですか!?……うぅ……そうですね……『オートクレール』でどうでしょうか?》


「……うん、分かった。『オートクレール』だね」



確か『高潔』『高く清らか』という意味を持つオリヴィエ卿の愛剣だっけ……と思いだす一方で、なんでクラウが元の世界の剣の名前を知っているんだろうかと思ったが、声に出して聞くまではしなかった。


ちなみにオリヴィエ卿とは、カール大帝ことシャルルマーニュの家臣で十二臣将の一人オリヴィエ卿のことで、聖剣デュランダルを持つローランの一の親友だった人物である。


完成した3つの剣達の銘は、ジョージの大剣『デュランダル』、ジャックの片手剣『ジュワイユーズ』、エミリーの片手剣『オートクレール』。


『デュランダル』と『ジュワイユーズ』と『オートクレール』は、オリジナルと同じほどの効果などが備わっている訳ではないが、3人の結びつきを考えて付けたものだ。


とは言っても、『デュランダル』のローランと『オートクレール』のオリヴィエの様に、『ジュワユーズ』の持ち主のシャルルマーニュに仕えるように……ということでは無く、あくまでもこの3つの剣が一つの伝承に出てきていて関係が深いというところから考えて名付けたものだ。


ちなみに、ジャックのダガーも業物ではあるけれど、気軽に使えるように銘は付けないことにした。


何故銘をつけないかというと、銘が入った物を気にいってしまって、いざというときに使い捨てられなかったり、サバイバル用の汎用道具として使うのを躊躇ったりするのを避けるためだ。


ダガーという武器は汎用性が高く、戦闘以外でも使用することが多いのでこうする方がいいだろうと聡介は考えたのだ。


聡介は出来上がった3本の剣とダガーを、壁際に置いてある長方形の木の箱に纏めていれると、体の筋肉を伸ばすために大きく伸びをした。


体を伸ばすことで一つの工程の終了として集中力を切ると、自分の体がうっすらと汗ばんでいることに気がつく。



「む……少し水を浴びてこよう……」



裏に出て、手早く水を浴びて汗を落としてスッキリして工房の中に戻った聡介は、時間が余りすぎていることに気が付いて、何をしようか悩むことになる。


工房から出て行ってどこかで時間を潰すのは、ジョージ達に『籠る』といった手前するわけにはいかない。


かといって、工房の中ですることは限られている。


しばらく悩んだが結局名案が浮かばなかった聡介は、ベッドにダイブして昼寝を敢行することにした。


集中力を使ってほどよく疲れた聡介の頭は、ベッドにうつ伏せになって目を閉じていると次第にまどろみの中に沈んでいき、ついには完全に意識を手放した。


工房の中でくぅくぅと眠りこける聡介は知る由も無かったのだが、工房の外では3人がそれぞれどんな武器ができるのだろうと期待していた。


ジョージは待ち時間を潰すために酒場でお酒を軽く飲みながら期待している。


ジャックは古書店で様々な本を見ながらも頭の片隅では常に考えている。


エミリーは喫茶店で紅茶やスイーツを楽しみつつ、聡介が無理しないか心配しながらも待っている。


そんな中で眠りこけている聡介は夢の中にいた。



「……キキ……ニシンのパイ盗み食いしちゃダメ……ZzZzz」


5954文字です。

バイトが楽しいです!疲れるけど!

最後の寝ごとに関しては某ジブリ監督の某宅急便少女の物語の一シーンです。

……笑っていただけたなら嬉しいです。

笑ってもらえなかったのであれば、感想にて何かネタを振って下さればいつか使用させていただきますので!

ではでは!

次回もお楽しみに!

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