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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第一章:土の国ガーランド編
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―012― 帰還と覚悟 ※一部修正

※ラスターは間違いでした

正しくはクラウです

―012― 帰還と覚悟


一向は生き返ったものの体力が戻らないジャックと、怪我を負ったジョージを支えながら遺跡から出て街へと戻っていた。


遺跡の地下空間につながる扉は、聡介たちが出ると独りでに閉じていったので問題は特に無いだろうと思いそのままだ。


街へと戻ってきた聡介は、ジョージとジャックを回復させるために病院――治癒術師が魔法を掛けて直す場所――へと送り届けると言ったエミリーと別れ、一人店へと帰ってきた。


店へと帰ってきた聡介は『安全守る君』に暗証番号と鍵を入れ、店内へともどってきた。


遺跡ではあんなことが起こったのに、店内は朝店を出たときと何も変わっていない。


そのことに安堵すると急に力が抜けていく気がした。


おそらくは張っていた緊張の糸が、変わらない日常の風景を見ることでプツンと切れたのだろう。


ふらふらとカウンターまで歩いた聡介はカウンター裏に置いてある椅子にドサッと座った。



「疲れた……。……僕が行くなんて言わなかったら、皆が怪我することもなかったのに……。生き返ったって言ってもジャックは一度死んだんだ。明日、謝らなきゃ……。」



今日のことを思い出した聡介は、もしジャックがあのまま死んでいたらと思うと急に怖くなってきた。


椅子に座る聡介は、まるで自分を守るように体育座りをして身を縮ませた。


自分が殺した……そんな自責の念にとらわれ始めた聡介を現実に引き戻したのは、腰に指していたクラウ・ソラスだった。


光り輝くクラウ・ソラスは、罪というものを知らないかのように真っ白に輝いている。


罪を感じ暗く落ち込む自分と、罪を知らないように輝くクラウ・ソラス。


聡介は知らず知らずのうちに腰にさしたクラウ・ソラスを抜き、カウンターの上にゴトリという音と共に置いた。


カウンターの上へと置かれたクラウ・ソラスは相も変わらず光り輝いている。


そんなクラウ・ソラスを見つめていると罪が許されていくような気がして、聡介は見入っていた。



《いつまでも暗くしていても何も始まりませんよ?》



突然頭の中に響いてきた声にビクッとして周りを見渡す聡介だが、店内にはもちろん誰もいない。



《私です、私。目の前の輝いている剣ですよ》



欝になりすぎて幻聴まで聞こえてきたと頭を抱え始める聡介だが、そんなことは無視して剣は話しかけてくる。



《レイルース様に命じられてこの剣に住み着くことになりました。これから先アナタが悪の道にそれない限りは、私がアナタの力になります。ですが私の力が必要になさそうなほどイイモノは持ってるみたいですけどね~》



「え~っと……。光の精霊だって?本当に?」



《本当ですよ、なんなら実体化してみせましょうか?》



聡介は一瞬で、光り輝く小さな裸の『女』の妖精を想像してしまい、顔が赤くなりそうだったので即座に断った。



《ずいぶん悩んでいたみたいですが、この世界で生きていくためには植物も、動物も、人でさえも殺さなければいけないことがあります。慣れろとは言いませんが、それがこの世界の現実です》


「でも!そんなのが殺してもいい理由(わけ)になるわけがない!」


《よく考えて下さい。アナタが考えるべきは、殺しても許される言い訳(わけ)ではありません。殺した後にアナタ自身がどうすべきかです。殺したならばソレに感謝して、ソレを糧に成長すればいいですし、今度は殺しをしないように気をつければいいのです。一番ダメなのは、その『死』を無駄にすることです。》



正論を言われて反論することが出来なくなった聡介は、黙っている間に言葉を何度も頭の中で繰り返す。


やがて、その通りだと思うことが出来るようになった聡介は重い口を開いた。



「そうだよね。……間違ってたよ。ありがと……え~っと」


《あぁそういえば自己紹介まだでしたね。私は光の精霊。名前自体はありませんので、この剣の銘と同じでかまいませんので、クラウと呼んでください。これから先よろしくおねがいしますね。》


「僕は神尾聡介。名前はソウスケだよ。これからよろしくね、クラウ」



そうして、聡介はクラウと始めて出会い、そして、ジャックを殺してしまったという自責の念から抜け出すことができたのだった。




■□■□■□■□■□■□


その後、特に何もする気が起きなくてカウンターに座って寝ていた聡介が目を覚ますと既に外は暗くなっていた。


暗くなった店内に明かりを付けようと思い、灯油ランプを取ってきて灯りをともす。


ランプの明るい光はすぐさま暗い店内を照らし、闇を蜘蛛の子を散らすように退治していく。


明るくなった店内からは窓を通して灯りが通りにもれ出ていたのでカーテンを閉めておくことを忘れない。


明るくなった店内では聡介が一人座っているだけで、音は何もしない。


暇ではあるが昼寝をしたせいもあって寝ることが出来ない聡介は、何をしようかとしばし悩んでいたが、やはり何もすることが無かったのでとりあえずクラウ・ソラスを抜いて見た。


相変わらずクラウ・ソラスの刀身は眩く光り輝いている。



《……あの、そんなに舐め回す様に見ないで下さい……恥ずかしいです……》


「ちょっと待ったぁぁぁ!僕はただ剣を見てただけで、そんな変な目で見てたわけじゃないよ!ていうか、そもそもクラウはそんなキャラだったの!?」


《アハハ、細かいことは気にしないで下さい。少しぐらいはこういうキャラの人がいたほうがいいんじゃないですか?》



ダメだコイツ、早くなんとかしなきゃ……と頭を抱える聡介は、ダメな部下を持つ中間管理職の人もこんな感じなのかなと思っていた。


しかし、そんなことはさておきといった感じでクラウは話しかけてくる。



《そういえばソウスケは変な力もってましたよね?あれはうまれつきの特殊な能力か何かなんですか?》



話すべきかどうか考えた聡介だが、話しても特に害はないだろうと判断して、この世界に来たいきさつも含め、全ての事情をクラウに話した。



《……けっこう、大変な人生送ってるんですね、ソウスケって。まぁ私が全ての敵を一撃で倒してあげますので安心してください!》


「……非常に不安です……」


《あらあら、私の力分かってないようですね?待っていて下さい、今見せますので》



そういったクラウはクラウ・ソラスの刀身を真っ白に輝かすと、ゆっくりと宙に浮いた。


クラウ・ソラスの刀身には見たことも無い文字が刻まれていてそれが強く発光しているのが見て取れる。


独りでに浮かび上がったクラウ・ソラスは部屋の中を縦横無尽に飛び回っていた。


聡介がその光景に唖然としているがそれもそのはずで、『本物のクラウ・ソラス』はひとりでに動き、隠れた敵まで探し出して倒すという自動追尾機能までそなえた剣だったからだ。


聡介が作った『クラウ・ソラス』は形こそクレイモアだが、機能と輝きは本物のクラウ・ソラスと何一つ変わらない。



《見ましたか、ソウスケ。これが私の…ちか……ら…です……あれ?》



そういいながら目の前に飛んできたクラウだが、なぜかいきなり高度を落としてカウンターの上に転がった。


落ちたさいに、カウンターの端っこがごっそり切り落とされたのをさりげなく錬金術で修復しておくのを忘れない。



「あれ?どうしたの?」



そう聞いた聡介にクラウは悔しそうに呟いた。



《あぁ……。魔力切れです、コレ。私出来たばっかりの精霊だからまだ魔力少ないの忘れてました。……いえ、時間さえたてば魔力は増えますし魔術も使えるようになるのでそんな目で見ないで下さい!》



聡介の微妙そうな視線に気づいたクラウは――目も無いのにどうやって気づいたかは不明――慌てて言葉を足したが、実際に自立行動ができるようになるのはもう少し先らしいということが分かった。


それからもしばらく楽しそうに?会話をしていた聡介だが、ようやく眠くなってきたので寝ることにした。


ランプを消し輝くクラウ・ソラスを掲げながら工房を押し開けてベッドを置いてある場所まで歩いていく。


このときクラウは、道を示すとは言ってましたけどこんな事に使うためじゃないです!と憤慨していたが聡介は華麗にスルーしていた。


ベッドへと戻った聡介はクラウ・ソラスを鞘の中へと納めて枕元に置いておく。


枕元に置いたのは、クラウが倉庫なんかにいれないで下さいと言ったからであり、着ていた防具は既に外して倉庫の床の鉄板の下にしまってある。


そしてクラウに、お休みと言った聡介は眠りに付いたのだった。


長く大変だった一日の終わりの夜空からは月が消え、その代わりにたくさんの星が労うかのように満天の星空が広がっていた。




■□■□■□■□■□■□


太陽が山陰から顔を出し、町を朝焼けに染め始めたころ、聡介は目が覚めてしまったので起きることにした。


外に出て顔を洗い、身支度を整えるとサッパリとした気がする。


工房に戻った聡介は腰元にクラウ・ソラスを差し、冒険者ギルドで依頼を済ませた後にお見舞いにいくことにした。


冒険者ギルドについた聡介は受付のお姉さん――素晴らしい営業スマイルの持ち主の例の人――に鉄鉱石と鉄クズ、木炭の採取の依頼を出している。


朝早いためか周りには泊り込みの依頼を終わらせた冒険者の人達が仮眠を取っているか、ご飯を食べているだけだ。


いつもの賑やかな鳴りを潜めている冒険者ギルドというものはいくらか新鮮な気もする。


そんなことを思いながらも依頼を出し終えた聡介は、今度はお見舞いへいくために冒険者ギルドの扉を開けて病院へと向かう。


活気が出てきた市場の前を通る途中でいくつかの果物を買っていくことは忘れない。


この世界ではどうかは知らないけれど、元の世界では見舞い時に果物を持っていくのは定番だよね、などと思いつつ買い物をすませて病院に行く。


病院へとついた聡介は受付らしき女性に声をかけようと近づいていく。



「あの~すいません。昨日ココにジョージとジャックっていう二人がきたと思うんですけど、どこでしょうか?」



聡介に話しかけられて振り向いた女性は、ブロンドの髪に銀色の目をした可愛らしい顔立ちの人だった。


白い修道服みたいなものを着ている彼女は背中に白い羽をつけたらちょっとした天使に見えそうだ。



「あっ、その二人なら少し前に治ったって言って出て行きましたよ?体力事態はもどったみたいですけど、本当はもう少し休むべきなのに……むぅ……。アナタのお連れさんならもうちょっと休むように言っておいてくださいね!」



そう言った天使ちゃん――適当に命名――は、他の人に呼ばれて忙しそうにパタパタと――羽ではなく足音である――いわせて出ていった。


それはさておき、どうやらジョージとジャックは既に退院してどこかに行ってしまったらしい。


せっかく買ったんだけどなぁ……と思いつつ袋の中を見ると、中ではリンゴとバナナ、それと桃の味でぶどうの形をしたフルーツがおいしそうに詰まっていた。


仕方なく店へと戻ることに決めた聡介は、通りを自分の店に向かってゆっくりと歩いていく。


角を曲がり、自分の店が見える通りに入ると、聡介は店の前にジョージやジャック、エミリーの3人の姿を視界にとらえた。


早めに退院してまでなんで店に来ているのだろう、と疑問に思いつつも3人のもとへと歩調を早めて歩いていく。


やがて、3人も気付くと寄りかかっていた堅い石壁から背中を離す。


そして、果物の詰まった袋を抱えながら小走りになって3人のもとに着いた聡介は、ジョージとジャックに話しかける。



「二人とももう体は大丈夫なの?病院の人はまだ安静にしてなきゃダメだって言ってたよ?」


「あぁ、俺たちなら大丈夫だ。それよりも聡介、話があるんだが……」


「……まぁ立ち話もなんだし、とりあえず中に入ろうか。」



ジョージの表情から真面目な話をする雰囲気を感じ取った聡介は、落ち着いて話をできるように店内へ案内する。


『安全守る君』を開けた聡介は店内を進み、カウンターの前に椅子を3つ並べると、自分はカウンター裏に回って紅茶――日本茶は無い――を簡単に入れてカウンターの上に並べる。


紅茶を入れている間に席についていた3人は聡介に短くありがとうと言うと、聡介が席に座るのを待っていた。


聡介が果物の詰まった袋を下ろして席に座ると、ジョージがしゃべり始めた。



「で、話なんだが……。ソウスケ。俺たちは今回の戦いで全く歯が立たなかった……。剣技はともかく、俺達の武器なんかじゃ掠り傷を少しつけるだけしか出来なかった……。……悔しかった……!俺はジャックがやられるのを見ているだけだった!もう仲間は失わせない!タダ働きでコキ使ってくれてもいい!俺に最高の剣を打ってくれ!」



ジョージは悔しそうに表情を歪ませ、歯を食いしばり拳を握りしめていた。


仲間を大切にするジョージにとっては、一時的とはいえジャックを死なせたのが悔やんでも悔やみきれないものだったのだろう。


剣を打ってくれ!と言ったジョージの目には、仲間を失わせないという固い決意の炎が静かに揺らめいていた。



「僕も今回のことで力不足を悟ったよ。相手がドラゴンゾンビだったとはいえ、防戦一方でやられるのを待つしかなかった。……死ぬ瞬間は恐怖で泣きそうだったよ。僕は誰にもあの恐怖を味あわせたくない。だから……僕にも剣を打ってくれ、ソウスケ」



ジャックは実際に死ぬ瞬間に感じた恐怖を思い出したのだろうか、一瞬だけ体を震わせた。


しかし、顔をあげてソウスケへと頼んだジャックの顔からは恐怖の色は消えていて、その代わりに、覚悟を決めた戦士の顔が浮かんでいる。



「私なんて何も出来なかったわ……。ただ……泣いていただけ……。ジョージとジャックが頑張っていてくれなきゃ私なんて直ぐに死んでいた……。お願いソウスケ……。私にも力を頂戴……!」



そういったエミリーは泣きだしてしまいそうな表情で、今にも崩れてしまいそうだった。


俯いて、拳を膝の上でキュッと握り閉めている様子は、年相応のか弱い女の子にしか見えない。


しかし、最後に呟くように口にした言葉には、確かに力が籠っていた。


それぞれに決意を固めた3人を見た聡介は、この3人になら強力な武器を作ってもいいかもしれないと思い始める。


それはすぐに、自分が巻き込んだという負い目も重なり、3人に武器をつくろうという決意に変わった。



「うん、分かった。今僕が出来る範囲で最高の武器をつくるよ。」



そう告げた聡介の言葉を聞いた3人はありがとうと感謝の言葉を口にした。



「でも、鉄鉱石も魔鉱石も残りが少なすぎるんだ。このままじゃ3人分は作れない……。悪いんだけど、鉄鉱石と魔鉱石を取ってきてもらえないかな?」


「あぁそれぐらいお安い御用だ!すぐに取ってくる。待っててくれ。」



聡介の言葉を聞いたジョージはすぐさま取りに行くことを決めてジャックとエミリーを促して直ぐに店を出ていった。


3人が出ていった後、聡介は3人の武器をどうするのかという課題に頭を悩ませていた。


う~ん……と悩んでいる聡介の横顔は、それでも少し楽しそうに見えた。


その腰元ではクラウ・ソラスが淡く輝いている。


眩しく照りつける太陽はそろそろ南中に至ろうとしている。


6067文字!疲れた…。

自分土日にバイトをいれることになったので更新は今までよりも遅れます。

なるべく一週間に最低でも1回は更新したいなぁとはおもっていますのでなにとぞ…。

次回はジョージ、ジャック、エミリー達の武器作りと、御店再開のための商品作りです。

それでは、もうすでに恒例となってきた閉め言葉ですが…

次回をお楽しみに!

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