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廻る世界の錬金術師(元:面倒事が嫌いな錬金術師)  作者: 空想ブレンド
第一章:土の国ガーランド編
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―009― エミリーと照明作り

―009― 警備と照明作り



「いらっしゃ~い。今日からしばらくの間お願いします。」



店内に入ってきたジョージ達を招きながら、薄暗くなってきた店内に明かりをつける。


つけると言っても、まさか電気が有るわけではないので、当然ロウソクに火を灯す。


ロウソクが放つ火の光に電気のような明るさは無いが、そのぶん柔らかく優しい光なので、その光につつまれていると癒されるようだ。


最も、そう思うのは明るい電気の恩恵を受けてきた聡介だけであって、ジョージ達は、癒されるなんてことは思っていないみたいだ。



「夜ってイヤよねぇ……。こんなロウソク程度の光じゃ人影なんてそんなに見えないし、暗くて分かりづらいから『暗闇の狩人』なんてコソ泥がはびこるんだもの。」


「それに、夜行性の魔物もうっとおしいぜ。影からいきなり飛び出してくるし、獲物に気付かれないために足音とか消してるしな。夜行性の魔物の討伐依頼はきっついぜ…。」



エミリーとジョージが、ロウソクの僅かな灯りに照らされた店内を見回して愚痴る。


しかし、黙っていたジャックは意見が違ったようだ。



「そうかな?夜って月の光がすごくキレイだし、満天の星空なんて最高じゃないか。月明かりのもとで一人飲むお酒は格別だよ?」



……どうやら、ジャックはロマンチストらしい……と聡介は思った。



「ジャックってロマンチストなんだね~。……好きな人には月明かりの下で告白をする、とかって思ってそうだよね~。」


「あ、確かにそんな感じするかも!ねぇねぇ、ジャックってどんな告白するの?気になるんだけど!」



聡介が、ふと思いついて口に出した言葉に、すぐさまエミリーが食いついて言葉をつなげる。


エミリーはすでに恋バナモードに入ってるのかジャックから聞く気満々だ。


やはり、古今東西……異世界であっても、女の子は恋バナが好きなんだ、ということを改めて実感した聡介だった。



「な!?なんで君達にそんなこと言わなくちゃいけないんだよ!」



焦って顔を赤くしたジャックだが、それは、この場においては絶対にやってはイケナイタブー。


なぜなら、それは好きな相手がいるということと、同じ意味に取られかねないからだ。



「え!?いるの?誰誰?もしかして、酒場の看板娘のシャーリーちゃん?それとも、この間PT組んでたアンジェリカ?」



エミリーが言った中で、フローレンスは分からなかったが、酒場の看板娘のシャーリーちゃんとは、シャーリー・エリオットという19歳ほどの女性だ。


酒場のオーナーの娘さんで、よく店を手伝っている上にカワイイということで、看板娘と呼ばれて親しまれている。


酒場のおじさん達のアイドルであり、冒険者の出入りが多いために、若い男性冒険者に一目惚れされやすい人だ。


もちろん告白しようものなら、おじさん達が黙っちゃいないが、そうと知らない冒険者は後で裏に連れて行かれるらしい。


もしかしたら、ジャックも裏に連れて行かれるのかも知れない……。



「いやいや、もしかしたら冒険者ギルドの受付の『鉄壁のスマイル』のお姉さんかもしれんぞ!」


「んな!そ、そんなわけないだろ!なんで、そうなるんだよ!」



突然会話に参加したジョージだが、その答えは的を得ていたらしい。


ジョージの言葉に反応してゆでダコのように真っ赤になっているジャックをみればだれの目にも明らかだ。


ちなみに『鉄壁のスマイル』とは、いつも営業スマイルを崩さないことから、冒険者達の間で勝手に決められたらしい。



「え!?ジャックってばあのお姉さんがすきだったの!?まぁ確かにキレイではあるけど……壁は相当高いわよ~。だって、あの『鉄壁のスマイル』さんだもの……。」


「あ~もう!そうだよ!あの人が好きなんだ!そんなことよりジョージはどうなんだよ!」



からかわれ過ぎて諦めがついたのか、叫ぶようにして認めると、話を変えるためにジョージの方へと話をふった。



「ん?俺か?……俺はエミリーのことが、「いやよ」……うぅ……。」



ジョージ号は、エミリーの大砲によって穴を空けられて沈没した。



「私は……そうねぇ……。秘密♪」


「人のことだけ根掘り葉掘り聞いといてずるいぞ!」


「うるさいわね、女の子に秘密はつきものなの。ソウスケもそう思うでしょ?」



傍観に徹していた聡介にここにきてのまさかのキラーパス、聡介はただ頷くことしかできなかった。



「やっぱりそうよね~♪ほら、ソウスケもああ言ってるんだから、ジャックもきにしないの!」



ジャックは、理不尽だ……と言って崩れ落ちた。


その後聡介も加わり、4人はロウソクの光が満ちる店内でしばらく雑談に興じていた。




■□■□■□■□■□■□



「そろそろ警備の準備をしとくか。」



夜も遅くなり、ジョージの一言で雑談もほどほどにして、部屋を割り当てることになった。


3人は、聡介に連れられて階段を上っていく。


2階へと先についた聡介は、まずはジョージとジャックの部屋を先に紹介することにした。



「え~っと、ジョージとジャックはこの大きい方の部屋だよ。表通りに面した窓が一つと、扉が2つ。扉が2つあるのは、もともとこの部屋は展示スペースに使うものだったらしいからだよ。」


「あぁ分かった。……この間取りなら何か有った時もすぐに逃げ道を確保できるな。」



そういって、部屋の中に入って行ったジョージとジャックは、部屋の中に自分達の荷物をおろして寝る場所を確保した。



「ねぇ、ソウスケ。私の部屋はこっちかしら?」



隣の部屋を指さしたエミリーは聡介に自分の部屋の場所を聞いてきたので、エミリーのもとへと歩いていく。



「この部屋だよ。」



そこは、昨日まで聡介が寝ていた部屋だが、3人に警備の依頼をしたあと、ベッドは既に工房の中へと移しておいた。


今工房の中には、綿をシーツ――ベッドを作る時に買ったベージュ色の方――でくるんだ簡易ベッドがあるだけだ。



「あれ?これってソウスケが用意してくれたの?」



簡易ベッドのところまで歩いて、感触を確かめているエミリーが聞いてくる。



「やっぱり、女の子だし……堅い床で寝るよりは、ゆっくり休めるかなぁと思って……」


「ん~久しぶりに女の子扱いされたなぁ……。冒険者なんてやってると、女の子だからって特別視してくれることなんてないからね。わざわざありがとね、ソウスケ!」



頬をうっすら赤く染めながら、はにかんだ笑顔を浮かべたエミリーが聡介にお礼をいうと、聡介は自分の顔が赤くなっていくのを自覚した。



「そういえば、ソウスケはどこで寝るの?二階はこれ以上部屋無いみたいだし、一階も奥にあったのは工房でしょ?」


「僕は工房で寝るよ。工房の扉は分厚いから、破られることはまずないだろうしね。それに工房の中に倉庫があって、その中に商品や鉄鉱石を置いてるから盗まれないように監視することもできるからね」


「そっか……。一応言っとくけど、ソウスケが私達に遠慮する必要はないのよ?ソウスケが依頼人なんだからね」


「うん、わかってるよ。大丈夫。……じゃぁ下に降りるね」


「あ、私も一緒に降りるわ。2時間ごとの当番制に決めてて、私が一番最初に警備することになってるから」



聡介が一階に降りることを伝えると、エミリーも一緒についてくると言ったので、火を掲げながら階段を下りていく。


その際に、ジョージとジャックに就寝の挨拶を掛けておくことは忘れない。


ジョージは既に寝たのか、グゥとイビキを返しただけだったが、ジャックの方は、おやすみと短く返してきた。




ちなみに下の図は二階の間取りである。

挿絵(By みてみん)




「あ、僕はもう工房の中に入るけど、灯りいる?」


「今日は月明かりも結構あるし、いいわ。それに暗いのに目を慣らしておかないと、いざというときに動けないもの」



そういえば、エミリーの分の灯りが無かったと気づき、灯りをエミリーの方へ渡そうとする。


しかし、エミリーは受け取らずにそう言葉を返すと、店内の窓辺の方に歩いて行った。


窓辺に腰かけたエミリーの鎧に、月の光が当たって輝きを与える。


外をじっと見つめるエミリーは、昼間の明るい印象の時には感じられなかった魅力を持っていて、それを見た聡介は一瞬目を奪われた。


ぼうっとしている自分に気づき、いつまでもいるのは不自然だろうと思って工房の扉の方へと足を向けた。


工房の扉を開けた聡介は、エミリーに一言おやすみなさいと言って中へと入って行った。


柔らかな月明かりが差し込んでくる店内に一人残されたエミリー。



「いつまで冒険者をやってられるのかしらね……」



憂いを帯びた表情のエミリーは、呟くと視線を店内にむけた。



「でも……もうしばらくは、縛られない自由な猫のほうがいいな……」



そう言って、顔を月へと向けたエミリーに月の光が当たって、神秘的な雰囲気を作り出していた。


空に浮かぶ月は、強い輝きを放つ満月だった……。




■□■□■□■□■□■□


工房の中へと入った聡介が倉庫の中を覗いてみると、頑丈に鍵をかけた箱が目の前に鎮座している。


それは3人組が来たために急いで作ったものであり、鍵さえ壊されれば、呆気なく中の装備を取りだされかねない代物だった。


それを見ると、頑丈に鍵を掛けても盗まれてしまったルシフェリオンのことが頭によぎる。


あれを盗まれただけでもかなり致命的なミスだったが、もしオリハルコンの装備さえも盗まれてしまえば、いずれ確実に甚大な被害をもたらすことになるだろう。


剣を持って暴れまわる賊の姿を想像した聡介は、背中に冷たい物が流れるのを感じた。


今度は確実に盗まれないようにする。


そのためには、この時代にない技術、または誰にも真似できない技術が必要になる。


それをしばしの間工房の中のベッドに腰かけて考えた聡介は、一つの考えを思いついた。


その考えとはこういうものである。


まず、倉庫の中の全体を鉄の板で覆い、継ぎ目のない一つの大きな箱にする。


床には、これまた鉄製の箱で作った床下収納を、剣用と防具用、予備用、その他と、一つ一つに分けて作って行く。


その床下収納の上に、継ぎ目の無い鉄の板が載っているのだから、中の装備を取り出すときには、錬金術を使って一枚の鉄板に穴をつくりあげてから取りだすほかない。


鉄の板を溶かすのは相当な温度が必要になるうえ、これほどの巨大な鉄の塊を溶かすのはまず無理だろう。


これは、確実に聡介にしか取りだせない特製の金庫のようなものである。


そもそも、継ぎ目すらないのだから、この床下に伝説の金属を使った装備があるなどとは夢にも思わだろう。


とはいえ、倉庫の中の壁を見られたときに、全て金属では怪しまれかねないので、木の板を上から被せてカモフラージュしておく。


そうして出来上がった倉庫という名の『金庫』は、聡介の目から見ても分からないほどのものだった。



「よし、これで大丈夫……。あとは……あぁそうだ、ランプを作ろう。ランプは灯油ランプでいいかな。…たしか石油や、天然ガスの主成分は鎖式飽和炭化水素で、中でも灯油は炭素数が9~15の混合物だったはず。ってことは、C9H20~C15H32を適当に組み合わせればできるはずだよね……。炭素は……木炭を使おう。水素は外の井戸から水を汲んでこようかな。」



そういうと聡介は裏庭へ繋がる扉を押し開けて、井戸から水を大量に組んでくると、木炭の前に置いた。


置いた聡介だが、大量の水素や酸素が精製されることを思い出した聡介は、それらを再び外へと運び出した。



「引火なんかしたら目も当てられないや……。」



外にでた聡介は目の前に置かれた水と、木炭の上に手を重ねておく。


練成を開始すると、まず木炭から炭素だけを切り取りつつ、水からは水素のみを、酸素から切り離す。


余ったものは空気中へと放しつつ、炭素と水素だけを結合させていく。


頭の中で考えた構造をいくつもコピーして、その一つ一つを繋げていく。


練成がようやく止まって、最初に聡介が感じたのは、灯油独特の匂いだった。


水の入っていた入れ物には、既に無色透明の灯油がなみなみと入っている。


そのままでは、灯油が少しずつ揮発していくので、地面から大型の甕を練成して作りだす。


灯油を甕の中へと移し終わっても、まだまだ木炭は余っているし、甕の中も空いている。


灯油をつくる工程をなんども繰り返していくと、ついには甕いっぱいに灯油がたまった。


工房へと戻り部屋の隅に目を向けると割れた窓ガラスの破片が、まだ大量に残っていた。



「そういえば、あのガラスを使えばランプのガラス部分が楽に作れる……。」



それらを手元に持ってきて練成し、キレイな形をした灯油ランプを数個ほど作り上げる。


作りあげたランプの一つを、甕のところまでもっていき、ランプの中に灯油を少量いれてから、芯糸もいれていく。


芯糸に灯油がしみ込むのを数分間まってから糸に火をつけると、ロウソクよりもかなり強い光をランプが発した。



「やった!これで明るい照明を確保できたぞ!これで夜に作業するときも楽になる。」



灯油ランプ作りが成功したのを確信すると、聡介は喜びの声をあげた。


しかし、練成をするために長い時間集中していたために、すぐに火を消して寝ることにした。


その寝顔は、とても幸せそうに微笑んでいるように見えたのだった。


5288字です。灯油の部分は大分調べたので、そこまで大きな間違いは無いはず…。

まぁ間違っていたとしても、あまり気にしないで下さい(汗

今回は夜だけのお話でした。

でも、この話は縁の下の力持ち的な感じで役立てていく予定なので、一応おぼえといてほしいかもです。

それでは、次回もお楽しみに!(感想待ってます!…誹謗中傷以外でね!

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