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聞こえてしまった

〈田中視点〉

プリントを抱えて職員室から教室へ向かう途中、

3年6組の教室が見えた。


(あ、星野さん……)


窓際の席で、誰かと話している。

相手は水瀬みゆ。

二人は本当に仲がいい。


少し様子が気になって覗いてみた。

すると二人の声が耳に入った。


「……田中先生にね、今日の朝、褒められたの」


(……え?)


「今日、登校してすぐ廊下で会って……

『星野さん、今日も元気そうだね』って言われて」


胸の奥がくすぐったくなるような、

でも少しだけ申し訳ないような気持ちになる


たまたま声をかけただけ。

でも、星野さんにとっては特別な言葉だったらしい。


「でもさ、ひなちゃん。田中先生、ちゃんと見てるよ」


「……そう思う?」


「思う。だっえらひなちゃんの話するとき、田中先生いつも優しい顔してるもん」


(……ちょっと待って)


水瀬さんの言葉に、思わず心臓が跳ねた。


そんな顔、してたかな。

してたんだろうか。


自分で気づかないうちに、

星野さんのこと話す時だけ声が柔らかくなっていたのかもしれない。


(……いや、でも……)


元担任として、可愛い教え子として、

気にかけているのは当然だ。


そう思いながらも、

胸の奥がじんわり温かくなる。


そのとき、

扉を間違えて開けてしまった。


二人の視線が集中する。


「た、田中先生!?い、いつからそこに……!」


星野さんの声が裏返る。


私は慌てて笑顔を作った。


「え?今来たところだけど……」


本当は全部じゃないけど、ちょっと聞こえてた

なんて言えるわけがない


水瀬さんが、じっとこちらを見ている。

その目が、なんとなく「気付いてますよ」と言っているようで少しだけ気まずい。


「二人とも、仲良しだね。なんの話してたの?」


「な、なんでもないです……!」


「え、なんでもないの?」


「なんでもないんです!」


その反応が可愛くて、

つい笑ってしまう。


そして、

さっき聞こえてしまった言葉が胸に残っていたから、

私は自然と口にしていた。


「星野さん、本当にいつも頑張ってるね

……私、ちゃんと見てたからね」


星野さんの耳が真っ赤になる。


その姿を見て、

私はそっと胸の奥でつぶやいた。


(……星野さん、そんなに喜んでくれるなら……

もっとちゃんと見てあげないとね)

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