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VRゲームだと思って始めたら、ガチの宇宙戦争だった件について  作者: KEINO


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第12話

 視界のHUDに表示されるガイドマーカーに従い、俺はコロニーの最奥部、通称「エンドキャップ」と呼ばれる宇宙港のある区画へと足を踏み入れた。


 そこは、先ほどまでの楽園とは異なる、機能美を追求した空間だった。

 居住区画から続く通路は、まばゆいほどの純白に塗装されている。


 壁面にはパイプも配線もなく、ただ滑らかな曲線を描く強化樹脂のパネルが、無限に続くかのような奥行きを演出している。

 無音。

 無臭。

 まるで巨大な病院の廊下のような、潔癖すぎるほどの白亜の回廊。


 その突き当たりにある巨大なエアロックが、重々しい警告音と共に左右へスライドした。


「……なるほど。これが現場の雰囲気か」


 開かれた視界の先。

 広大なドックの中央に鎮座する鉄の塊を見て、俺は思わず口元を歪めた。


 そこには、一機の惑星降下用シャトルが駐機していた。

 全長三十メートルほどの、無骨な三角形のシルエット。

 だが、俺の目を引いたのはその形状ではない。

 

 その「色」だ。


 ピカピカに磨き上げられたドックの床や照明とは対照的に、その機体はひどく薄汚れていた。

 本来は白かったであろう耐熱タイルは、度重なる大気圏突入の高熱で焦げ付き、茶色や黒の斑模様を描いている。

 主翼のエッジ部分は塗装が剥げ落ち、鈍い銀色の地金が覗いている。


 所々に貼られた補修パッチは、歴戦の古傷のようだ。


 美しいコロニーの中で、そこだけが黒い傷跡のように異質だった。

 だが、今の俺にはその汚れこそが、最高に頼もしく見えた。

 この船は、何度も大気圏という宇宙との境界線をくぐり抜け、生還してきたのだという動かぬ証拠だからだ。


「おはようございます、アキトさん」


 シャトルのタラップの下で、タブレットを操作していたユイが顔を上げた。

 彼女は、機能的なパイロットスーツに身を包んでいる。

 その表情は硬い。

 昨日のような柔らかな笑顔は消え、これから死地へ向かう覚悟を決めた兵士の顔つきだった。


「待たせたな。……いい船だ」


 俺が機体の焦げ跡を見上げながら言うと、ユイは少し意外そうに目を瞬かせ、それから微かに微笑んだ。


「……ありがとうございます。古い型ですが、整備主任が手塩にかけてメンテナンスしてくれていますから。信頼性は折り紙付きです」


 彼女は手元の端末で最終チェックを済ませると、俺の義体を真っ直ぐに見つめた。


「武装なども積み込み済みです。準備は、いいですか? 」


「ああ。この綺麗なコロニーも見納めかと思うと、少し名残惜しいがな」


 俺は肩越しに、白亜の回廊を振り返った。

 その向こうにある、クリスタルの摩天楼と、管理された緑の楽園。


「また、帰ってきますよ。必ず」


 ユイの言葉には、自分自身に言い聞かせるような響きがあった。

 俺は無言で頷き、焦げ付いたシャトルの装甲を見上げる。


 ごくり、と。

 喉がないはずの義体で、仮想の唾を飲み込む音が聞こえた気がした。


 管理された平和ではなく、剥き出しの命のやり取りがある世界。

 俺のジェネレーターが、期待に震えるように重低音を響かせた。


 

 ーーー


 

 腹の底に響く振動と共に、シャトルがカタパルトへと固定される。

 俺は客席の狭いシートに、義体を無理やり押し込んでいた。

 義体用の拘束具が、ガシャンと肩と腰をロックする。


『発進シークエンス、開始。ゲート開放』

『進路クリア。降下軌道、計算終了』

『アマミヤ08、テイクオフ』


 ドックの気密ゲートが開く。

 その向こうには、吸い込まれるような漆黒の宇宙が広がっていた。


 ドォォォン!!


 背中を巨人に蹴飛ばされたような衝撃。

 強烈なGが全身をシートに押し付ける。

 シャトルは矢のように射出され、一瞬にしてコロニーから離脱した。


 舷窓の外を見る。

 遠ざかっていくコロニー「アマミヤ」。

 宇宙の闇に浮かぶその姿は、まるで繊細なガラス細工のようだった。

 回転するリング、輝く人工太陽の軸、そして内部に広がる緑と水の楽園。


 外側から見ると、それはあまりにも儚く、そして脆そうに見えた。

 あんな薄い殻一枚の中で、この世界の人々は平和を享受しているのだ。


 だが、感傷に浸る時間は数秒もなかった。


『重力圏、突入。突入角、修正――』


 機体が大きく傾く。

 視界いっぱいに、巨大な天体が迫ってきた。

 

 惑星N3。

 

 宇宙から見下ろすその星は、青白く美しいマーブル模様を描いていた。

 だが、近づくにつれてその表情は一変する。

 荒れ狂う大気の渦、分厚い雲海、そして雲の隙間から覗く、濁った地表の色。

 荒々しい原始の惑星。


 次の瞬間。


 ゴオオオオオオオオオオッ!!


 凄まじい轟音が機内を満たした。

 大気の壁にぶつかったのだ。


「おおっ……!?」


 窓の外が、一瞬にして紅蓮に染まる。

 プラズマ化した大気が炎の壁となり、機体を包み込む。

 断熱プレートが悲鳴を上げ、機体のフレームがキシキシと軋む音が、骨伝導のように直接響いてくる。


 振動が激しい。

 優雅な無重力の浮遊感は消え失せ、今はただ、暴力的な重力と振動の波に揉まれている。

 視界が小刻みに揺れ、警告ランプが明滅する。


「くくっ……こいつは凄いな!」


 俺は振動に揺すられながら、思わず笑い声を漏らした。

 怖い?

 いや、違う。


 この圧倒的な「リアリティ」こそが、俺が求めていたものだ。


 「ジェットコースターなんて目じゃないな。絶叫マシンの設計者は、一度このシャトルに乗ってみるべきだ」


 燃え盛る窓の外を見つめながら、俺はこの落下を楽しんでいた。

 魂が、重力に引かれて惑星へと落ちていく。


 その感覚は、とてつもなく熱く、心地よかった。


 


 永遠にも思えた灼熱の落下が終わる。

 ドンッ、という衝撃と共に減速が始まった。

 続いて逆噴射のスラスターが吠えた。

 窓の外に見えた紅蓮の炎が消え、視界が開ける。


 分厚い雲を突き抜けた先に待っていたのは、視界を埋め尽くす「緑の海」だった。


 眼下に広がるのは、鬱蒼とした原生林だ。

 数十メートル級の巨木が群生し、蔦が絡まり合い、生命が生命を押し潰さんばかりにひしめき合っている。


 コロニーの、あの定規で測って整列させられたような街路樹とは違う。

 無秩序で、野蛮で、そして圧倒的に力強い「本物」の大自然。


 その緑の海を、無理やり焼き払って作られた傷跡――それが、アマミヤ・インダストリアルの前線駐屯基地だった。


 原生林を切り拓き、コンクリートで固められた無骨な要塞。

 周囲を囲む高さ十メートルはある高いフェンスには、高圧電流の警告板と共に、森からの侵入者を防ぐための鋭利なスパイクが張り巡らされている。

 

 基地の四隅に設置された監視塔からは、昼間だというのに強力なサーチライトが旋回し、周囲のジャングルを油断なく睨みつけていた。


 あちこちにある工場の排気口からは、絶え間なく白煙と蒸気が噴き上がり、緑の木々と青い空を灰色に汚している。


 滑走路の脇には、伐採作業用のチェーンソーを装備した大型強化外骨格パワーローダーが数機、切り倒した巨木を担いでノシノシと歩いている。


 その関節部には泥と葉が詰まり、塗装は剥げ落ちて錆が浮いている。

 その奥には、装甲がひしゃげた戦闘車両や、整備中の多脚戦車が並べられている。

 どれもこれもが、泥と油にまみれていた。

 

 「美しい新品」など一つもない。

 ここにあるのは、自然という脅威に対抗し、生存圏を確保するために使い潰される道具たちだ。


 ズゥゥゥ……ン。


 地響きと共に、シャトルが着陸した。

 着陸脚のサスペンションが深く沈み込み、機体が停止する。


 『到着しました。外気圧正常。ハッチ開放します』


 油圧の音と共に、後部のカーゴハッチがゆっくりと下りていく。

 外気が、機内へと流れ込んでくる。


「…………」


 俺は嗅覚のセンサーを最大感度にした。

 匂い。

 コロニーの清潔な空気とはまるで違う。


 鼻孔を突く、濃厚な緑の匂い。

 草いきれと腐葉土の湿った匂い、名も知らぬ花の甘ったるい香り。


 それが、焦げたオイルや排気ガスの臭気と混ざり合い、強烈な「生命と鉄」の気配となって俺を包み込む。

 湿度が高い。

 ねっとりとした空気が、装甲にまとわりつくようだ。


 聴覚センサーには、金属音や整備兵たちの怒号に混じって、フェンスの向こうの森から響く、正体不明の鳥獣の鳴き声が届く。


「……濃いな」


 俺は『ナイトハウンド』の巨体を起こし、タラップへと足を踏み出した。


 カツン、と硬質な音が響く。

 足元の地面は、コロニーの鏡のような床ではない。

 雨上がりなのか、泥でぬかるんだ黒いコンクリートだ。


 俺が降り立つと、周囲の空気が少しだけ変わった。


 汗と泥にまみれて働く作業員、タバコをふかしながら休憩していた荒くれ者の傭兵たち、忙しなく走り回る作業用アンドロイド。

 彼らの視線が、一斉に俺――漆黒の異形へと注がれる。

 好奇心、値踏みするような目、あるいは畏怖。

 この泥臭いジャングルの前線基地において、ピカピカの黒い装甲を持つ『ナイトハウンド』は、あまりに異質だった。


 だが、俺は怯むことなく、むしろその視線を心地よく感じていた。

 俺は積み下ろされていた巨大な武器ケース――『村雨』と『オーガ・イーター』が収納されたコンテナのハンドルを掴んだ。

 キャスターを展開し、引きずるようにして歩き出す。


 重いキャスターの音が、滑走路に響く。

 センサーディスプレイの光点を、赤く、妖しく明滅させる。


「まるで映画のセットだな。……それも、コテコテのベトナム戦争映画みたいだ」


 俺は周囲を見渡し、満足げに呟いた。

 圧倒的な自然と、それに抗う鉄の要塞。


 俺の新しい身体は、あの綺麗なコロニーの中ではなく、命の濃い場所でこそ、真価を発揮するのだ。


 俺は地図データを確認し、待ち合わせ場所である基地中央の建物へと向かって、重厚な足音を響かせて歩き出した。

なろうは少ジャンルの区別が難しい。

この作品は宇宙だと思ってたけど、VRゲームでもあるからVRのほうかな、と悩み中。


なんかカクヨムと違って伸びない。

ジャンルのせいかと疑ってます笑


向こうじゃ、週間四位。

ブックマークももう少しで二千人なのに。


どっちのジャンルが良いか、ご意見があれば、コメントください。

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